3 / 42
3.
両親はダイアナが記憶を失ってからのことを話してくれた。
* * *
【一年前】
ダイアナは目覚めると困惑した。
「ここはどこかしら?わたくしは、誰?」
大きなベッドで一人、眠っていたらしい。
嗅ぎなれない匂いが一瞬だけした。
「おはようございます。ダイアナお嬢様。」
扉をノックして入って来たのは侍女。
そう。彼女が侍女だとはわかる。
しかし、彼女の名前もわからなかった。
「あなたはどなた?わたくしは、ダイアナと言う名前なのかしら?」
そう言うと、侍女は真っ青な顔になった。
「リ、リサです!ダイアナお嬢様、お忘れですか?」
「あなた、リサというのね。わたくしはどういう立場の者なのかしら。」
リサはダイアナの侍女。
そしてお嬢様というからには、ダイアナはまだ未婚の令嬢なのだろうという予想はできた。
「ダイアナお嬢様は、このクロスフォード公爵家のご令嬢でございます。」
「クロスフォード公爵家。そうなのね。」
公爵家と聞き、貴族階級の頂点であることもわかった。
そんな知識は出てくるのに、家族の誰のことも思い出せなかった。
「ねぇ、リサ。わたくし、誰のこともわからないわ。なぜなのかしら。」
どうすればいいのか、わからなかった。
「お医者様を……、その前に、旦那様にもお伝えして参ります。ダイアナお嬢様はここにいていただけますか?」
「わかったわ。でも、着替えていいかしら?何だかこのままでは落ち着かないわ。」
夜着姿をなんとかしたい。
医者や家族であっても、重病人でもないのに夜着姿を見られるのははしたないと感じてしまうから。
「あ、かしこまりました。すぐにご用意いたします。」
リサはダイアナにワンピースを着せ、身なりも整えてくれてから、部屋を出て行った。
改めて自分の姿を鏡で見てみると、そこそこ大人であることもわかった。
本棚にある学園の教科書を手に取って見ると、疑問に思うことはなかった。
文字は読めるし、知識は失っていない。
人に関することだけ、忘れているらしい。
「どうして忘れてしまったのかしら。」
ダイアナは首を傾げた。
少しして、リサが戻ってきた。
「まもなく旦那様がお越しになります。お茶をお入れしますので、どうぞこちらに。」
リサはダイアナをソファに案内した。
「旦那様って、わたくしの父のことで合っているかしら?」
「はい。ダイアナお嬢様の御父上でございます。」
「わたくしは何と呼んでいたのかしら。お父様?」
「そうでございます。旦那様のことはお父様、奥様のことはお母様とお呼びでございました。」
「そうなのね。私に兄弟はいるのかしら?」
「はい。4歳下にアルファス様という弟君がおられます。アルとお呼びでございました。」
4歳下にアルファスという弟がいるのね。
「そういえば、わたくしは何歳なのかしら?」
「ダイアナお嬢様は先日17歳になられたばかりでございます。」
17歳ね。そのくらいだと思っていたわ。
リサに自分のことを聞いていると、部屋の扉がノックされて開けられた。
あなたにおすすめの小説
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
妹だけいれば、婚約者の私の事なんてどうでもいいと言われました
睡蓮
恋愛
フォルトガ第一王子はサテラとの婚約関係を有していながら、何をするにも自身の妹であるセララの事ばかりを優先していた。ある日の事、セララによってそそのかされたフォルトガはセララの頼みを聞くがままにサテラの事を婚約破棄、追放してしまう。しかし実はセララはフォルトガの事は何とも思っておらず、王宮騎士であるノーグの事が好きで、彼に近づくために婚約破棄を演出したに過ぎなかった。しかし当のノーグが好きなのはセララではなくサテラの方であり…。
夫は私を愛していないらしい
にゃみ3
恋愛
侯爵夫人ヴィオレッタは、夫から愛されていない哀れな女として社交界で有名だった。
若くして侯爵となった夫エリオットは、冷静で寡黙な性格。妻に甘い言葉をかけることも、優しく微笑むこともない。
どれだけ人々に噂されようが、ヴィオレッタは気にすることなく平穏な毎日を送っていた。
「侯爵様から愛されていないヴィオレッタ様が、お可哀想でなりませんの」
そんなある日、一人の貴婦人が声をかけてきて……。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。