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しおりを挟むマーガレットが義母になった次の日の朝、朝食はアシュレイだけだった。
いつも食事のときは父がいる。
今日からはマーガレットも一緒なのかと思っていたが二人は来なかった。
「……これから僕は一人で食べるのか?」
今までも一人だったことはある。
父が夜会に行った時とか、夜会の次の朝とか。
祖父母は部屋で食事することが多くなり、たまにしか一緒に食べない。
「アシュレイ様、今日明日は特別です。
結婚したばかりの夫婦は、数日間は特に夫婦の時間を大切にしますので。
生活に慣れてくると、またご一緒に召し上がられますよ。」
アシュレイ付の侍従ランダルがそう言った。
この時のランダルの言葉の意味が正確にわかったのは数年後だった。
「そうか。」
「はい。もしかするとアシュレイ様の弟か妹がすぐにできるかもしれませんね。」
「……は?弟か妹?僕に?僕は兄弟なんかほしくない!」
兄弟なんかほしいと思ったことなどない。アシュレイは自分の気持ちを口にしただけだった。
だが、後で思えばこの言葉は父たちにも伝わったのだろう。
アシュレイに弟妹ができることはなかったのだから。
朝食は一人だったが、夕食は父とマーガレットも一緒だった。
次の日からは朝食も一緒だった。
以前の生活にマーガレットが加わっただけなのに、食事が美味しく感じられた。
マーガレットが来てから確実に、侯爵家の雰囲気は良くなったと思う。
もう10歳のアシュレイには毎日の生活の流れは出来ている。
家庭教師に勉強を教わる時間、剣術を学ぶ時間、読書をする時間。
母親に甘える歳でもないため、マーガレットとの時間はそれほど多くない。
食事やお茶の時間を別にしてしまえば、ほとんど接点はなくなる。
だが、アシュレイはそうするつもりはなかった。
マーガレットとの会話を心待ちにしていたからだ。
彼女は実母とは違う。
アシュレイのことを邪険にしない。叩くこともない。
きつい香水を振りまいておらず、近寄ったらいい匂いがする。
面白い本を教えてくれるし、どんなことを学んだかを聞いてくれる。
母とは思えないが、姉のような従姉のような。そんな存在になりつつあった。
アシュレイが13歳になる頃までは、そんな毎日を穏やかに過ごしていた。
父とマーガレットを違う目で見始めたのは、精通があり閨事についての座学を終えてからだ。
結婚翌日に二人の朝が遅かった理由、弟妹ができるかもしれない行為について学んだ。
夫婦である二人は、どれくらいの頻度で閨事をしているのだろうか。
父とマーガレットは14歳も離れている。
年齢と共に性欲は衰えていくと聞いたが、まだ若くて可愛いマーガレットが妻なのだから衰えることなどないのではないか。
父はマーガレットと再婚してから優しい顔をよくするようになったし笑顔も多い。
年齢よりは若く見えるだろう。
おそらく、アシュレイの実母にはそんな顔を見せたことなどなかっただろう。
父と実母の仲は険悪だったと聞いている。
もちろん、恋愛結婚ではなく政略結婚だった。
そんなに仲が悪くても、子供を作る行為はしたのだな、と貴族の義務を感じた。
そして、アシュレイにも子供の頃からの婚約者ビビアナがいる。
僕は将来、ビビアナと結婚してビビアナを抱くことになるのだ。跡継ぎを作るために。
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