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しおりを挟むミシュリー未亡人と最後に会ってからひと月が経とうとする頃、彼女から誘いがあった。
ケビンは指定された日時にいつもの宿へと向かったが、部屋にいたのはミシュリーではなくジュリアだった。
「ジュリア?どうして君が。」
ジュリアがいたことにも驚いたが、ジュリアの様変わりにもケビンは驚いていた。
艶やかな髪と輝くような肌、薄化粧なのに血色がいい頬。
やや痩せていた頬と体は健康的になり、メリハリのある肉体がワンピースを着ていてもわかった。
「ケビン様、私をあなたの愛人にしてくれないかしら。」
そういうことか。
このひと月、ジュリアはミシュリーの家に住み込んで家事を覚えていただけではないのだ。
彼女を魅力的にするために、磨いていた時間でもあったのだ。
ミシュリーがジュリアを差し出すような真似をしたということは、彼女はケビンとの関係を終わらせるということだろう。
いつか終わりが来るのはわかっていたが、こんな形だとは思ってもみなかった。
「ジュリア、俺の愛人になりたいのは君の意思なのか?ミシュリーの指示だと言うなら俺は君を受け入れるつもりはない。」
「私の意思よ。」
「……わかった。君を俺の愛人にしよう。だが、使用人は付けないし部屋はあそこのままだ。それでもいいのか?」
ジュリアは伯爵令嬢なのだが、まるで平民の愛人のような囲い方しかケビンはするつもりがない。
自由に使える金はあるが、次期伯爵にはしないと言われているため、愛人のための家と使用人費用に伯爵家の財産を使っていた知られたときに返還を求められると面倒だからだ。
それが嫌なら、今のジュリアの姿なら、裕福な貴族の愛人になれる可能性もあるため、ミシュリーに頼めばもっといい男がいるだろう。
「構わないわ。私はあの部屋で暮らして、自分のことは自分でして、あなたが来てくれるのを待ちたい。」
ジュリアの目を見て、言葉を聞いて、彼女がケビンに好意を持っていることに気づいた。
それが、彼女を助けたことによる感謝の気持ちからなのか、純粋な恋愛の気持ちからなのかはわからなかったが、それはもうどうでもよかった。
ジュリアが愛人になりたいと言い、自分は魅力的なジュリアを抱きたいと思っている。
悩む必要も、断る理由を探す必要も、どこにもなかった。
ケビンはジュリアを引き寄せて、ゆっくりと顔を近づけた。
キスから逃げる素振りがあれば、今ならまだなかったことにしてやろうと思ったが、ジュリアはむしろ顔を寄せてキスを望んできた。
それならばもう遠慮はしない。
ケビンは軽く唇を何度か合わせた後、彼女の口の中に舌を割り入れて絡ませた。
ジュリアは深いキスの経験がないのだろう。
少し戸惑っているような舌が可愛いと思った。
ベッドの上に移ってからも、元夫に丁寧に触れられたことなどなかったからか戸惑ったり驚いたりしていたが、初めて絶頂を経験したらしいジュリアは感度も良く、体の相性はとても良かった。
自分だけの愛人、というか、恋人だろうか。
ケビンはジュリアのことを、誰よりも大切な存在を見つけたように思えた。
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