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しおりを挟むアビゲイル・グレイ男爵令嬢。
彼女はある意味、有名人である。
有名な理由を知らないのは、親世代と誘惑される男たち。
誘惑されるのはボルトのような色欲に溺れそうな遊び人が多く、賢い遊び人たちはアビゲイルに見向きもしない。
口も尻も軽いような女に価値はないから。
愚かな男たちがアビゲイルの体に誘惑されて、浮気がバレて婚約破棄というのが学生時代の定番だったらしい。
『自分こそ、アビゲイルの最後の男になれるに違いない』
アビゲイルが原因で起こる婚約破棄を知っていても、アビゲイルに靡く男は多くいた。
それほどアビゲイルと付き合いたいと思う男は多かったのだ。
誘惑される男たちは気づいていないが、周りは次第に気づき始めた。
アビゲイルが狙う男たちの共通点を。
髪の色と目の色がみんな同じであるということを。
そう。アビゲイルが有名な理由は、狙う男の統一性。
それは、この国の貴族で一番多い色の組み合わせ。
多いといっても、誰も彼もがその色というほどでもない。
アビゲイルの好みと言われればそうなのかもしれない。
だけど、周りは次第に噂し始めた。
『誰の子供を孕んでも、あなたの子だと言うためだ』
例えば、アビゲイルが複数人を同時進行で付き合っているときに妊娠した場合、その中で一番条件がいい、あるいは正妻にしてくれる男を選べばいいのだ。
そんなアビゲイルにまんまと引っかかったのが、ボルトなのだろう。
20歳をとっくに過ぎたアビゲイルもそろそろ相手を定める必要があった。
遊び相手にはなれるが、専属の愛人にしてくれる男がいなかったから。
遊んでいる男の中で、未婚または妻と不仲である男に狙いを定めて妊娠する。
ボルトが結婚に怯んだら、次の男がいたかもしれない。
つまり、アビゲイルのお腹の子供はボルトの子供ではないかもしれない。
もちろん、ボルトの子供である可能性もある。
オラン伯爵夫妻はアビゲイルのことを知らなかったみたいだけど、一部の親世代は知っている。
いつか、噂を耳にするかもしれない。
『新しいお嫁さん、男遊びが激しくて有名だったけど、本当に息子さんの子供なの?』
それを聞いた伯爵夫妻は、子供がボルトに似ていても疑うかもしれない。
だけど、その時はもう手遅れ。
アビゲイルはボルトの嫁として知れ渡り、一部の貴族から伯爵家は嘲笑されることになる。
そんな家にリディアを置いておくのは嫌だと思った。
「大丈夫だ。リディアはお前の子供だとみんなが知っている。
何なら、リディアがオラン伯爵家を継ぐべきだと伯爵夫妻も思うかもしれない。
本当にボルトの子供かどうか、確かなのはリディアだけなんだから。」
「そう、そうよね。
オラン伯爵夫妻がアビゲイルのことを知ったら、産まれる子の出自を疑うわよね。
それに血筋的にもリディアの方が上だもの。あの子を大切にしてくれるわよね。」
「ああ。心配ない。
使用人や護衛の男も誘うような女だ。次に妊娠してもボルトの子かは怪しい。
何人産もうが、あの女を監禁でもしない限りボルトの子だと証明できないだろうから。」
さすがに将来の伯爵夫人の座を危うくしてまで不貞をしないのではないかと思ったけれど、ボルトに飽きればわからない。
リディアがアビゲイルの変な影響を受けて育たなければいいけれど、と少し不安になった。
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