駆け落ちの事実などありません。

しゃーりん

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16.

 
 
アリーシャは強引さに弱い。
そのことを、イザークは見抜いていたらしい。
 

「僕は君がそばにいてくれるだけでも幸せだと思っている。もちろん、君を抱きしめて眠れたら、体を繋げることができたなら、もっと幸せを感じるだろう。そして夫として君にそれを望めば君は応えるだろう?」

「ええ。結婚したのですから。」


それが普通のことではないの?
なのに、イザークは首を横に振った。 


「僕はね、アリーシャの意思で僕と体を繋げたいと思ってほしい。夫婦だからって君が望まないことを強要するつもりはないんだ。僕を嫌わないで、これまで一緒に過ごしてきたような毎日を送れるのであれば十分に幸せだと思っている。」

 
アリーシャが望まないのであれば、この二か月と変わらない暮らしを今後も送ることになる。

イザークは今のままで幸せだと言ってくれている。

アリーシャも、それでもいいとそう思ったはずなのに、どこか、モヤッとした気がした。

 



その夜、アリーシャはベッドに入ってからなかなか眠れなかった。

イザークの気持ちを聞いて、アリーシャの疑問は解消されて気持ちも定まるはずだったのに、まだ揺れている。

それでもいいと思ったはずの今の暮らしを本当に自分が望んでいるのかがわからなくなっていた。


「イザーク様は私のことを好きだと言ってくれる。私もイザーク様のことは好きだけど、何か違う気がするわ。」 


でも覚えがある。
これは、ロベルトに告白されて付き合い始めて、だんだんと好きになっていった頃と同じ。

アリーシャを好きだと言ってくれるから、ロベルトに好意を抱いても大丈夫だと思っており、それでいて、のめり込まないようにしていた。

だから、卒業式の日に別れようと思うことができた。

それなのに、駆け落ちしたいほど好きだと言ってくれるロベルトに手を取られ、また揺れた。

ロベルトと一緒に生きていこうと本当に覚悟が定まったのは、体を繋げてから。 


「私は、体を繋げることで覚悟ができるのかもしれないわ。」
 

イザークの妻になったという実感がないから、気持ちが揺れているのだと思った。


体を繋げなくてもイザークは妻だと認めてくれているし、誰も何も言わないだろう。
だから大丈夫だと思っても、すっきりしない。


「私は誰かにイザーク様の妻だと認められたいと思ってる?」
 

いや、誰かではなく、自分になのだと気づいた。 

イザークの妻だと自信を持って言うために。
 
ロベルトに失望したとは言え、ロベルトしかしらない体がまだロベルトのもののような気がするから。
いくら自分の体だとわかっていても、深く愛された記憶が残っているから。

モヤッとしているのは、イザークと体を繋げることでロベルトの痕跡を完全に消せるのではないか、そして、イザークに愛されていることを実感することで、自分も彼を愛したいからなのだと思った。
 

 

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