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8.
しおりを挟むザイールはエリスが隣国に旅立ってからすぐに帰ってきていた。
「は?エリスが隣国の伯爵令嬢?」
なんで今頃わかるんだ?
「おそらくな。婚約者が見つけた後に少ししてから使用人が迎えに来た。」
「え?エリスには婚約者が?」
嘘だろう?
「ああ。だが、使用人たちが来たときは婚約解消したと言っていたな。」
よかった。
「では、エリスとの結婚は許してもらえますか?」
「……エリスはナターシャというらしい。伯爵家の跡継ぎだ。
ここで一緒になるのは難しいかもしれん。」
「跡継ぎ……兄弟はいないのですか。」
「姉がいた。ヴィルン伯爵家に嫁いでいた。だが、2年前に亡くなっている。」
「え?うちの国に?」
「そうだ。カリンは、もしかすると姉の子供かもしれない。
姉と一緒に娘も流行り病で亡くなったとされているが、カリンはエリスの姉に似ているらしい。」
「ヴィルン家が嘘をついたと?」
「よくわからんのだ。もし、カリンがヴィルン家の娘だとすると、どうしてエリスといたのか。
エリスはこの国を出て隣国に入国していた記録もある。
この国にいたのに、どうしてそんな記録があるのか。
ヴィルン家を調べ始めたところだ。」
「私も調べます。
エリスはもうここには戻らないのですか?」
「わからん。家に戻って記憶が戻っていたら、姉の件も思い出すはずだが。
カリンが姉の子供なら、伯爵家を継がせることもできるだろうし。
要するに、ヴィルン家を調べて何かわかるか、もしくはエリスが記憶を取り戻すか。
それがわかるまで、エリス自身もどうしたらいいかわからないだろう。」
「私は、エリスが伯爵家に戻るのなら、隣国に行きたいです。」
「ここはバーリーに任せる気か?」
「バーリーに跡継ぎは任せても、ここでエリスとカリンと暮らせたらいいと思っていました。
しかし、エリスが伯爵家に戻るというのなら婿入りできませんか?」
「伯爵家についても調べる必要があるな。
没落寸前や名ばかりの貴族だったとしたら、エリスを貰えばいい。」
使用人を見た限りでは、そんな感じはしなかったが一応調査は必要だ。
エリスと一緒に行かせたメイドや護衛たちにも調査させている。
「しばらく戻りそうになければ、会いに行っても構いませんか?」
「お前、そんなに会いたいのか。」
「もちろんです。ひと月も離れていたのに。」
「エリスに告白してないんだろう?」
「……いえ、すいません。王都に向かう前日に言いました。まだ婚約解消していないのに。
戻ってきたらエリスがいなくなっている気がして。……いなくなっていましたがね。」
「エリスは受け入れてくれたのか?」
「はい。」
本当か?隣国に旅立つ時にザイールとのことなど気にもしていなかったぞ?
それとも、誰か他の者に手紙でも預けたのか?
「婚約解消は円滑に進んだのか?」
「…いいえ。なかなか了承しなくて。
結局は彼女に恋人がいて、既に純潔ではないという話を侯爵にすることになりました。
侯爵は信じてくれなくて、医師まで呼びましたよ。すると、彼女は妊娠していました。
大事にしたくないので、予定通りに婚約解消で済ませてきました。」
「そうか。そっちの問題が片付いたならいい。
今、エリスの姉と娘を流行り病だと診断して死亡を確認した医師を探している。
ほかにも、エリスには侍女と護衛が国からついていたはずなんだ。
森で見つかったエリス以外、誰も見つかっていない。
まだ調査を始めたばかりだから、手伝ってくれ。」
「わかりました。」
エリスのためになることなら、早く手がかりをつかみたかった。
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