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しおりを挟む父が昔聞いた話の内容はこういうものだった。
ある令息と令嬢がいた。2人は幼い頃からの婚約者だった。
政略で結ばれた婚約だが、とても仲が良く結婚するのを楽しみにしていた。
結婚式まであと半年という頃、令息がある女性に声をかけられた。
同級生で男爵令嬢。もちろん顔は知っていたし話をしたこともある。
明るくて親切な女性という印象だった。
女性は、令息に『結婚まであと半年だそうですね。閨の経験がないままで大丈夫ですか?』とこっそり聞いてきた。
令息は、女性に『初めては彼女と一緒に経験すると決めているんだ』と恥ずかしそうに言った。
だが女性が、『初めて同士は失敗しやすいですよ。一度の失敗は後に響きます。男性が前もって経験するのはそういう理由があるからですよ』と言った。
この令息はいかにも奥手で経験がないことなど女性にはわかっていた。
令息は悩んだ。婚約者と初めてキスをした時も歯が当たって痛かった。
失敗が後に響くとはどういうことか。
不安になった令息は、その女性にどうなるのかを聞いた。
女性は、『一度失敗すると、二度目は焦るそうです。その焦りがまた失敗を呼ぶ。そして不能になるそうですよ』
そう囁かれた令息は、一層不安になった。
女性は、『女性と違って男性は初めてかどうかはわかりません。婚約者には初めてだと思わせて経験しておくことをオススメしますよ。よくあることです。そう、誰にでも』と追い打ちをかけた。
令息は、『こっそり娼婦に教えてもらうことにするよ』と言った。
しかし女性は、『娼婦は時々病気を持っています。それに誰に見られるかもわかりません。私が手伝います』と言った。
女性は、訳あって既に純潔を失っているから普通の結婚はできない。
学園卒業後は誰かの愛人になるだろうから、その前に令息を手伝いたいと言った。
令息は、この女性の申し出を善意からのものだと感謝して、関係を持った。
気持ちいいキスの仕方から、女性の体の感じるところ、攻め方、体位、達した後や行為後のケア方法など、一度だけのつもりが女性のアドバイスが次から次にと続き、15回ほど関係を持った。勉強のつもりだった。
そして卒業式直後、結婚式のふた月前に女性は婚約者の令嬢にバラした。
『彼に女の体を教えてあげたから初夜も楽しめるわよ。私は愛人になるからよろしくね』と。
令嬢は婚約者の令息に問い詰めた。
すると、令息は女性とのやり取りを話した。不安になった、と。
令嬢は、『全部、一緒に、初めてを経験するって約束したじゃない!』と泣いて怒った。
令息は、ひたすら謝り続けた。どうして女性の言うことを信用してしまったんだろう。
失敗するなんて決まっていないのに。事実、女性とは何の問題もなかった。
失敗したとしても婚約者となら乗り越えられたはずなのに。
そうだ。初めてを一緒に経験すると約束したじゃないか。
もし、浮気を知られずに結婚していたとしても、初夜で今更初めてのフリができないほど経験がある。
騙せるわけがない。誘いを受けた時点で裏切ったのだ。
もちろん、愛人にするなんて言った覚えはない。
愛人狙いだったのか仲を壊すことが目的だったのかわからないが、愚かだったのは自分だ。
結婚式を今更中止にするわけにはいかない。
政略結婚なのだから。
だけど、令嬢は納得がいかず、どうすればいいのか感情がぐちゃぐちゃだった。
そこに、従兄が相談に乗ってくれて仕返しすればいいと言った。協力すると。
令嬢は従兄と関係を持った。純潔を失った。結婚式までに数回関係を続けた。
もちろん、令息にも純潔でなくなったことは伝えられたが、令息は怒らなかった。
それでも、予定通り2人は結婚した。
結婚式も初夜も新婚生活も、思い描いていた楽しい幸せな時間とは程遠かったが、徐々にまた心を通わせ始めた。
しかし、すぐに妊娠して、出産。産まれてきた男の子はどう見ても従兄の子だった。
結婚後は従兄と体の関係はなかったが、結婚式直前まで関係があったためだった。
男側の浮気は両家とも知っていた。だが、女側の浮気は知らなかった。
自分の浮気が原因だからと、男は子供を育てるつもりだったが、両親が許さなかった。
結局離婚して、令嬢は修道院、子供は従兄に引き取られた。
従兄は既婚者だった。妻は男の子を産んでいなかったためだ。
離婚した男は再婚したが、不能になり養子をとった。
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