24 / 47
24.
しおりを挟む一晩、兄のところに泊めてもらい、セバスが予約した宿へと向かった。
護衛がいるから、というより、誰か第三者が自分の居場所を知っていることに安心を覚えている。
いくら自分が騎士だったとしても、薬を盛られでもしたら抵抗はできないから。
兄に借りた護衛と部屋の中に怪しい者がいないことと疑わしい物がないことを確認した後、護衛は扉の前に、自分はそのまま部屋でセバスを待っていると、時間になって彼はやってきた。
「お久しぶりですね。何か警戒させてしまいましたか?見張りがおりましたが。」
「警戒はしますよ?今更なんの話があるのやら。」
「そう言えば、ご結婚おめでとうございます。驚きましたよ。」
「どうも。それで?彼女じゃなくて僕を呼び出した理由は?」
「あなたが彼女の夫であるならば話は早いと思ったのです。
旦那様がお二人目の子供を希望されております。ジュリ様をお貸しいただきたく。」
カイトは呆気に取られた後、大笑いをしてしまった。
「セバスさん、あんた、頭がおかしいんじゃないか?
愛する妻を他の男にどうぞって貸し出す夫に見えるか?」
「おや。他の男性の子供を産んだ女を妻にした男だからこそ、平気かと思いましたが。」
「………ふざけるなよ。やっぱりお前は人を見る目がないな。
たかが100万の借金を10億と思わせてジュゼットの父親を嵌めやがって。
夫人と同じ色目のジュゼットが初めから狙いだったんだろう?
お前の旦那様とやらは事の顛末を知っているのか?
あの堅苦しいことで有名な男がお前の違法行為を許したか?」
セバスの顔色が悪くなった。当たりだったようだ。
「せ、詮索禁止で契約違反だ。」
「あれこれ調査したわけじゃない。こんなこと、単純に結びつくじゃないか。
子供が欲しいなら、旦那様が愛人をつくって産んでもらえ。
ジュゼットをもう巻き込むな。あんな値段で監禁しやがって。
もう二度と連絡してくるな。
それと、ジュゼットは妊娠中だ。
あの男の子供を産むなんて不可能だ。」
「妊娠中……」
「ああ。結婚したんだ。子供ができてもおかしくないだろう?」
「異父兄弟が……」
「ああ。そうだ。ダメだなんて契約してないだろう?
それにな、もう何があろうとジュゼットに嫌な思いはさせたくない。
家族のために身を差し出すような女性じゃなくて、喜んで産んでくれるような女を探せ。
お前は旦那様に言えないような後ろ暗い手段を使ったってことだよ。」
セバスは出産直後のジュゼットを見ていない。
長い期間、自分のお腹で育てた子供を取り上げられたんだ。
そういう契約だとわかっていても、父親が誰か知らなくても、自分が産んだことに違いない。
悲鳴を上げるような泣き声は、本当に可哀想だった。
世の中には金で子供を売る親もいるくらいだ。
そんな女を探せばいい。
それこそ、隔離し甲斐があるんじゃないか?
結婚したジュゼットは他の男に体を許すような女ではないし、カイトはそれをさせるような男ではない。
だからお前は人を見る目がないと言った。
「ちなみに、前回は借金の捏造、今回は断ったら何をするつもりだったんだ?
……その顔、まさか何も考えていなかったな。
当然貸してもらえるだろうと疑いもしていなかったってことか。あり得ない。」
呆れたようにそう言うと、セバスは自分の失態を自覚したのか、目を閉じてから言った。
「申し訳ございませんでした。
婚約者がおらず、結婚もしていない女性を、と考えてジュゼット様を選んだというのに。
既にご結婚されたジュゼット様にお願いすることではございませんでした。
幸せなご結婚をされたようで、一安心いたしました。ご無礼をお許しください。」
今後は何の関わりも持たないことを約束し、セバスは部屋を出て行った。
300
あなたにおすすめの小説
【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
祓い師レイラの日常 〜それはちょっとヤなもんで〜
本見りん
恋愛
「ヤ。それはちょっと困りますね……。お断りします」
呪いが人々の身近にあるこの世界。
小さな街で呪いを解く『祓い師』の仕事をしているレイラは、今日もコレが日常なのである。嫌な依頼はザックリと断る。……もしくは2倍3倍の料金で。
まだ15歳の彼女はこの街一番と呼ばれる『祓い師』。腕は確かなのでこれでも依頼が途切れる事はなかった。
そんなレイラの元に彼女が住む王国の王家からだと言う貴族が依頼に訪れた。貴族相手にもレイラは通常運転でお断りを入れたのだが……。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】
幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。
そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。
クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる