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7.こども食堂、始動
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暖簾を下げてしばらくすると入口の引き戸が開けられた。
「りゅーちゃーん。ひとりつれてきたぁ」
リツが誰かを連れてきてくれたんだな。
後ろに隠れているが、リツと同じくらいの年齢だろうか。
細くて見ていられない。
「適当に座ってくれ。今、みんな分食べるの用意するから」
四人掛けのテーブルにイワンとリツ、そして新しく来た子。
隣のテーブルへはアオイが座っている。
余った昼用メニューの仕込みを使って作っていた丼ものをだす。
生姜焼きの肉とナンスの素揚げを米の上に乗せる。そこへ甘じょっぱい汁に少し酢を加えたタレをかけていく。香ばしい焦げの香り、醤油と酢のほのかな香りが腹を刺激する。
ナンスはこの世界のナスだと思ってほしい。
そして、みそ汁も余っていたので、それも準備する。
「これ、持って行ってくれるか?」
「はい!」
サクヤがテーブルを拭き終わるとすぐに来てくれた。
「私も手伝います」
アオイは立ち上がると、優雅な動きでこちらへ来てくれる。
「ありがとう。二人とも頼む」
お盆を一つずつ受け取るといい香りを漂わせてイワン達のテーブルへと運んでくれる。
テーブルに三つ並べると、次は自分たちのテーブルだ。
六人分を並べると席へと着いた。
イワン達は待ち遠しそうにこちらを見ている。
この匂いを嗅いだら腹が減るよな。
待ちきれなさそうだ。
「食材と、来てくれるお客様に感謝を。……食べるか」
手を合わせて少し祈る。
それが終わると、いただきますと小声で発して口に運んだ。
肉のうまみが口に広がり、ツンとした酢の香りが鼻を抜けていく。
「おいしー!」
「こぼさないように食べなよ?」
リツがガッツくのをイワンが微笑ましそうに眺めている。
その二人を優しいまなざしで見つめるサクヤとアオイ。
「さっきの、いただきますとはなんですか?」
「食材に感謝し、収穫者へ感謝し、そして作ってくれた人へ感謝する食べる前の祈りみたいなものだ」
その言葉に目を見開くサクヤとアオイ。
「そんな祈りがあるんですね! ウチもそれやりたいです! いただきます!」
「私も感化されました。いただきます」
二人も手を合わせて丼を食べる。
頬を緩めるのが見て取れた。
喜んでいるようで何よりだ。
新しく来た子に視線を巡らせると戸惑っていて、食べるのを逡巡しているようだ。
その子の元へ近づき、膝をついて目線を合わせる。
「どうした? 食べていいんだぞ?」
「ミリア、お金ない」
「ミリアっていうのか。俺はリュウだ。よろしくな。ここはな、この時間はお金を取ってないんだ。だから、好きに食べていいんだぞ?」
「えっ? でも、あとでとりたてとかにくるんでしょ?」
この子の家は取り立てに追われているんだろうか。もしかして、両親が借金しているのだろうか。その辺の家庭の事情にむやみに突っ込むのはあまりよくない気がする。
安心するには、この子に話すだけではダメかもしれないな。
「いかないさ。お父さん、お母さんに俺が話そうか?」
「ううん。おこられるから……」
「そっか。うーん。家はどこかな?」
「リツくんのいえの、となりのとなり」
だったら、歩いてそんなにかからないな。
すぐに行きたいところだが。
「怒られるっていうのは、殴られるのかい?」
「……うん」
親がいないリツ達は生活が本当に大変だろう。だが、親に暴力を振るわれる子というのは委縮してしまう。何もできなくなる。だからか、この子は細くてガリガリだ。
この姿を見て、親は何も思わないのか?
それが、不思議で仕方がない。
自分たちは食べているのに、この子には食べさせていないのだろうか。
このままでは、餓死してしまいそうだ。
親に言うなら早い方がいいな。
今夜、店を早めに閉めて行くか。
「お父さんとお母さんは、いつ帰ってくるんだい?」
「よる、おそくなってからだよ」
「先に寝てるのか?」
「うん。ねてないとおこられるの」
なんて理不尽な。
子供に触れることもしないということか?
邪魔者か何かと勘違いしているのか?
