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しおりを挟む「ナターシャ!」
街で娘と買い物をしていると、知らない男性にいきなり腕を掴まれた。ナターシャ?
「おかーさま?」
近くにいた娘が走って私のスカートにしがみついた。
それを聞いた男性は、私の頬を叩いた。
「婚約者の俺じゃない男に抱かれたから行方を眩ましたんだな。阿婆擦れ女!
2年も必死でお前を探してた俺が馬鹿みたいだ。
お前の家から慰謝料を貰うからな。実家に連絡しておけよ?」
「え?あの……」
エリスの言葉を聞くこともなく男性は去って行った。
数日前にぶつけた腕を強く掴まれて、まだ痛みを感じる。
ナターシャ?それが私の名前なの?
あの男性が婚約者?
実家ってどこ?
聞きたいことがいっぱいあったのに、叩かれたことに驚いて声が出なかった。
せっかく自分のことがわかると思ったのに。
実家に連絡できるわけがないから、あの男性はまた来る?
それとも、あの男性が実家に私のことを知らせてくれる?
近くのお店の人に、ナターシャという女性を探しに来た人がいたら屋敷まで伝えてくれるように頼んだ。
私は辺境伯の屋敷でお世話になっている。
名前はエリス。辺境伯夫人に名付けてもらった。
娘の名前はカリン。これも辺境伯夫人に名付けてもらった。
2年近く前、辺境伯の領地の森で2人で倒れていたらしい。
目覚めたら記憶が何もなかった。荷物もなかった。
生後数か月だと思われるカリンを抱いていただけ。
その状態で見つかった。
文字も書けるし、テーブルマナーもわかった。
単に自分も周りの誰も知らないだけ。
夫人が言うには、平民にしてはマナーや所作が貴族並に綺麗らしい。
でも、失踪届の出ている令嬢はいない。
なので、没落令嬢か親が貴族だったか、侍女をしていたか。
多分、今は18歳くらい。2年前は16歳かな。
今は、カリンを育てながら夫人の侍女兼話し相手をしている。
怪しい私を雇ってくれて、とても感謝しているの。
屋敷に戻って、夫人に先ほどの男性の話をした。
そして、改めて判明したこと。それは………
カリンは私が産んだ子ではないということ。
2年前当時でも、そうではないかと言われていた。
カリンはまだ乳飲み子なのに、私に母乳が出る感じが全くなかったから。
カリンが私の子ではないということは、どこかで拾ったか預かったのだろうか。
辺境伯爵様たちは、カリンが私の子供ではないことも考え、念のために乳児の行方不明届も確認していたそうだけど、そちらも手掛かりはなかったと言った。
なので、犯罪性が認められないということで私とカリンを屋敷に置いてくれた。
あの男性は婚約者で2年前から私を探していたようだったし、カリンを自分の子だとは全く思っていなかった。
もし、妊娠を隠していたとしても2年前にカリンは既に生後数か月。
お腹が膨れてくる時期も考えると、あの男性とは3年近くは会わない期間が必要はず。
しかしあの男性は2年と言った。
つまり、私が妊娠していたという事実はないと判明した。
最近はこのままでもいいかと思いながら暮らしていたのに、家族がいるようだと思うと自分がどこの誰なのかをまた知りたくなってしまった。
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