駆け落ちの事実などありません。

しゃーりん

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8.

 
 
5日後、チェイス男爵領に着いた。


「アリーシャ、ニックに頼んで一足先に働かせてもらえないか聞いてくるよ。住む場所も必要だし。だから、ここで待っていてくれないか?」
 

宿の部屋でロベルトにそう言われ、アリーシャは頷いた。

本来であれば、働き始めるのはもう少し先の予定が、卒業した足でそのまま男爵領に来てしまったことで、しばらく待たなければならない。
だが、宿に泊まり続けるよりも使用人宿舎に入った方がお金もかからないからと言う。

アリーシャはその辺のことはよくわからないため、ロベルトに任せた。




ロベルトは夜遅くに戻ってきた。


「明後日から働けることになったよ。明日の昼過ぎには宿舎に入れるみたいだ。だから必要なものを買いに行こう。」
 
「よかったわ。」


宿は落ち着かない。
アリーシャは毎日寝不足だった。

 
「結婚の手続きもしないとな。それで、アリーシャは、名前を変えてくれないか?」

「え……?」

「伯爵が探しているかもしれないだろう?アリーシャと呼ばれている女性がいれば誰かが確認に来るかもしれない。だから、エリーとかどうだ?」


エリー……響きは似ているけれど、両親がつけてくれた名前を変える?

 
「俺たちはさ、平民になるんだから新しい出発だと思って、な?」

「……そうね。」


平民になる。
それが現実だと思った。

駆け落ちでなければ、アリーシャもロベルトも貴族であり、貴族同士の結婚なので貴族扱いになる。
だが、親に認められないため貴族籍を抜けて、平民として結婚することになるのだ。

つまり、給金も平民扱い?
ロベルトはわかっていて、駆け落ちを実行したのか不安になった。

しかし、今更どうにもならなかった。



翌日、午前中に結婚の手続きをした。
二人とも貴族籍から抜ける書類にサインをし、平民のエリーとしてロベルトと結婚した。


「おめでとうございます。」


書類を渡すと形式的な言葉が返ってきたが、初めての祝福の言葉に嬉しくなった。


「エリー、絶対、幸せにするからな。」


ロベルトが愛してくれている。

それだけが、平民エリーとして信じられることであり、これからの暮らしの希望でもあった。

 

日常生活に必要なものを買い、宿舎に向かった。


「新しい人ですね。聞いていますよ。部屋はこちらです。」


案内された部屋に向かい、鍵を開けて中に入った。
驚くほど狭く、使い古された部屋。
これが現実で、これから暮らす場所だった。
 

「部屋はここ以外に二部屋だな。寝室と子供部屋か。」


ロベルトはさほど驚いていない。
彼は学園でも寮生活で、しかも平民と一緒の一番下のランクの寮だと言っていたから、ここと似たような古さだったのかもしれない。

夕食は街で食べ、ついでに足りないものを買い足して、部屋に戻った。


そして夜、二人は初めて結ばれた。

 
 

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