胸の内からどす黒い何かがあふれ出す。なんで。なんで子供にそんな仕打ちができるんだ。俺は、この子を放っていることはできない。
「俺が一緒に帰ってあげるから、それまで裏の部屋で待っていてくれないか? とりあえず、これを食べたらいい」
「でも……」
「大丈夫だ。なんなら、この家にいてもいい」
「えっ?」
「まぁ、親の許可がないとさすがに無理だけどな。別に、ずっとここにいてもいいぞ?」
「……おこられるから」
「俺が説得するから。大丈夫だ。食べな?」
丼を見つめた後、コクリと頷いて一口食べる。
よかった。食べてくれた。
「こんなにおいしいの。はじめてたべた」
「そうか。ゆっくり食べるんだぞ? 汁も飲んでみな? 体にはいいから」
ゆっくりとフーッフーッと冷まし。器のみそ汁を口へと流し込んでいく。俯いて震えている。
「大丈夫か? 腹が痛いか?」
一瞬、何か悪いものでも入れてしまったかと、そんなことを聞いてしまう。
「ううん。すごくおいしい」
かわいらしい笑顔が見えたことで安心したが、その目尻には雫が。
泣くほど喜んでくれたのかとホッとした。
ミリアを後ろの住居で休んでもらっている間に、夜営業だ。
初日だからなんとか頑張らないとな。
いろいろな不安を抱えながらの夜営業が、始まる。
「りゅーちゃーん。ひとりつれてきたぁ」
リツが誰かを連れてきてくれたんだな。
後ろに隠れているが、リツと同じくらいの年齢だろうか。
細くて見ていられない。
「適当に座ってくれ。今、みんな分食べるの用意するから」
四人掛けのテーブルにイワンとリツ、そして新しく来た子。
隣のテーブルへはアオイが座っている。
余った昼用メニューの仕込みを使って作っていた丼ものをだす。
生姜焼きの肉とナンスの素揚げを米の上に乗せる。そこへ甘じょっぱい汁に少し酢を加えたタレをかけていく。香ばしい焦げの香り、醤油と酢のほのかな香りが腹を刺激する。
ナンスはこの世界のナスだと思ってほしい。
そして、みそ汁も余っていたので、それも準備する。
「これ、持って行ってくれるか?」
「はい!」
サクヤがテーブルを拭き終わるとすぐに来てくれた。
「私も手伝います」
アオイは立ち上がると、優雅な動きでこちらへ来てくれる。
「ありがとう。二人とも頼む」
お盆を一つずつ受け取るといい香りを漂わせてイワン達のテーブルへと運んでくれる。
テーブルに三つ並べると、次は自分たちのテーブルだ。
六人分を並べると席へと着いた。
イワン達は待ち遠しそうにこちらを見ている。
この匂いを嗅いだら腹が減るよな。
待ちきれなさそうだ。
「食材と、来てくれるお客様に感謝を。……食べるか」
手を合わせて少し祈る。
それが終わると、いただきますと小声で発して口に運んだ。
肉のうまみが口に広がり、ツンとした酢の香りが鼻を抜けていく。
「おいしー!」
「こぼさないように食べなよ?」
リツがガッツくのをイワンが微笑ましそうに眺めている。
その二人を優しいまなざしで見つめるサクヤとアオイ。
「さっきの、いただきますとはなんですか?」
「食材に感謝し、収穫者へ感謝し、そして作ってくれた人へ感謝する食べる前の祈りみたいなものだ」
その言葉に目を見開くサクヤとアオイ。
「そんな祈りがあるんですね! ウチもそれやりたいです! いただきます!」
「私も感化されました。いただきます」
二人も手を合わせて丼を食べる。
頬を緩めるのが見て取れた。
喜んでいるようで何よりだ。
新しく来た子に視線を巡らせると戸惑っていて、食べるのを逡巡しているようだ。
その子の元へ近づき、膝をついて目線を合わせる。
「どうした? 食べていいんだぞ?」
「ミリア、お金ない」
「ミリアっていうのか。俺はリュウだ。よろしくな。ここはな、この時間はお金を取ってないんだ。だから、好きに食べていいんだぞ?」
「えっ? でも、あとでとりたてとかにくるんでしょ?」
この子の家は取り立てに追われているんだろうか。もしかして、両親が借金しているのだろうか。その辺の家庭の事情にむやみに突っ込むのはあまりよくない気がする。
安心するには、この子に話すだけではダメかもしれないな。
「いかないさ。お父さん、お母さんに俺が話そうか?」
「ううん。おこられるから……」
「そっか。うーん。家はどこかな?」
「リツくんのいえの、となりのとなり」
だったら、歩いてそんなにかからないな。
すぐに行きたいところだが。
「怒られるっていうのは、殴られるのかい?」
「……うん」
親がいないリツ達は生活が本当に大変だろう。だが、親に暴力を振るわれる子というのは委縮してしまう。何もできなくなる。だからか、この子は細くてガリガリだ。
この姿を見て、親は何も思わないのか?
それが、不思議で仕方がない。
自分たちは食べているのに、この子には食べさせていないのだろうか。
このままでは、餓死してしまいそうだ。
親に言うなら早い方がいいな。
今夜、店を早めに閉めて行くか。
「お父さんとお母さんは、いつ帰ってくるんだい?」
「よる、おそくなってからだよ」
「先に寝てるのか?」
「うん。ねてないとおこられるの」
なんて理不尽な。
子供に触れることもしないということか?
邪魔者か何かと勘違いしているのか?
胸の内からどす黒い何かがあふれ出す。なんで。なんで子供にそんな仕打ちができるんだ。俺は、この子を放っていることはできない。
「俺が一緒に帰ってあげるから、それまで裏の部屋で待っていてくれないか? とりあえず、これを食べたらいい」
「でも……」
「大丈夫だ。なんなら、この家にいてもいい」
「えっ?」
「まぁ、親の許可がないとさすがに無理だけどな。別に、ずっとここにいてもいいぞ?」
「……おこられるから」
「俺が説得するから。大丈夫だ。食べな?」
丼を見つめた後、コクリと頷いて一口食べる。
よかった。食べてくれた。
「こんなにおいしいの。はじめてたべた」
「そうか。ゆっくり食べるんだぞ? 汁も飲んでみな? 体にはいいから」
ゆっくりとフーッフーッと冷まし。器のみそ汁を口へと流し込んでいく。俯いて震えている。
「大丈夫か? 腹が痛いか?」
一瞬、何か悪いものでも入れてしまったかと、そんなことを聞いてしまう。
「ううん。すごくおいしい」
かわいらしい笑顔が見えたことで安心したが、その目尻には雫が。
泣くほど喜んでくれたのかとホッとした。
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