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8.出禁?
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イワンとリツは、お腹がいっぱいになったと喜び。ミリアに「おいしい?」と聞いたりして気を使っていた。俺が、ミリアは一緒に夜帰るというと安心したように頷いていた。
二人はアオイと共に帰っていき、サクヤは夜営業の準備を手伝ってくれている。
ミリアには裏の住居部分で待っているようにお願いした。
仕込みが終わるあたり、サクヤが様子を見に行ってくれていたのだ。
「ミリアはどうだった?」
「ウトウトしていたので、毛布をかけて布団に寝かせてきました」
「ありがとう。飯を腹いっぱい食べたから眠くなったのかもしれないな」
「ふふふっ。そうですね。可愛い寝顔でした」
サクヤが母性溢れる笑顔を見せる。
イワンとリツは幸せだな。
こんなに優しい母親がいるのだから。
ミリアの親は問題だが、話をしてみるしかないだろう。
「サクヤ、暖簾だしてくれるか?」
「はいっ! 頑張りましょう!」
暖簾を再び出して、夜営業を開始する。
すぐに客は来ないかと思われた。
だが、そんな考えとは裏腹に冒険者風の男女が暖簾をくぐってきた。
「いらっしゃいませー!」
サクヤの疲れを吹き飛ばしてくれるような声が響き渡る。
その声に笑顔を見せたお客さんは案内されるがままに席へと座る。
「とりあえず、エール二つもらえるかな?」
「はーい! エールふたつー」
「あいよぉ」
この世界のエールはビールと同じようなものだが、樽で仕入れるからなのか時間がたつと炭酸がどんどん抜けていくのだ。そういうものだと思っているこの世界の人は気にしないみたいだが、俺は気になってしまう。
樽についた蛇口のようなものをひねってジョッキへ注いでいく。
琥珀色の液体は自分のおいしさを主張するようにシュワシュワと音を立てている。
アルコールと、原料となっているポップの香りが鼻へと流れ込んでくる。
カウンターへジョッキを二つ出す。
それをサクヤは素早くお客さんの元へと運んでいく。
「あー! うまい! なんかここのエール冷えてるねぇ!」
「ホントね! 冷たくておいしい!」
その秘密は日本ではよく知られているが、ジョッキを冷やして温度が下がらないようにしている。エールの樽も魔道具で冷やしている。その分、魔石を買わないといけないが、これは譲れない。エールは冷えているのがうまいのだ。
お客さんが満足してくれているようでうれしくなる。
そうこうしているうちに、また冒険者風の男三人組がやってきた。
サクヤを見た三人は色めきだったのがわかった。
ちょっと警戒したが、大人しく席へと着いた。
そっちもエールを頼まれたので、持って行ってもらう。
大人しく飲んでいるのなら問題ないだろう。
いきなりトラブルは勘弁してほしいものだ。
次々お客さんが入ってきてくれていた。
冒険者風のお客さんが多いのは、昼に来てくれた人たちのおかげだろうか。
あの青年はサクヤに手を出すなと言っておくと口にしていた。
料理はトロッタ煮と唐揚げがよく出ていた。
この世界での豆を煮て塩を振ったものもつまみとして用意したが、これも売り上げがいい。
初日にしてはいい売り上げではないだろうか。
料金もすべて五百ゴールドにしているから計算もしやすい。
締めもやりやすいだろう。
最初にきたお客さんが「おいしかった」と言って帰っていった。
嬉しい限りだ。この店が軌道に乗れば、こども食堂も活動を広げられる。
まずは、この店を安定させなければ。
そんなことを考えていた時。
「ちょっと! やめてください!」
サクヤの悲鳴が店内に響き渡った。
「なんだよ! ちょっと尻触っただけだろう? 俺たちはDランク冒険者だぞ? その辺のやつらより強いんだ。そんな俺たちにそんなこと言っていいのか?」
やはり、冒険者というのは力があれば何でもやっていいという者たちなのだろうか。
俺は、火にかけていたものをすべてとめて。
カウンターの横から身体を出していく。
店の空気が張り詰めるのを肌で感じる。
サクヤに手を出した冒険者はこちらを睨みつけると立ち上がった。
そして、俺の目の前へと歩み出る。
「なんか文句あんのかぁ⁉ コラァ⁉」
「金はいらねぇ、帰れ」
自分の中のどす黒い感情をそのまま言葉にのせる。
睨みつけていた冒険者は、唾を飲み込んだ。
