駆け落ちの事実などありません。

しゃーりん

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20.

 
 
ロベルトが開けっ放しにした玄関から、女性が覗いていた。


「……エリーかと思ったのに、ロベルトさんか。」

「エリーは?どこに行ったんだ?」

「さあ?もう何か月も姿を見てないけど。」

「子供は?エリーは妊娠していたはずなんだ。」


そう言うと女性は驚いていた。
この女性は誰だったか。あぁ、そうだ。ニコル、だったか。
 

「ロベルトさんさぁ、エリーが妊娠してるのに王都で浮気してたんだ。」


今度はロベルトが驚く番だった。


「なんで、……」

「同じ男爵家の使用人なんだから、噂なんてすぐに広まるよ。エリーの耳にも入っただろうね。」


エリーも知ってしまった?だから、ここにいないのか?


「エリーは、どこに?」

「本当に知らない。いつだったか、ララと話しているのを見たとは聞いたけど。」

「ララ?」

「夫の浮気で離婚してここから出て行った子。」


何となく、どんな女性かを思い出した。


「今は街に住んでるはず。教会の近くの衣料品店でお針子やってるとか。」


ロベルトはそれを聞いて駆け出した。

エリーの手がかりはその女性しかいないと思った。



街に行き、教会の近くで店を探した。

そこに、教会から子供を抱いて歩いてきた女性に見覚えがあった。


「あの、ララ、さん?」


ロベルトが声をかけると、彼女はロベルトを見た。


「あ……浮気者ロベルト。」
 

ララまでが知っているということに気分が落ち込んだ。 


「あの、エリーがどこにいるか知らないだろうか?」


ララはロベルトをジッと見てから聞いてきた。


「まさか、今、王都から戻ったとか?」

「……そうだ。エリーが家にいなくて、もう何か月も帰っていないらしくて、妊娠しているみたいなのにどこに行ったのかわからない。何か知らないだろうか?」


ララはしばらく沈黙していたが、やがて言った。


「エリーは、死んだ。この子を産んで。」

「え……?」


エリーが死んだ?


「この子はあんたの子だから引き取ってくれる?」


そう言って、ララはまだ小さい赤子を渡そうとしてきた。


「ちょ、ちょっと待って。エリーは死んだって本当なのか?」

「うん。命がけで出産したのに夫は他の女のところにいただなんて最悪だね。この子はラスって名前。ちゃんと責任持って育ててよ。」


ララは今度こそ、ロベルトの腕に赤子を手渡してきた。


「エリーと、俺の、子?」
 

ラスというその赤子は眠っていた。


「これ、ちょっとだけだけど、ラスの服とおしめ。じゃ、よろしく。」 


赤子と荷物をロベルトに渡し、身軽になったララは呆然とするロベルトを置いて走り去って行った。


「え……?」


ロベルトはしばらく動けなかった。





建物の陰から、ララはロベルトを見ていた。

ラスはララと元夫の子である。
先日産まれ、仕事の間に教会に預けていた。

一人では育てて行くことが難しく、教会からも早くどうするかを決めるように急かされていた。

ロベルトは男爵家で働いている。
宿舎では、子供はみんなが面倒を見てくれるだろう。

そう思い、ラスをロベルトとエリーの子だと嘘をつき、押しつけた。

エリーを死んだことにしたのは、彼女はロベルトを見限っていたから。
死んだと言えば追いかけることもなく、ラスを育てるだろうと思ったからだった。 

ララは翌日、この街から姿を消した。

 

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