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しおりを挟むケビンがカトリーヌに、夫婦生活を始めたいと言うと、彼女は嫌悪感を露わにした。
兄の娘マリアンナが伯爵家の跡継ぎになるにしても、カトリーヌにはもう一人、伯爵家のために子供を産んでもらいたい。
ケビンの妻になったのだからカトリーヌが産むべきなのだが、ケビンの誘いを『気持ち悪い』とさっき彼女は言った。
以前、子供に関して母が同じようなことを言ったが、あの時は泣き出したことを思い出した。
まるで愛した兄の子しか産む気はないというような様子だったが、あれは演技だろう。
一緒に暮らして感じたが、カトリーヌが兄を愛していたようには思えないからだ。
別に体を繋げるからと言って、夫を、妻を、愛さなければならないわけではない。
それでも、ケビンの妻であるからにはカーマイン伯爵家のためにもう一人産む努力はするべきだろう。
それが貴族の妻としての務めなのだから。
にも関わらず、カトリーヌにその気はないようだった。
「あなたの子なんて産むわけがないでしょう?そんなことしたら、あなたはマリアンナじゃなくて自分の子を跡継ぎにするに決まってるわ。それに、男の子が生まれたら親族もマリアンナよりもその子を跡継ぎに推すもの。絶対に嫌よ!」
男子継承優先であるこの国では、確かにその可能性もある。
ケビンはマリアンナが継げばいいと思っているが、周りはそう思わないかもしれない。
しかし、カトリーヌにとってはどちらも自分が産む子になるというのに、どうしてそんなに嫌がるのか。
兄を愛していたからだとすればまだ納得できるが、今となってはそれは微塵も感じられない。
ひょっとして、彼女は男嫌いなのか?
あるいは元婚約者を忘れられないのか?
男が浮気相手を妊娠させたことで婚約破棄になったらしいが、未練がある?
男嫌いか、元婚約者への未練か。……いや、しっくりこないな。
よくわからない。
「だが、子供二人以上が推奨されている理由はわかっているよな?」
ひと昔前に比べると死亡率は下がったが、5歳以下の子供が病気になると大人よりも重症化しやすい。
他にも、跡継ぎに相応の能力がないと判断されることもある。
そうなると、やはり次の跡継ぎの座は弟妹に移るものだ。
ケビンの子をカトリーヌが産んでくれないとなると、叔母の子供あるいは孫がカーマイン伯爵家を継ぐことになるだろう。
「大丈夫よ。マリアンナは大切に育てられるもの。」
それは当たり前のことだ。
「じゃあどうして俺と結婚したんだ?マリアンナの母という立場だけでよかったじゃないか。」
「それだけじゃ、社交界に招待されにくいでしょう?未亡人だとパートナーが必要になるし、相手がコロコロ変わるとここで暮らしにくくなっちゃうわ。マリアンナにとってもよくないでしょうし。」
実家に出戻るよりもマリアンナを産んだことを盾に、ここで暮らした方が待遇がいいのはわかる。
それと社交界に顔を出したいがために、俺との結婚が都合よかっただけなのか。
これ以上、何を言っても無駄なようだ。
「わかった。じゃあ、俺が外で発散してきても文句を言うなよ?」
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最悪な女と結婚してしまった。そう思わずにはいられなかった。
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