ようやくあなたを手に入れた

しゃーりん

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20歳の侯爵であるアシュレイは、目を覚ました時に自分の腕の中でまだ眠っていた妻に気づいて幸せをかみしめた。


『ようやくあなたを手に入れた』


それを実感したからだった。


しかし、すぐに『ようやく』ではないと苦笑した。


『こんなに早く手に入るとは思っていなかった』が正確かもしれない。


一生、手にすることができない可能性もあったのだ。




長時間、交わり続けた疲れからか、彼女はまだ目を覚まさない。

起きたらまた求めてしまいそうだと思いながら、眠っている彼女の唇に口づけをした。
 








アシュレイの人生が変わったのは10歳の時だった。

父アーロンが学園を卒業したばかりの18歳の伯爵令嬢マーガレットと再婚したのだ。


アシュレイの実母は、父と離婚後に死んだらしい。
父と実母が離婚したのはアシュレイが6歳の時で、記憶にある実母は派手な化粧に派手なドレス、臭い香水を振りまき、顔を合わせると何が気に食わないのかよく叩かれた。

実母はアシュレイにとって畏怖や忌避を覚える存在だったから、もう会うことはないと言われたときはホッとした。

それから父はよく再婚話を持ち掛けられていた。 
祖父から侯爵位を継ぐためには、妻がいるべきだと言われていたからだ。

しかし、アシュレイの実母のことで結婚にうんざりしていた父は、なかなかその気にならなかったのだ。

『穏やかな女性がいい』

父が出したその条件に、選ばれたのが遠縁の伯爵家3女のマーガレットだったと当時は聞いていた。





結婚式をすることはなく入籍だけでマーガレットは侯爵家にやってきた。 

アシュレイとマーガレットは、事前に顔を合わせることなく家族になる。
そのことからも、これはアシュレイのためではなく侯爵家のための結婚なのだということが使用人たちの会話からもわかっていた。

父がマーガレットを紹介するからとアシュレイを呼び出した。

アシュレイは義母になるマーガレットに何も期待していなかった。
どちらかと言えば自分に無関心であってほしい。そう思っていた。


「初めまして。マーガレットと申します。よろしくお願いしますね。」


マーガレットはそう言って、ふんわりと柔らかくアシュレイに向かって微笑んだ。

実母とは違う人種の女性だと驚いた。

そして、隣の父の表情にも驚いた。優しくマーガレットを見つめていたからだ。


「アシュレイです。よろしくお願いします。……何とお呼びしましょうか。」


ふとそんな言葉が出てきた。関わる気などなかったのに。

でも、呼び名は決めておかないと、いざ呼ぶ必要がある場合に困るから。

正直、彼女を義母上と呼ぶことには抵抗がある。8歳差は姉でもおかしくないのだから。


「好きに呼んでくれて構わないけれど……戸籍上は義母でもそれは呼びにくいわよね。
名前でどうかしら?アーロン様、構いませんか?」


父はマーガレットに話を振られて、我に返ったように答えた。


「ああ、うん。君のことを義母上だなんて呼ばせるのは可哀想だな。名前でいいんじゃないか?」


可哀想?どっちが?呼ぶアシュレイが?呼ばれるマーガレットが?


「ではマーガレット様と呼びますね。僕のことはアシュレイと呼んでください。」


他人だけど家族になったマーガレットを名前で呼ぶと、距離が近づいた気がした。
 
彼女はまたふんわりと微笑んでいた。


 


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