5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん

文字の大きさ
4 / 33

4.

しおりを挟む
 
 
赤い薔薇を渡した。それでも受け入れられなかった求婚。

パトリックは自分が何をさせられているのか、疑問を持つようになった。

『ミルフィーナは本当にパトリックとの婚約を望んでいるのだろうか』 

これが最大の疑問だ。

パトリックは両親にも聞いた。


「僕は来年もミルフィーナ嬢に求婚しなければならないのでしょうか?」

「……エメット公爵夫妻はそれを望んでおられる。しかし、2度に渡る求婚拒否。何を考えているのか。」

「拒否っていう感じでもなかったわ?あれはそうね、楽しんでいたって感じかしら。」

「楽しんでいた?」


母が言うには、昨年、求婚を受け入れなかったにも関わらず今年も求婚にきたパトリックに、ミルフィーナは高揚感を得たのではないかということだった。
 
そしてまた同じことを経験したい。だから今年も『また来年、求婚してね』だったのではないか、と。

 
「本当なら今年は求婚を受けるつもりでいたということですか?」

「そうだと思うわ。でも、また試したくなった。そんなところじゃないかしら。」

「なら昨年はどうして?」

「おそらく、薔薇の色がオレンジ色ではなく赤が良かったっていうのは本当のことね。公爵夫人によると絵本の王子様が赤い薔薇で求婚していたらしいの。それと同じように求婚してもらいたくての『また来年、求婚してね』だったのだと思うわ。」


昨年のは単なる我が儘。今年のはいやがらせか?


「僕をからかっているってことでしょうか。」

「少し違うわね。ミルフィーナ嬢はあなたの気持ちは考えていないのかも。自分がそう望んだから。」


最悪だ。自分勝手すぎる。


「それでも来年も求婚しなければならないのですか?」

「お前には悪いが、もう逃げられないだろう。お前たちの婚約は既定事項として認知されている。お前への縁談の申し込みは無くなった。おそらく向こうもそうだろう。」

「そもそも僕は望んでいないのですが?」

「……格上からの打診だ。余程の理由がない限り断れない。」 


ミルフィーナはオリバー殿下の婚約者になりたくないと言ったのに?

理不尽でも政略結婚は貴族の常。
特に利益もない政略結婚らしいが、パトリックは受け入れるしかなかった。



問題は、ミルフィーナから言われたこと。

ルビーやガーネットで薔薇の形を作れと言われた。
 
どう考えても無理難題ではないか。
 

「ルビーやガーネットに限らず、宝石で薔薇のような花びらの多いものを形作っては輝きが台無しになってしまうわ。削るのは大変よ?それにある程度の大きさも必要になるし。うちはルビーやガーネットの産地ではなくってよ?
ガラスで十分じゃないかしら。」

 
母のその一言で、来年のプレゼントはガラス細工の薔薇にすることにした。

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

二人ともに愛している? ふざけているのですか?

ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」  婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。  馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。 「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」 「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」 「それは……大変ですね」  気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。    エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。 「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」 「そうだよ」 「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」  うん。  デレクは、姿勢をぴんと正した。 「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」 「はい」 「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」  エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。 「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」  違うよ。  デレクは笑った。 「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

理想の妻とやらと結婚できるといいですね。

ふまさ
恋愛
※以前短編で投稿したものを、長編に書き直したものです。  それは、突然のことだった。少なくともエミリアには、そう思えた。 「手、随分と荒れてるね。ちゃんとケアしてる?」  ある夕食の日。夫のアンガスが、エミリアの手をじっと見ていたかと思うと、そんなことを口にした。心配そうな声音ではなく、不快そうに眉を歪めていたので、エミリアは数秒、固まってしまった。 「えと……そう、ね。家事は水仕事も多いし、どうしたって荒れてしまうから。気をつけないといけないわね」 「なんだいそれ、言い訳? 女としての自覚、少し足りないんじゃない?」  エミリアは目を見張った。こんな嫌味なことを面と向かってアンガスに言われたのははじめてだったから。  どうしたらいいのかわからず、ただ哀しくて、エミリアは、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。  それがいけなかったのか。アンガスの嫌味や小言は、日を追うごとに増していった。 「化粧してるの? いくらここが家だからって、ぼくがいること忘れてない?」 「お弁当、手抜きすぎじゃない? あまりに貧相で、みんなの前で食べられなかったよ」 「髪も肌も艶がないし、きみ、いくつ? まだ二十歳前だよね?」  などなど。  あまりに哀しく、腹が立ったので「わたしなりに頑張っているのに、どうしてそんな酷いこと言うの?」と、反論したエミリアに、アンガスは。 「ぼくを愛しているなら、もっと頑張れるはずだろ?」  と、呆れたように言い捨てた。

処理中です...