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しおりを挟む両親はダイアナが記憶を失ってからのことを話してくれた。
* * *
【一年前】
ダイアナは目覚めると困惑した。
「ここはどこかしら?わたくしは、誰?」
大きなベッドで一人、眠っていたらしい。
嗅ぎなれない匂いが一瞬だけした。
「おはようございます。ダイアナお嬢様。」
扉をノックして入って来たのは侍女。
そう。彼女が侍女だとはわかる。
しかし、彼女の名前もわからなかった。
「あなたはどなた?わたくしは、ダイアナと言う名前なのかしら?」
そう言うと、侍女は真っ青な顔になった。
「リ、リサです!ダイアナお嬢様、お忘れですか?」
「あなた、リサというのね。わたくしはどういう立場の者なのかしら。」
リサはダイアナの侍女。
そしてお嬢様というからには、ダイアナはまだ未婚の令嬢なのだろうという予想はできた。
「ダイアナお嬢様は、このクロスフォード公爵家のご令嬢でございます。」
「クロスフォード公爵家。そうなのね。」
公爵家と聞き、貴族階級の頂点であることもわかった。
そんな知識は出てくるのに、家族の誰のことも思い出せなかった。
「ねぇ、リサ。わたくし、誰のこともわからないわ。なぜなのかしら。」
どうすればいいのか、わからなかった。
「お医者様を……、その前に、旦那様にもお伝えして参ります。ダイアナお嬢様はここにいていただけますか?」
「わかったわ。でも、着替えていいかしら?何だかこのままでは落ち着かないわ。」
夜着姿をなんとかしたい。
医者や家族であっても、重病人でもないのに夜着姿を見られるのははしたないと感じてしまうから。
「あ、かしこまりました。すぐにご用意いたします。」
リサはダイアナにワンピースを着せ、身なりも整えてくれてから、部屋を出て行った。
改めて自分の姿を鏡で見てみると、そこそこ大人であることもわかった。
本棚にある学園の教科書を手に取って見ると、疑問に思うことはなかった。
文字は読めるし、知識は失っていない。
人に関することだけ、忘れているらしい。
「どうして忘れてしまったのかしら。」
ダイアナは首を傾げた。
少しして、リサが戻ってきた。
「まもなく旦那様がお越しになります。お茶をお入れしますので、どうぞこちらに。」
リサはダイアナをソファに案内した。
「旦那様って、わたくしの父のことで合っているかしら?」
「はい。ダイアナお嬢様の御父上でございます。」
「わたくしは何と呼んでいたのかしら。お父様?」
「そうでございます。旦那様のことはお父様、奥様のことはお母様とお呼びでございました。」
「そうなのね。私に兄弟はいるのかしら?」
「はい。4歳下にアルファス様という弟君がおられます。アルとお呼びでございました。」
4歳下にアルファスという弟がいるのね。
「そういえば、わたくしは何歳なのかしら?」
「ダイアナお嬢様は先日17歳になられたばかりでございます。」
17歳ね。そのくらいだと思っていたわ。
リサに自分のことを聞いていると、部屋の扉がノックされて開けられた。
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