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しおりを挟む5日かけてモリス男爵領に着いた。
モリス男爵家は、落ちぶれているわけではなく男爵家としてはそこそこ、といった貴族である。
嫁を連れて帰って来ると聞いていたのだろう。使用人たちは笑顔でアリーズを迎えてくれた。
しかし、モリス男爵の不機嫌そうな顔を見て、アリーズとの再婚が不本意であることを察し、使用人たちは戸惑う様子を見せた。
ウォルターにつつかれて、モリス男爵はため息をつきながら口を開いた。
「……妻になったアリーズだ。世話を頼む。」
まるでペットみたいね。
「フライ子爵家次女のアリーズです。よろしくお願いしますね。」
この国では、主人に仕える使用人は親が同爵位あるいは格下の者になる。
モリス男爵家は貴族としては下になるので、使用人にいるのも男爵家出身か平民がほとんどなのだ。
つまり、男爵夫人になったことはもちろん、子爵家出身のアリーズが使用人の中の誰よりも上である。
それでも、上から目線で挨拶したくなかったし、新参者でもあるので気を遣ったつもりだった。
それなのに、モリス男爵はアリーズに舌打ちをする有様。
これ以上、どうしろと?
前途多難な新婚生活になることは間違いないと思った。
侍女長ミラが一人の侍女を紹介した。
「この者は奥様付の侍女レベッカです。何でもお申しつけください。」
「レベッカと申します。よろしくお願いします。」
「……そう。よろしくね、レベッカ。」
このレベッカって女、どう見てもアリーズに敵対心を持っているように感じる。
まさか、モリス男爵の愛人?あるいは、狙っていたのに相手にされなかった?
いずれにせよ、彼女の態度は侍女として失格だけど、初対面でまだ何もされていないのに外してほしいとは言えない。
本来であれば、自分の味方になる侍女を実家から連れて嫁ぐことが貴族令嬢としては多いことなのだけど、そもそもアリーズは自分が侍女として働いていたのだ。
実家に戻ってからも専属の侍女など付けてくれるはずがないのだから。
部屋に案内され、休憩した。
アリーズが持ってきた荷物をレベッカがクローゼットに片付けていたが、あまりの少なさに嘲笑したのがわかった。
彼女はとことん、アリーズを主人として敬う気はないらしい。
別に構わなかった。
アリーズは自分で着替えられるし、お茶も入れられる。
それに、彼女に重要なことを頼むことなどないだろう。
その後、男爵家なりの歓迎の食事を終え、湯あみをした。
……初夜はあるのだろうか。モリス男爵は何も言わなかった。
王都からの道中、宿泊の部屋は別だった。
ウォルターが、『こんなところで初夜なんて考えられません!』とモリス男爵に話しているところを耳にしたので、男爵は道中の宿で同じ部屋に泊まる気だったのかもしれない。
高級宿に泊まったわけではない。
つまり、耳を澄ませば行為の声やベッドの軋みで何をしているかが丸わかりになる可能性のある部屋で簡単に初夜を済まそうとしていた男爵の、アリーズへの関心の低さは明らかだった。
そんなことを思い出していると、寝室の扉がノックもなしに開いた。
もちろん、入ってきたのはモリス男爵。
どうやら初夜はあるらしい。
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