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ティアナが久しぶりに実家の庭を歩いていると、足音がこちらに向かってきた。
「ティアナっ!大丈夫なのか?」
「……どうしてここに。」
アイザックだった。
「君が庭にいるのが見えたから。」
広い庭ではないため、誰が歩いているのかは隣の屋敷からでも見える。
「不法侵入では?……まぁ、以前の私はしょっちゅうでしたけれど。」
むしろ、エミール伯爵家に玄関から出入りしていたことの方が少ない。
生垣の隙間はティアナが使わなくなった後もまだ使えるらしい。
「マルセン伯爵家に戻ってきたのか?」
「いえ、まだそういうわけではありません。バーク家は捜査中ですので私が戻ると邪魔なのです。」
捜索が終われば、親族から話し合いに呼ばれるか、結論を聞くために戻ることにはなる。
オリヴィアは乳母や侍女が見てくれていると聞いている。
「ティアナ、さっさとあんな家とは縁を切って、俺と結婚しよう!!」
「……一年前までは相手にもしていなかったのに?ルークのためですか?」
「ルークも会いたがっているが、俺のためだ。俺はティアナをちゃんと見ていなかった。そのことはすまなかったと思っている。」
「別に構いません。私はあなたに恋愛感情があったわけではないので。」
ティアナがそう言うと、アイザックは顔をしかめた。
「いや、俺はティアナをもう子供だとも妹だとも思っていない。一人の女性として妻になってほしいと思っている。」
アイザックの妻として……
「申し訳ありませんが、私はもう表に出たいと思っていないのです。」
エミール伯爵夫人になれば、社交しなければならなくなる。
サイラスの妻として連れ回されては嘲笑と憐みの目で見られ、夫以外に体を穢されそうになった女。
アイザックの妻になってもその噂から逃れることはできないし、アイザックを体で篭絡した伯爵夫人と言われるかもしれない。
「元々、俺はあまり社交していない。だから最低限だけで構わないよ。」
いや、そうじゃなくて。
「私ではエミール伯爵家の名を落とすことになります。ルークのためにもそれはよくありません。」
「大丈夫だ。ルークは君が好きだし。」
じりじりと近寄ってくるアイザックから距離をとるように少し後退る。
アイザックの目がぎらついているように見えて怖かった。
「そうだ。今からルークに会ってくれ。喜ぶぞ。夕食も一緒にどうだ?何なら、泊まっていってもかまわないぞ。」
ティアナの全身を舐め回す目はディーゴンと同じに見えた。
その時、侍女ララの声が聞こえた。
「ティアナ様ー!」
ティアナは声を張り上げた。
「ここよ!庭にいるわ。」
異性と二人きりになってはいけない。
たとえ、自分の屋敷の庭でも。
迂闊だった。
ララの足音を聞きながら、ティアナは言った。
「エミール伯爵様、お帰りになってください。私はあなたの元へはまいりません。」
「……何が一番いいか、もう一度考えてみてくれ。俺ほどいい条件はないと思うぞ。」
アイザックはそう言って、帰って行った。
確かに彼の言ったことは間違ってはいない。
離婚歴のある庶子を妻にしたいという物好きは彼だけかもしれない。
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