異世界帰りの元勇者が現代の危機を救う~謎の異世界化、原因究明の旅へ~

ゆる弥

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第一章 秋田編

25.カッコイイ母

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 ショッピングモールを後にして再び高速にのる。布団は畳んでいる状況だ。

 ゆっくりと走っていると無音のため、千紗に話しかけたくて話題を探している自分がいた。何がいいかなと頭をよぎる。

「刃さんって、なんでジスパーダに入ったんですか?」

 千紗から話題を提供されてしまった。

「俺の爺さんが鍛冶師でな。俺は鍛冶をじいちゃんから学んで刀を作ってたんだ。それが賞を取ってなぁ。ジスパーダからスカウトされたんだ」

 そう。今思えば賞を取ったのは異世界から帰ってきてからだったな。身体があっちで作ってた刀の作り方を覚えてたんだろうなと、今となっては思う。

「へぇ。じゃあ、私と一緒ですね」

「千紗は何でスカウトされたんだ?」

「私の場合は、ちょっと特殊で────」

「────敵襲だ!」

 車を止めると車をおりる。
 刀を構え迎え撃つ。
 襲ってきたのは前日と同じくマラスだった。

 初撃は俺への突進だった。
 炎を纏い斬撃を放った。
 紙一重で躱される。

 そのまま通り過ぎで行き、旋回して再び向かってくる。

「俺ばっかり見てていいのか?」

「行きますわ!」
「ライジングウェーブ!」

 雷の波動と少し遅れてレーザーが直撃した。見事に二人とも命中させた。魔石がコロンと地面に転がった。

「二人ともよくやったな!」

「刃さんのアドバイスのおかげっす!」
「ワタクシは自分でタイミングを見極めましたわ」

 二人とも胸を張って誇らしげだ。
 俺まで誇らしい気分になる。
 この年齢はまだまだ発展途上だからこれからの成長が本当に楽しみでならない。

 そういう俺もまだまだ衰退する気はない。現役でいる限り精進し続けようと思っている。

「さぁ! 行くわよ?」

 既に車に乗り込んでいた千紗が乗るように促す。なんだかやる気が満々だなと思い微笑ましく思いながら車へ乗り込む。

 発信して少しすると千紗が口を開いた。

「私の特殊な事情なんですけど、実は岩手の東北基地に私の母がいるんです。同じく治癒部隊に所属しています」

「となると俺の先輩でもあるわけだな」

「そうなりますね。けど、私は自分の力で入りたかったのに、母が勝手に推薦してしまって……」

 眉間に皺を寄せて少々うつむき加減で呟いた。特殊というのはそういうことだったのかと納得した。

「お母さんを見ていて、ジスパーダに入りたいと思ったのか?」

「カッコイイんです。うちの母。バリバリ仕事できるし、戦闘だって前衛やっちゃうくらいで。私なんか足でまといになっちゃってるから……」

 また暗くなってしまった。

「なぁ。別にお母さんみたいに前衛はできなくてもいいんじゃないか? 前にも言ったけど、人には向き不向きがあるから、やれる事をやればいいと俺は思うぞ?」

「そう……ですかね?」

 不安そうにこちらを伺ってくる。

「そうだぞ。俺はこんなに静かに運転ができない」
「自分もっす!」
「ワタクシ、運転は苦手ですの」

 後ろの二人も話に入ってきた。

(そうだよ。こんないいパーティで誰も千紗が何も出来ないなんて思ってないさ)

「ほら、二人もそう言ってる。運転は千紗が適任。戦闘に関しては俺達、三人が適任。それだけだろ?」

 そういうとまだ納得してないのか口を尖らせて難しそうな顔をしている。

「あぁー。車で移動できないと困るなぁ」
「自分歩きは勘弁っすよ!?」
「ワタクシも行く気なくしますわ」

 三人が好きに言うと。

「ぶっ! わかりましたよぉ! 私に運転させてください!」

「お願いします」

 みんなで頭を下げる作戦だ。
 少し顔に笑顔が戻った。
 一先ず、安心かな。

 しばらくは順調に走り、日が傾いてきた。
 鹿沼インターと表示があり、すぐ近くにホテルがあった。

「鹿沼インターで降りてホテルで泊まるか?」

「ガチのお布団ですわ!」

 冬華が食いついてきた。
 ホテルなら安心して寝られるだろう。
 多少寝坊しても構わない。

 インターをおりてホテルに向かう。
 必要なものだけ持っておりる。
 車は目立たないように端の方に止めておく。

 一応警戒して自動ドアを手でこじ開ける。
 電気はきてないと思うから仕方がない。

 フロントの中に入ると二人部屋を確認する。
 確認して二階へと登っていく。
 直ぐに何かあっても出て行けるように二階の方がいいだろうという判断だ。

 階段から通路に入ってすぐの部屋のドアノブを引っ張るとガチャりと閉まっていた。

(そりゃそうだ。カード持ってきても電池きれてるだろうからな)

 入口の隙間に指を当てる。
 そこからバーナーのような青い炎の細い炎を出す。
 少しすると部屋が開いた。

 隣の部屋も同様にして開けると男二人、女二人で中に入る。

「冬華、酒欲しいか?」

「どうせなら飲むなら一部屋で飲みませんこと?」

「それもそうだな」

 男が泊まる方の部屋にみんなで入り各々の座りたいところに座る。

「飯にしよう。そして、酒だ!」

 俺は高らかに宣言してホテルにあったコップへ酒を注ぐ。冷えてはいないが、贅沢は言うまい。

 干し肉を齧って酒を一口。
 焼酎のイモの香りが鼻から抜けて喉が熱くなる。
 割るのがないからロックで飲んでいたのでそんなことになっている。

「これ芋焼酎だったか。よく見ないで飲んだけど美味いな。雷斗、飲んでみるか?」

「いや、匂いだけでちょっと……」

「そうか。美味いのになぁ」

 そう言いながら始めた宴会は思いのほか長くなったのであった。
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