「な、なんで帰らなきゃならねんだよ! 楽しく飲んでんだぞ!」
「迷惑だ。帰れ。そして、二度と来るな」
「は、はぁ⁉ そんなことして、店がつぶれるぞ⁉」
「お前みたいなのは反吐が出る。それとも何か? 冒険者は出入り禁止の店にしてもいいが?」
その言葉には、周りの冒険者も反応した。
「お、おい! おやっさん! それは勘弁してくれよ!」
「そうよ! こんなおいしい店、これなくなるなんて嫌だわ! あんた! 早く帰って! 二度とこないで!」
「そうだそうだ! お前早く帰れ!」
「冒険者だからってひとくくりにされたらたまったもんじゃねぇ! 冒険者の恥さらしめ!」
周りの冒険者にもそんなことを言われてしまったその男たちは、そそくさと店を出ていった。「潰れてもしらねぇからな」という言葉を残して。
あんな奴らには負けない。
ここは俺の店だ。
好き勝手はさせない。
「リュウさん。すみません。この分のお金……給金からひいてください」
頭を下げるサクヤ。
「あのなぁ──」
「──オヤジさん。あいつ等の分の金は払う。だから、冒険者禁止はやめてくれ!」
「そうだ! オレがその子の給金を払うぜ! いくらだ?」
口々にお客さんは立ち上がって懇願する。
次々と金を払うというお客さんたち。
ありがたいことだが。
「皆さん、お気遣い頂き、有難う御座います。しかし、奴らの分をいらないというのは私の言ったことです。言葉には責任を持ち、お代は頂きません。奴らを出禁にしますが、ほかの方たちは来てもらって結構です」
ホッと空気が緩んだ。
俺は言葉を続けた。
「これは、お願いです。この店ではマナーの悪いことをしたら出禁になると広めていただけませんか? そうすれば、あのような奴らは数が減るでしょう」
「まかせろ!」
「ちゃんと広めるわ!」
「こんなうまい店、出禁になるなんて死んだも同然だ!」
皆、了承してくれたようだ。
「空気が覚めてしまいましたね。すみませんでした。今日は料金から中硬貨一枚分割引させて頂きますよ。店は、ここら辺で閉めさせて頂きます」
喜びの声を上げて会計していくお客さん。
口々に「また来るよ!」「絶対広めるから!」と言って帰っていく。
愛される店になればいいなと思っていたが、なんとかなりそうだ。
さて、ミリアを送って行かないとな。
先に起きるであろうやり取りを考えると黒い感情が顔を出す。
どうにかできればいいが。
二人はアオイと共に帰っていき、サクヤは夜営業の準備を手伝ってくれている。
ミリアには裏の住居部分で待っているようにお願いした。
仕込みが終わるあたり、サクヤが様子を見に行ってくれていたのだ。
「ミリアはどうだった?」
「ウトウトしていたので、毛布をかけて布団に寝かせてきました」
「ありがとう。飯を腹いっぱい食べたから眠くなったのかもしれないな」
「ふふふっ。そうですね。可愛い寝顔でした」
サクヤが母性溢れる笑顔を見せる。
イワンとリツは幸せだな。
こんなに優しい母親がいるのだから。
ミリアの親は問題だが、話をしてみるしかないだろう。
「サクヤ、暖簾だしてくれるか?」
「はいっ! 頑張りましょう!」
暖簾を再び出して、夜営業を開始する。
すぐに客は来ないかと思われた。
だが、そんな考えとは裏腹に冒険者風の男女が暖簾をくぐってきた。
「いらっしゃいませー!」
サクヤの疲れを吹き飛ばしてくれるような声が響き渡る。
その声に笑顔を見せたお客さんは案内されるがままに席へと座る。
「とりあえず、エール二つもらえるかな?」
「はーい! エールふたつー」
「あいよぉ」
この世界のエールはビールと同じようなものだが、樽で仕入れるからなのか時間がたつと炭酸がどんどん抜けていくのだ。そういうものだと思っているこの世界の人は気にしないみたいだが、俺は気になってしまう。
樽についた蛇口のようなものをひねってジョッキへ注いでいく。
琥珀色の液体は自分のおいしさを主張するようにシュワシュワと音を立てている。
アルコールと、原料となっているポップの香りが鼻へと流れ込んでくる。
カウンターへジョッキを二つ出す。
それをサクヤは素早くお客さんの元へと運んでいく。
「あー! うまい! なんかここのエール冷えてるねぇ!」
「ホントね! 冷たくておいしい!」
その秘密は日本ではよく知られているが、ジョッキを冷やして温度が下がらないようにしている。エールの樽も魔道具で冷やしている。その分、魔石を買わないといけないが、これは譲れない。エールは冷えているのがうまいのだ。
