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しおりを挟むところが、学園に入学した妹シフォーヌがセドルの名を口にし始めたのだ。
重いものを持ってくれた。
届かないところにある本を取ってあげていた。
わからない問題を教えてくれた。
髪留めが可愛いと売っている店を聞いていた。
笑いかけてくれた。
どう聞いても、自分に向けられたものではない情報も入っていた。
つまり、気になっているからセドルの行動を見ているということになる。
シフォーヌには侯爵令息の婚約者がいるのだ。
しかも気になっているセドルは関わりを持ってほしくない相手。
これはよくない傾向だった。
「シフォーヌ、婚約者以外の令息にそんなに興味を持ってはいけないよ。」
「だって、カッコイイんだもの。
騎士になりたいわけでもないのに体格も良くて笑顔も素敵で。
それに比べて婚約者のエリオットは、私の話にため息ばかりなんだから。」
それはシフォーヌがドレスや装飾品の話ばかりするからじゃないのか?
そういうのは令嬢たちとしたらいいんだ。
私でも、初めは笑顔で話を聞けても毎回だとうんざりすると思う。
「シフォーヌはエリオットの話を聞かずに一方的に話しているだけだろう?
反応を返せない話ばかりするから会話にならないんだよ。」
「だって。エリオットの話はつまらないから。」
エリオットはお前の話がつまらないと思うが。
「あぁ、婚約解消できないかしら。」
「……止めておけ。父上が財力のある侯爵家を選んだのはお前のためなんだから。
爵位が下がるほど、贅沢とはほど遠い生活になるぞ?」
「でも……好きな人と結婚する方が幸せじゃないかしら?」
現実がわかっていないな。四六時中、一緒にいられるわけがないんだ。
仕事中の夫に相手をしてもらえなくて、不貞腐れて当たり散らす未来が見えそうだ。
「食事が質素になっても?宝石のランクが落ちても?ドレスの購入回数が減っても?」
「……伯爵くらいだったら、そこまで落ちないでしょう?」
「わかってないな。そりゃ裕福な伯爵家も子爵家もある。
だが、公爵家・侯爵家と比べれば、ドレスの値段など桁が1つ2つ違うぞ?
王女の降嫁は上2つの貴族家、王子妃も上2つの貴族家または陞爵の見込める伯爵家だ。
価値観の合わない結婚は悲惨なことになるぞ。絶対に後悔することになる。」
「もうっ!お兄様は夢がないわ。お金よりも愛よ!」
怒ってシフォーヌは出て行った。
シフォーヌの実母は愛よりもお金を選ぶ女性だったようだが。
あるいは、愛を選んで失ったために裏切らないお金を選んだ女性だったのかもしれないが。
シフォーヌがそのようなことにならなければいいが、と思った。
しかし、父がシフォーヌを見放して婚約解消を認める可能性もある。
シフォーヌの言動で侯爵家との関係が悪くなるのであればサッサと婚約解消し、伯爵家に面倒事を押し付けるかもしれない。厄介払いだ。
伯爵家に嫁ぎたいなら嫁げばいい。苦労するのは自分だ。と父は妹を切り捨てる。
父が選んだ婚約を解消するということは公爵家には不要な者となり、父はシフォーヌために援助しないだろう。
コールマン家が巻き込まれるかもしれない。
それに、父とジュゼットを会わせたくない。
セバスが言うには、実は2人目の子供の母も父はジュゼットを希望したという。
しかし、結婚していたため違う女性に依頼した。
ジュゼットではないことに気づいた父はセバスに確認し、ジュゼットが結婚していたことを聞いてショックを受けたように見えたという。
なので、父にはジュゼットの名前を教えたくなかったとセバスは言っていた。
私もそう思う。
夜会で亡き母カサンドラと同じ髪色の女性を見るたび凝視しているのは目の色の確認だろう。
父はジュゼットを探している。
貴族のまま暮らしているとは限らないのに。
むしろ、未婚で純潔ではない令嬢など夜会に出てこれるほどの真っ当な貴族に嫁げるはずもないということに気づかないことが不思議だ。まぁ、万が一を考えているのかもしれないが。
どういうつもりかはわからないが、会わせたくない。
だから、私はカイト・コールマンと会うことにしたのだ。
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