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夕食の時間になり、ノックが聞こえて扉を開けるとカイ様がいた。

侍女が去るところを見ると、彼女が私の部屋まで案内してきたようだ。

カイ様と食堂に向かいながら話をした。


「お部屋に不自由はありませんか?」

「いや、問題ないよ。……ジュゼット、大丈夫か?」


お父様のことを聞いて、心配してくれていたみたい。
私が一人で悲しむ時間をくれたのかな。
 

「大丈夫です。というか、薄情にもホッとした思いがあって。」

「別に薄情ではない。義兄上も言っていたが、恨んでもおかしくはないのだから。」

「カイ様は父と一緒に有意義な楽しみを見つけるとまで言ってくれたのに、冷たい娘だわ。」

「そんなことないよ。
 もし、御父上に新たな借金があったなら、ジュゼットに縁を切らせて一緒に逃げるつもりだった。
 借金をこれ以上肩代わりするほど価値のある親だと思えないからな。
 正直言って、2度目の借金は許せない。1度で反省すべきなんだから。
 ジュゼットと御父上の縁は、ある意味切れていたと思えばいい。
 十分すぎる親孝行だ。あれ以上は必要ない。
 ジュゼットはこれから幸せな道を歩くんだ。
 不安が去ったと思ってホッとしても悪くない。」


カイ様はわざと父を悪く言って、私の気持ちを軽くしようとしてくれているのね。
本当に優しい人。


「うん。ありがとう。……お墓参り、ついてきてくれる?両親に紹介したいわ。」
 
「もちろん。喜んで。」




兄夫婦と4人で食事した後、また4人だけで話をした。

ジュゼットが父親の葬儀に帰って来なかったのは、仕事の付き添いで隣国に行っているために間に合わないからということにしたそうだ。
移動するので、手紙を送っても届かないだろう。
父はもう伯爵でもないし、身内だけで葬儀を終わらせよう。
そう使用人たちにも説明して、さっさと葬儀を終わらせたそうだ。

けれど、帰国して父親が亡くなっていたことを知り、仕事を辞めて恋人と領地に帰ってきた。
そういうことにしようと口裏を合わせた。


「もし、仕事や隣国でのことを聞かれたら守秘義務があるとでも言って誤魔化してくれ。」

「わかりました。」

「それから、その……1年~5年と説明を受けていたんだが、もう仕事は終わったんだよな?」

「はい。ですので、もう前を向きましょう。」

「そうだな。でも最後に言わせてくれ。私たちのためにありがとう。」

「はい。自分のためでもありました。もう後悔はしません。
 ところでお兄様、領地の経営具合はいかがですか?」


これ以上湿っぽくならないように、話を領地のことに変えた。


「領地の方は問題ないよ。税収も変えていない。領民からも大きな不満の声は聞いていない。
 ただ、まだ貯えはない。削った災害対策費の方に回している。」

「以前のように戻るにはまだ時間はかかりますね。
 お義姉様も王都でのお付き合いを中断させてしまっていますね。」

「あら。いいのよ、私は。領地で過ごす方がのびのびできるわ。」


やっと戻ってきた領地で、兄夫婦は温かく迎えてくれた。

このままここで暮らすかどうかはわからないけれど、ひとまず自分の居場所に戻れた気がした。


ただ、一つだけ気になることはあるけれど。

 

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