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しおりを挟む王太子殿下は未知の魔力を得たリリスティーナを気持ち悪がっていたように思えた。
50年もあの研究施設に閉じ込めるつもりだったのであれば、婚約はどうなっていたのだろうか。
「お父様、私と王太子殿下の婚約は解消になったのですか?」
「ああ。お前の希望だと聞いたが……違うようだな。」
「ええ。研究者たちの話によれば、私を50年、つまり死ぬ頃まであの施設内に閉じ込めるように命じられていたようです。あの術もそういうことだと思います。」
「未知の魔力といっても、治癒は素晴らしい力だと思うが。殿下はなぜお前をそこまで危険人物のように思ったのだろうか。」
そう。そこがわからない。
別に攻撃するような力でもないのに、研究施設から出られなくするほどなにを恐れたのか。
リリスティーナと父が不思議に思っていると、兄が言った。
「リリスには言えなかったが、殿下には浮気相手がいると耳にしたことがある。
その相手の令嬢にも婚約者がいたんだが、……その男はひと月前に亡くなった。」
ひと月前に亡くなった?
リリスティーナを研究施設に押し込んだのと同時期。
そんな偶然があっていいものだろうか?
「そもそも、殿下はなぜ背中に傷を負った?」
父の問いに、リリスティーナは知らないと首を横に振った。
「浮気相手との密会中に令嬢の婚約者が現れて、令嬢が襲われていると勘違いして殿下の背中を切りつけた。あるいは婚約者の浮気を知って相手を許せなくて切りつけた。そんなところじゃないか?」
「自分の婚約者の浮気相手がまさか殿下だと知らなかった?」
「そういうことじゃないか?殿下を切りつけた男はおそらく駆けつけた殿下の護衛に殺されたのだろう。」
なるほど。辻褄は合う。
護衛のいない場所で背中を切りつけられた理由が浮気相手と二人きりでいちゃついていたからだということに。
顔を見れば殿下だとわかったはずなのに、誰かも確かめることなく切りつけたのだろう。
「リリスが自ら婚約者を下りたように装って、そのうちその浮気相手との婚約を発表するつもりだろう。」
浮気相手と婚約するために、リリスティーナは未知の魔力を恐れて自ら研究施設に入ったということにしたかったらしい。
そうしなければ、殿下の命を救ったリリスティーナとの婚約解消が認められないから。
確かに殿下とは性格が合わなかった。
それでも、リリスティーナは努力をしていたつもりだった。
その裏で、殿下はいつ婚約解消しようかと時期を狙っていたということだろう。
相手の令嬢も婚約解消しなければならないから。
しかし、令嬢の婚約者が死んだことで、リリスティーナの治癒の能力が公に認められる前に、殿下はリリスティーナを閉じ込める手段を取ったのだろう。
50年間、研究施設でリリスティーナを飼い殺しのようにするつもりで。
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