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しおりを挟むシェイミが王都に一人残り、平民相手に病気や怪我の治癒をし始めて少し経った頃だった。
流行り病に罹る者が現れたのだ。
幸い、以前にも流行った病で薬もあるし、安静にしていればほとんどの者は治る。
100人に5人ほどが命の危険に陥るが、それはほぼ栄養不足の平民だった。
問題なのは、その栄養不足の平民を治癒しているのがシェイミということだ。
病に罹った者が毎日押しかけてきて、数人しか治せないのに次の日には増えている。
『早く治せ』と罵倒されることもあり、シェイミは逃げ出したくてたまらないが、聖堂の前には人が溢れていて逃げ出すこともできないのだ。
しまいには自分も病に罹ったが、聖力が尽きて治せなくて倒れた。
(仕方のない子ねぇ。)
リリスティーナは聖人の体を借り、シェイミを治癒した。
ひと月ほど前、リリスティーナは聖堂に戻ってきていたのだ。
そして、シェイミのことを知った。
(このままでは平民たちのおさまりがつかないわ。名乗り出た二人の貴族令嬢。彼女たちにも治癒をお願いするしかないでしょう。)
(わかりました。国から指示をしていただきます。)
リリスティーナの言葉に乗っ取られている聖人が答えた。
病気も治癒できると名乗り出たのは彼女たちなのだ。
役目を果たしてもらわなければ、居場所を失うことになるかもしれない。
名乗り出て何もしなければ、非難は免れないだろう。
昔の聖女様は、貴族・平民関係なく、治癒して周ったのだから。
貴族社会に聖力を持つ者は次の時代で下位貴族にも増えるに違いない。
貴族よりも平民の方が圧倒的に多いため、今回聖堂に戻る前のリリスティーナは子供を平民と結婚させた。
医師と結婚した娘の子供たちも聖力を持っている。
医師の子供は医師を継ぐことが多い。
なので、医師に聖力を持つ者が増えればいいと考えたのだ。
医師の子供同士が結婚していけば、領地から領地へと平民でも治癒が使える医師が増えるだろう。
まだまだ先は長い。
治癒できる令嬢二人が加わり、王都の流行り病が落ち着くと、令嬢二人は領地を周って治癒することになった。
聖力の弱いシェイミは聖堂にお留守番である。
シェイミはお留守番でよかったと思ってしまった。
治せ治せと迫ってくる人の怖ろしさを身に染みて感じた。
大した治癒力もないのに、自惚れていたのだと自覚した。
シェイミよりも令嬢二人の方がもっと辛い目に合っていた。
『もっと早く来い』
『昨日来てくれていたら……』
そんな声を浴びせられ続けたのだ。
貴族だろうが、平民だろうが、関係ない。
たった二人に何千何万という平民が治せ治せと毎日やって来るのだから。
しかし、それも動ける者だけで、重病者はベッドの上で亡くなり続けているのだ。
浅はかな考えで名乗り出てしまったことを後悔せずにはいられなかった。
親から言われた言葉を思い出していた。
『病を治癒ができると名乗り出るのなら一生治癒をして生きる覚悟を持っていなければならない。』
その通りだと思った。
一度名乗り出たら、今更、逃げられないのだと。
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