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しおりを挟む久しぶりに再会した兄夫婦は、泣きそうになりながら迎え入れてくれた。
ひとまず応接室に入り、お茶を用意してもらった後は4人だけになった。
「ジュゼット、元気そうでよかった。」
「はい。お兄様もお義姉様もお元気そうで安心しました。」
「ジュゼット、こちらは?」
「初めまして。カイト・グレンジャーと申します。
ジュゼット嬢の護衛兼求婚者として共に参りました。
よろしくお願いいたします。」
「………え?求婚者?ジュゼット、本当なのか?」
「はい。カイ様と結婚したいと思っています。
2人で領地に住もうと思うのですが、構いませんか?」
「あ、ああ。ということは、うちの騎士になるのだろうか。」
「騎士でも書類仕事でも、ジュゼットが店をやりたければその手伝いでも。」
「もう!クッキーを作るお店はしませんから。」
「クッキー?ああ、昔母上と作っていたクッキーか。美味しかったよな。」
ジュゼットがクッキーを作るほどカイトがそばにいたということを理解した兄は、どんな仕事だったにせよ、カイトのお陰でジュゼットが明るいまま戻って来られたのだと思うことにした。
「お兄様、お父様はどうなさっているのでしょうか。」
兄夫婦が動揺したのを見て、また何かがあったのだと思った。
「ジュゼット、落ち着いて聞いてくれ。父は、亡くなった。」
「……え?」
「ジュゼットが借金の返済をしてくれたと同時に、私が伯爵を引き継いだ。
仕事のほとんどは、もう私がしていたようなものだったから問題はなかったんだ。
父にも監視の意味を込めて、いくつか書類も回していたし、出かける時も護衛をつけた。
ある時、父は人込みで護衛を巻こうとした。
見失ってから少しした時に、騒ぎが聞こえたそうだ。
護衛がそこに向かった時には、父は馬車に撥ねられていた。
見ていた人が言うには、女の子を庇ったそうだ。
女の子の無事を聞いた父は、安心して『ジュゼット』と言って亡くなったらしい。」
「女の子を助けて……」
「ああ。お前に借金を肩代わりさせたことを悔いていた。
なぜ、護衛を巻こうとしたのかはわからない。
お前を捜しに行こうと思ったのかもしれない。
目に入った女の子をお前の代わりに助けないといけないと思ったのかもしれない。
だが、昔の優しい父のまま変わっていなかったと思いたい。」
「そう、そうね。お母様が亡くなるまでは、優しいお父様だった。
ギャンブルでおかしくなってしまったけれど、本質は変わってなかったのよね。」
「でも、ジュゼット。お前は父上を恨んで構わないし許さなくてもいい。その権利はある。」
「……もう過ぎたことだわ。お母様と安らかに眠ってくれたらいいと思う。」
「そうか。さて、乗合馬車で来たのならクタクタに疲れただろう?
ジュゼットの部屋はそのままだ。
カイト殿は客間を用意する。
結婚についても話し合わないといけないな。まぁ、それはまた後で。」
夕食の時間まで、部屋で休むことになった。
お父様が亡くなっていたということには驚いた。悲しいとも思う。
だけど、それだけだった。
薄情な娘だと思う。
昔は父が大好きだった。
だけど、父の2度目の借金で自分が娼婦になるか売られるかと想像して怯えた日々は、楽しかった思い出を陵駕してしまった。
カイ様との結婚生活を邪魔されずに済む。
そう思ってしまったことは、誰にも内緒。
私は、カイ様と幸せになりたいの。
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