9 / 42
9.
寝室に入ってきたモリス男爵は、嫌そうな顔でアリーズに言った。
「初夜をしなかったとサリオン・デッカードに泣きつかれたら面倒だからな。」
モリス男爵の頭の中はどうなっているのだろう。
彼の中ではアリーズはサリオン様の愛人。そして要らなくなったから自分の嫁に押しつけられた。
それなのに、捨てられた愛人が捨てた男に泣きつく?
そうしたところで、サリオン様がモリス男爵に何と言うの?『抱いてやれ』とでも言われると?
バカじゃないの?
「俺は、お前に子供を産ませる気はない。俺の跡継ぎはリズベスだ。」
リズベスというのは、モリス男爵の7歳のお嬢さん。
母親が亡くなってからこの1年半、部屋に引きこもっているらしく、アリーズが来ても顔を見せることはなかった。
「避妊薬だ。これを飲め。妊娠したら浮気したと見做すからな。」
避妊薬も完全とは言えないのに。
それに、男爵ではどれくらい安全性のある避妊薬を手に入れているかが不安なところでもある。
それでも、ここでまた口答えをすると彼は間違いなくアリーズを罵倒し始めるだろう。
険悪になるのも嫌なので、避妊薬を飲んだ。
モリス男爵はアリーズにキスをした。
彼は食事の後にも酒を飲んでいたようで、まだキツくにおいがしていた。
いきなりキスを止めたかと思うと、ベッドに押し倒して彼は言った。
「ああっ!サリオンの愛人なんかやってた女を丁寧に抱けるか!うつ伏せになれよ。顔見たら萎える。」
「ですから、私はデッカード侯爵様の愛人ではありません。」
「ははっ。サリオンを落とす前に夫人に見つかったのか?高望みし過ぎたんだろ?愛人稼業も大変だな。」
「愛人稼業って……」
ひょっとして、サリオン様の前にも誰かの愛人だったと思ってる?
アリーズが戸惑っている間に明かりを落とされ、うつ伏せにされた。
そこからは最悪だった。
たいした愛撫もなく、痛いと言っても無視。無理やり押し込まれた時は泣き叫んだ気がするけれど、途中でアリーズは気絶したのだろう。
寒気で目が覚めたのはどれくらい経った頃だったのか。
真っ青な顔のモリス男爵と、医師らしき女性がいた。
「奥様、体調はいかがですか?」
「……寒いわ。」
「ひどく傷を負っています。熱が上がってくるでしょう。……何があったか、記憶にございますか?」
「……初夜?」
「ええ。未通の体を解すことなく潤いもないまま無理やり押し込んだのでしょう。強姦された女性と同じような負傷をしておられます。入口は裂け、中も傷ついて破られた処女膜の傷も摩擦によって腫れています。」
でしょうね。ものすごく痛かったもの。
「念のため、ひと月は安静にしてください。治りきる前だと再び傷が開く恐れがありますので。」
それはそこにいる夫に向かって言ってほしい。閨事はひと月間禁止ですよってね。
「この女が未経験だったと言うのか?」
「ええ。そうですよ?間違いなく純潔であったと証言します。
どうやら男爵様は奥様が経験者だとお思いだったようですが、奥様は相当痛がったはずなのに気づかなかったのですか?気絶なさったのですよね?」
「……俺を拒絶しているんだと思ったんだ。大人しくなったのは諦めたのかと。」
「ご結婚の経緯は存じませんが、未経験を経験有と偽ることはまず難しいですよ。逆は可能ですがね。」
初体験の痛みを知っていれば、痛がる演技ができると聞いたことはある。
でもそれは、何度も経験を重ねていないときに限るのだとか。
慣れた男は騙せないらしいけど。
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜
よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。
夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。
不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。
どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。
だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。
離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。
当然、慰謝料を払うつもりはない。
あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
再会の約束の場所に彼は現れなかった
四折 柊
恋愛
ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。
そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)