父の幸せを壊したのは私

しゃーりん

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ある日、カティアナがロベルトに部屋まで送ってもらっていると、遠く離れたところで頭を下げる男性がいた。
確かにロベルトは辺境伯の息子ではあるが、この距離で頭を下げる使用人はいないので不思議に思った。


「ひょっとして、お知り合いの方?」 

「領民の一人だ。気にするなって言ってるのに、いつまでも恩を感じていやがる。」


イーリスから、ロベルトの腕は領民を守ったときに失ったのだと聞いたことがあった。

つまり、あの男性が? 


「俺が騎士になれなくなったから、代わりに自分が騎士になるって言って。」

「……騎士?」


騎士のようには見えなかったけど?


「だけど、獣に襲われた時のことを思い出して騎士になんてなれたもんじゃなかったから、アイツは料理人になった。」

「料理人……」


確かに、そんな恰好だったわね。


「年に四回、大きな獣狩りがあるんだが、そこで仕留められた獣をあの時の恨みを込めて解体することにしたんだと。」
 

それで、料理人ね。なんか、ちょっと面白い思考の人かも。


八年前、山に狂いダケが異常発生し、それを食べた獣が街を襲ったらしい。
偶然街にいたロベルトは、今にも咬みつかれそうになっていた少年を助けようとして自分の腕が犠牲になった。

片腕がなければ騎士になれない。

ロベルトは辺境伯の息子でありながら、騎士になることを諦めざるを得なかった。

とは言っても、やはり剣が苦手な子は兄弟に一人はいるものなんだとか。
そういった者は事務仕事に回るだけ。

ひと昔前のように、騎士になれなかった軟弱者と見下されることもない。

 
「ロベルト様、鍛えてますよね?」


騎士じゃないのに、すごく太い腕をしている。
剣を持ち歩いているし。


「獣だろうが賊だろうが、いつどこで出会うかわからないからな。身近にいる人を守れるように、だ。」
 

なるほど。
片腕がなかろうが、自分は誰かを守る側ということらしい。

素敵な人だな。

カティアナは純粋にそう感じた。
恋をしたとか、そんなんじゃない。
人としての姿勢に尊敬する思いだったから。


カティアナとロベルトはだんだん、友人のような関係になっていった。 


 
数か月後、カティアナは男の子を出産した。アレックと名付けた。

……エレイズ侯爵によく似ていると思った。 


「まあ~可愛いわ。レイバン、弟よ。」

「こら、イーリス。嘘を教えてはダメよ。本当の弟か妹はまだあなたのお腹の中よ。」
 

イーリスは第二子を妊娠中。
あと三か月もすれば生まれてくる。
カティアナがここに来てすぐ、年の近い子を産もうと子作りしてすぐにできた。


「弟みたいなものよ~。ここでは子育てなんて、ごちゃまぜなんだから。」


男であっても女であっても、ひとまず身を守る術は教え込まれるのがこの辺境の地らしい。
なので、使用人の子供たちも、小さい頃から一緒に遊び、学ぶという。
 

「あ、ロベルト様、抱いてあげて?」


カティアナは逃げようとするロベルトにアレックを抱かせたかった。


「無理だ。片手じゃ落としそうだ。」


甥のレイバンもそう言って抱かなかったらしい。


「大丈夫よ、座って抱いたら。今が一番、暴れないわ。」
 

ロベルトを座らせて、腕にアレックを乗せた。


「……小さい。あったかいな。」


ロベルトが子供を抱けば、結婚に興味を持つかもしれない。
カティアナとイーリスはそうなればいいな、と思っていたのだが、残念ながら思い通りにはならなかった。 

なぜなら、『アレックを我が子と思うから結婚なんかしない』とロベルトが言い出したからだ。
 
 
 
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