愛人の娘だった私の結婚

しゃーりん

文字の大きさ
35 / 44

35.

 
 
ティアナが久しぶりに実家の庭を歩いていると、足音がこちらに向かってきた。


「ティアナっ!大丈夫なのか?」

「……どうしてここに。」 

 
アイザックだった。


「君が庭にいるのが見えたから。」


広い庭ではないため、誰が歩いているのかは隣の屋敷からでも見える。


「不法侵入では?……まぁ、以前の私はしょっちゅうでしたけれど。」


むしろ、エミール伯爵家に玄関から出入りしていたことの方が少ない。
生垣の隙間はティアナが使わなくなった後もまだ使えるらしい。


「マルセン伯爵家に戻ってきたのか?」

「いえ、まだそういうわけではありません。バーク家は捜査中ですので私が戻ると邪魔なのです。」


捜索が終われば、親族から話し合いに呼ばれるか、結論を聞くために戻ることにはなる。
オリヴィアは乳母や侍女が見てくれていると聞いている。

 
「ティアナ、さっさとあんな家とは縁を切って、俺と結婚しよう!!」

「……一年前までは相手にもしていなかったのに?ルークのためですか?」

「ルークも会いたがっているが、俺のためだ。俺はティアナをちゃんと見ていなかった。そのことはすまなかったと思っている。」

「別に構いません。私はあなたに恋愛感情があったわけではないので。」


ティアナがそう言うと、アイザックは顔をしかめた。


「いや、俺はティアナをもう子供だとも妹だとも思っていない。一人の女性として妻になってほしいと思っている。」


アイザックの妻として……


「申し訳ありませんが、私はもう表に出たいと思っていないのです。」


エミール伯爵夫人になれば、社交しなければならなくなる。

サイラスの妻として連れ回されては嘲笑と憐みの目で見られ、夫以外に体を穢されそうになった女。
アイザックの妻になってもその噂から逃れることはできないし、アイザックを体で篭絡した伯爵夫人と言われるかもしれない。


「元々、俺はあまり社交していない。だから最低限だけで構わないよ。」
 

いや、そうじゃなくて。


「私ではエミール伯爵家の名を落とすことになります。ルークのためにもそれはよくありません。」

「大丈夫だ。ルークは君が好きだし。」


じりじりと近寄ってくるアイザックから距離をとるように少し後退る。
 
アイザックの目がぎらついているように見えて怖かった。


「そうだ。今からルークに会ってくれ。喜ぶぞ。夕食も一緒にどうだ?何なら、泊まっていってもかまわないぞ。」


ティアナの全身を舐め回す目はディーゴンと同じに見えた。 


その時、侍女ララの声が聞こえた。


「ティアナ様ー!」


ティアナは声を張り上げた。


「ここよ!庭にいるわ。」


異性と二人きりになってはいけない。
たとえ、自分の屋敷の庭でも。

迂闊だった。


ララの足音を聞きながら、ティアナは言った。


「エミール伯爵様、お帰りになってください。私はあなたの元へはまいりません。」
 
「……何が一番いいか、もう一度考えてみてくれ。俺ほどいい条件はないと思うぞ。」


アイザックはそう言って、帰って行った。

確かに彼の言ったことは間違ってはいない。

離婚歴のある庶子を妻にしたいという物好きは彼だけかもしれない。 
 
 

あなたにおすすめの小説

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……

ぽんた
恋愛
「おれがおまえの姉ディアーヌといい仲だということは知っているよな?ディアーヌの離縁の決着がついた。だからやっと、彼女を妻に迎えられる。というわけで、おまえはもう用済みだ。そうだな。どうせだから、異母弟のところに行くといい。もともと、あいつはディアーヌと結婚するはずだったんだ。妹のおまえでもかまわないだろう」 この日、リン・オリヴィエは夫であるバロワン王国の第一王子マリユス・ノディエに告げられた。 選択肢のないリンは、「ひきこもり王子」と名高いクロード・ノディエのいる辺境の地へ向かう。 そこで彼女が会ったのは、噂の「ひきこもり王子」とはまったく違う気性が荒く傲慢な将軍だった。 クロードは、幼少の頃から自分や弟を守る為に「ひきこもり王子」を演じていたのである。その彼は、以前リンの姉ディアーヌに手痛い目にあったことがあった。その為、人間不信、とくに女性を敵視している。彼は、ディアーヌの妹であるリンを憎み、侍女扱いする。 しかし、あることがきっかけで二人の距離が急激に狭まる。が、それも束の間、王都が隣国のスパイの工作により、壊滅状態になっているいう報が入る。しかも、そのスパイの正体は、リンの知る人だった。 ※全三十九話。ハッピーエンドっぽく完結します。ゆるゆる設定です。ご容赦ください。

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

侯爵家の婚約者に手を出す意味、わかってます?

碧井 汐桜香
恋愛
侯爵令嬢ジョセリアは地味な外見をしている少女だ。いつも婚約者のアランとその取り巻きの少女たちに罵倒されている。 しかし、今日はアランの取り巻きは一人しかおらず、いつも無視を決め込んでいたジョセリアが口を開いた。

愛される女と利用される女 ~すぐ怪我する義妹と心配する王子、私はお見合いで何を見せられているのでしょうか~

夢窓(ゆめまど)
恋愛
スミッシィ公爵家のひとり娘ハーミヤは、王太子のお見合い相手に選ばれた。 しかし何度会っても、会話は天気と花だけ。毎回、王子の義妹が怪我をして乱入してお見合いは、途中で終わる。 断ったはずのプロポーズ。サインしていない婚約書類。気づけば結婚式の準備だけが、勝手に進んでいた。 これは、思い込みの激しい王子と、巻き込まれた公爵令嬢の話。

妹だけを溺愛したい旦那様は、いらない婚約者の私には出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます

睡蓮
恋愛
貴族令嬢であったリアナに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだオレフィス第一王子。しかしその後、オレフィスはリアナの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はリアナに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたリアナは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

小石だと思っていた妻が、実は宝石だった。〜ある伯爵夫の自滅

みこと。
恋愛
アーノルド・ロッキムは裕福な伯爵家の当主だ。我が世の春を楽しみ、憂いなく遊び暮らしていたところ、引退中の親から子爵家の娘を嫁にと勧められる。 美人だと伝え聞く子爵の娘を娶ってみれば、田舎臭い冴えない女。 アーノルドは妻を離れに押し込み、顧みることなく、大切な約束も無視してしまった。 この縁談に秘められた、真の意味にも気づかずに──。 ※全7話で完結。「小説家になろう」様でも掲載しています。