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しおりを挟むあの未知の毒の製造工場があった場所がバレたのは、ローザが子供の頃だったと彼女は言った。
おそらくローザは、毒の使い方は学んだが、主をどう選ぶかは学ばなかったのだろう。
「ローザ、お前のせいでデボラは”化け物”になった。」
「化け物?」
「肉親を殺す、あるいは殺す指示をするというのは、本来は最終手段のようなものだ。
それなのに、最初から母親を殺したデボラは、後は誰を殺そうが気にも留めないだろう。
むしろ、自分が願えばお前が殺してくれる。それが当然だと思っている。」
「あ……」
「妻が死んでから今までは、エステルの存在がデボラの歯止めになっていた。
しかし、そのエステルを殺したから、デボラの失態を庇ってくれる者はいない。
デボラは気にくわない貴族を”殺して”と指示し続けることになっていただろう。
毒はあと何人に使えた?そもそも、他者に毒を盛る機会をお前が怪しまれずに作れたか?
毒が無くなればお前が直接手にかけるしかないが、バレずに殺せると思うか?」
ただ毒を盛るだけの暗殺しかできないお前が、毒が無くなればどうするつもりだったんだ?
「デボラはそのうち、私や兄のケント、ケントの嫁も殺せと言い出していただろうな。
自分の思い通りにならなければ全員殺す。そんな”化け物”にお前が育てたんだ。」
「……そんなつもりでは。」
今更、そんなつもりではなかった、では済まされない。
幼い頃からローザに誘導されてきたデボラは、癇癪を起せば甘やかしてもらえて欲しいものは手に入ると家族相手で実証している。
しかし、それが他者にも通じると思っているのは間違いだ。
そこを、ローザもわかっていないのだ。
主が望めば殺せばいい。
だが、身内と違って簡単にはいかないのだ。
成功したとしても一回、同じ手だと二回目には気づかれてしまう。
ローザかサリーが捕まり、デボラの指示と判明する。
我がアドレー伯爵家が毒の出処だと疑われて、処分されただろう。
幼子を主として殺人を犯し、こうした先も読めないローザは暗殺者として失格だ。
「毒が無くなって暗殺ができなくなったお前たちをデボラはどうしただろうな?
”役立たずは死ね”と言って追い出したかもしれないな。
お前が主としたデボラは、簡単にお前を切り捨てる情のない”化け物”なんだから。」
「そんなはずは……」
「デボラが幸せであれば喜んで死ぬとさっき言ったじゃないか。
主に命じられて死ぬのは本望だろう?それとも、感謝も情もなく死ねと言われるのは不満か?」
それは暗殺者の矜持ではなく、私情で自己満足というだけだ。
「まぁ、それはもしかしたらあったかもしれないという話だ。エステルが身をもってそうなる未来を阻止してくれた。
お前たちは秘密裏に処分され、デボラも死んだことにでもして隔離療養することになるな。」
ローザに植え付けられた性格が矯正できるかはわからない。
ただ、母と姉を自分が殺したのだと悔いてほしい。
甘い考えだろう。
だが、ローザもある意味、被害者だったと思いたいのが最後の親心だ。
ただし、期限は決める。
”化け物”は長く飼い続けると危険だ。
定めた期限までに、覚悟を決める必要がある。
もしも万が一にも、デボラが善悪の判断を身に着け、良識のある人間になれれば、修道女になって母と姉に祈りを捧げてほしい。
そんな一縷の望みをかけようとしたが、デボラの部屋に向かった時に、そういうわけにはいかなくなった。
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