お客さんが満足してくれているようでうれしくなる。
そうこうしているうちに、また冒険者風の男三人組がやってきた。
サクヤを見た三人は色めきだったのがわかった。
ちょっと警戒したが、大人しく席へと着いた。
そっちもエールを頼まれたので、持って行ってもらう。
大人しく飲んでいるのなら問題ないだろう。
いきなりトラブルは勘弁してほしいものだ。
次々お客さんが入ってきてくれていた。
冒険者風のお客さんが多いのは、昼に来てくれた人たちのおかげだろうか。
あの青年はサクヤに手を出すなと言っておくと口にしていた。
料理はトロッタ煮と唐揚げがよく出ていた。
この世界での豆を煮て塩を振ったものもつまみとして用意したが、これも売り上げがいい。
初日にしてはいい売り上げではないだろうか。
料金もすべて五百ゴールドにしているから計算もしやすい。
締めもやりやすいだろう。
最初にきたお客さんが「おいしかった」と言って帰っていった。
嬉しい限りだ。この店が軌道に乗れば、こども食堂も活動を広げられる。
まずは、この店を安定させなければ。
そんなことを考えていた時。
「ちょっと! やめてください!」
サクヤの悲鳴が店内に響き渡った。
「なんだよ! ちょっと尻触っただけだろう? 俺たちはDランク冒険者だぞ? その辺のやつらより強いんだ。そんな俺たちにそんなこと言っていいのか?」
やはり、冒険者というのは力があれば何でもやっていいという者たちなのだろうか。
俺は、火にかけていたものをすべてとめて。
カウンターの横から身体を出していく。
店の空気が張り詰めるのを肌で感じる。
サクヤに手を出した冒険者はこちらを睨みつけると立ち上がった。
そして、俺の目の前へと歩み出る。
「なんか文句あんのかぁ⁉ コラァ⁉」
「金はいらねぇ、帰れ」
自分の中のどす黒い感情をそのまま言葉にのせる。
睨みつけていた冒険者は、唾を飲み込んだ。
「な、なんで帰らなきゃならねんだよ! 楽しく飲んでんだぞ!」
「迷惑だ。帰れ。そして、二度と来るな」
「は、はぁ⁉ そんなことして、店がつぶれるぞ⁉」
「お前みたいなのは反吐が出る。それとも何か? 冒険者は出入り禁止の店にしてもいいが?」
その言葉には、周りの冒険者も反応した。
「お、おい! おやっさん! それは勘弁してくれよ!」
「そうよ! こんなおいしい店、これなくなるなんて嫌だわ! あんた! 早く帰って! 二度とこないで!」
「そうだそうだ! お前早く帰れ!」
「冒険者だからってひとくくりにされたらたまったもんじゃねぇ! 冒険者の恥さらしめ!」
周りの冒険者にもそんなことを言われてしまったその男たちは、そそくさと店を出ていった。「潰れてもしらねぇからな」という言葉を残して。
あんな奴らには負けない。
ここは俺の店だ。
好き勝手はさせない。
「リュウさん。すみません。この分のお金……給金からひいてください」
頭を下げるサクヤ。
「あのなぁ──」
「──オヤジさん。あいつ等の分の金は払う。だから、冒険者禁止はやめてくれ!」
「そうだ! オレがその子の給金を払うぜ! いくらだ?」
口々にお客さんは立ち上がって懇願する。
次々と金を払うというお客さんたち。
ありがたいことだが。
「皆さん、お気遣い頂き、有難う御座います。しかし、奴らの分をいらないというのは私の言ったことです。言葉には責任を持ち、お代は頂きません。奴らを出禁にしますが、ほかの方たちは来てもらって結構です」
ホッと空気が緩んだ。
俺は言葉を続けた。
「これは、お願いです。この店ではマナーの悪いことをしたら出禁になると広めていただけませんか? そうすれば、あのような奴らは数が減るでしょう」
「まかせろ!」
「ちゃんと広めるわ!」
「こんなうまい店、出禁になるなんて死んだも同然だ!」
皆、了承してくれたようだ。
「空気が覚めてしまいましたね。すみませんでした。今日は料金から中硬貨一枚分割引させて頂きますよ。店は、ここら辺で閉めさせて頂きます」
喜びの声を上げて会計していくお客さん。
口々に「また来るよ!」「絶対広めるから!」と言って帰っていく。
愛される店になればいいなと思っていたが、なんとかなりそうだ。
さて、ミリアを送って行かないとな。
先に起きるであろうやり取りを考えると黒い感情が顔を出す。
どうにかできればいいが。
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