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しおりを挟む今後の身の振り方を考えつつ、王都の屋敷で過ごしているとオラン伯爵家から慰謝料が届けられた。
思っていたよりも多額だった。
やはり、不貞で妊娠、しかもそれが離婚に繋がったことから、慰謝料をケチって他家に悪く思われたくないからだと思う。
これで領地に家を買い、のんびり暮らしながら何か手仕事でも始めようかと考えた。
それを両親と兄夫婦に伝えると、領地に行きたいのなら領地の屋敷で仕事を手伝ってくれと言われた。
いつまでも王都で兄夫婦に面倒を見てもらうわけにもいかないので、その案を受け入れて両親と共に領地への屋敷へと向かった。
伯爵はまだ父だけど、王都の兄夫婦にほとんど任せている。
父が領地でやる仕事を、私が手伝う形になった。
ひと月ほど経った時、隣の領地のグリーン伯爵夫人がやってきた。
今でも母とはよく会っているらしい。
「ユーフィリア、久しぶりね。離婚して、落ち込んでいないかしら?」
「おば様、お久しぶりです。娘のリディアがいないのは寂しいですが、落ち込んではいません。」
「そう。元気そうで良かったわ。……ユーフィリアは24歳だったかしら?」
「23歳になったところですね。」
「そう。23歳。」
おば様は何か考え込んでいる。母と顔を見合わせて首を傾げた。
「ユーフィリア、うちの息子アディールを覚えているかしら?」
「ええ。お兄様と一緒によく遊んでいただきました。」
「アディールもね、少し前に離婚したの。
子供ができなくてね、嫁が実家に帰りたいってここ1年ほどはそればかりで。」
「そうだったのですか。ではまた縁談を?」
母がそう聞いた。私の年を聞いたということは、私の友人を紹介してほしいとか?
ほとんどの友人は結婚しているし、再婚するならもっと若い子の方がいいと思うけど………
「跡継ぎのためにはね、縁談を勧めるしかないんだけど、アディールが嫌がるの。
もし、子供ができない原因が自分にあるとしたら、嫁いできた女性が気の毒だって。」
少し前までは、妊娠しない原因は女性側にあると言われていた。
だけど、離婚後に再婚して妊娠する女性がいたり、新しい妻も妊娠しなかったりすると、男性側にも原因があるのではないかと言われ始めたのだ。
昔から、囁かれてはいた。だけど、男性が優位の時代にそれを指摘できなかったのだ。
女性も爵位を継げるようになった今、妊娠しないのは女性だけの問題ではないとの認識が公に広がり始めている。
「では、親戚から養子を?」
「それも考えているのだけれど………ユーフィリアにお願いがあって。」
「私に?何でしょうか。」
「アディールと再婚する気はないかしら?」
「アディール様と再婚?」
予想もしていなかったことに驚いた。
「ユーフィリアは出産経験があるわ。つまり、妊娠できる女性。
アディールと結婚して妊娠しなかったとしたら、アディールの方に問題があるとわかるの。
そうしたら、私も諦めて養子を迎えることができる。
その場合、ユーフィリアとアディールがその子を育てていってくれれば嬉しいと思って。」
ああ、なるほど。アディール様は真っ新な女性を悲しませるようなことをしたくない。
普通の親は、娘が跡継ぎを産めないかもしれないとわかっていて嫁がせはしない。
よほどの利益がない限りは。
それを思うと、出産経験があって離婚した私は、純潔で初婚の女性よりも扱いやすい。
子供ができなければ、養子を迎えて自分たちの子供にする。
離婚して行き場のない(こともないけど)私には有難い再婚話になるということだ。
「気を悪くしたかしら?ごめんなさいね。
だけど、ユーフィリアがお嫁に来てくれたら、アディールは嬉しいと思うわ。私たちもね。
子供ができても、できなくても仲良く暮らしていけると思うの。
考えてみてくれないかしら。」
「わかりました。なるべく早くお返事しますね。」
「ええ。よろしくね。」
私の答えはほぼ決まっている。
あとは両親がどう思うかだけ、一応確認しておきたいから。
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