28 / 36
28.
しおりを挟む王太子殿下は、この部屋の本来の主人である男に書記官として同行するように命じた。
爵位の継承に関わるこの部署で、最初に応対した男の上官である。
彼は一言も口を開かないまま、ずっと我々と王太子殿下が話しているのを聞いていた。
急に命ぜられても大して驚いていない。
彼、というか、各部署の上官たちは、王太子殿下のこうした言動に慣れていそうだと思った。
「殿下、まさか、今からカーマイン伯爵家に?」
「善は急げと言うだろう?」
「面白がっているようにしか見えませんがね。
申し遅れました。フィリップ・カイゼルです。確かに、話を聞いていた私が同行した方がいいでしょう。
そして思い通りに話が進めば、ケビン殿は現伯爵からの継承で問題ないかと思います。」
母から祖父に、祖父からケビンに、という恥ずべき継承にはならずに済みそうだ。
汚点として後世に残らずに済むのであればその方がいい。
「あ、親子鑑定の道具も必要だな。」
そうだった。
マリアンナが父の子であるかを確かめなければならない。
こうして、ケビンは祖父と、王太子殿下はカイゼルと一緒に馬車に乗り込み、カーマイン伯爵家へと向かった。
屋敷に着くと、突然の帰宅に執事や使用人、そして母が慌てて出迎えた。
母は、王太子殿下と祖父もいることで、何か察したような顔をした。
「母上、父上はどこに?」
「あの人は……おそらくカトリーヌの部屋ではないかしら。」
ケビンが領地に向かってからずっと、父はカトリーヌと過ごしていたのではないか。
今までケビンが気づかなかったは、父がケビンには悟られないようにしていたのだろう。
「いいね。現場を確認しに行くか。」
王太子殿下は間違いなく楽しんでいる。
しかし、現場を見れば離婚しやすくなるのは確かだ。
カトリーヌの部屋に向かい、一応、扉をノックしたが返事はなかった。
寝室だと聞こえないか?
そうだろうと思いながら扉を開け、寝室の扉も耳を澄ませてから開けると、父とカトリーヌは裸で抱き合って眠っていた。
情事真っ最中でなくてまだよかったと思うべきか。
それでも、情事の後の匂いがプンプンする。
自分の父親と、一応、戸籍上はまだ妻のそんな姿を見ても、何とも思わなかった。
強いて言えば、ベッド毎、この二人が消えたらスッキリしそうだというくらいで。
「え……!?何、きゃあっ!あっち行ってよ!!」
カトリーヌが人の気配で目を覚ましたが、ケビンに母、祖父、王太子殿下だと認識できただろうか。
裸の体を隠す物を探して、ベッドの下に落ちている上掛けを見つけ、スッポリ被った。
「王太子殿下、妻と父の不貞を確認しました。」
「うん。そうだね。びっくりだよ。伯爵もケビンも離婚したらどうかな?」
王太子殿下はわざとらしくそう言った。
「ええ、もちろんです。母上も、そうしますよね?」
「え……?ええ。離婚、してもいいのよね。」
父の言いなりだった母は、戸惑いながらそう答えた。離婚はできないと思っていたのだろうか。
それにしても、父はまだ寝ている。
943
あなたにおすすめの小説
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
お飾り妻は天井裏から覗いています。
七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。
何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?
遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言
夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので……
短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
このお話は小説家になろう様にも掲載しています。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します
nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。
イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。
「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」
すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。
あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」
「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」
「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」
「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」
あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。
「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」
うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、
「――俺のことが怖くないのか?」
と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?
よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる