ゴミ屋だった青年は『集』『使』で無双する

ゆる弥

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8.『粋』とは

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「タイガ! ここももたねぇぞ?」
 
「皆を少しでも安全なところに避難させるんだ! ここは俺が通さねぇ!」

 なんでこの領はこんなに弱いんだ。
 他の領に侵略されるばっかりじゃねぇか。
 上のやつは何してんだ。

「兄貴! 早く下がるよ!」
 
「ミレイは先に行け! 俺は奴らを食い止める!」
 
「一人じゃ無理だって! 私も残るよ」

 我が妹ながら肝が据わっているな。
 そんな妹にこれまでも助けられてきた。
 こんな所で死ぬ訳には行かねぇ。

 迫り来るやつはみんな俺の大剣でぶった斬った。ミレイは字力を使ってぶっ飛ばしてる。このまま行けば追っ手はまけるかもな。

 そうして安全な地帯へと引いた。
 この世界は大部分を森に包まれ菱形のような形で東西南北に領がある状態だ。

 北が『魔』。東が『獣』。南が『覇』。西が『金』だった。
 
 その中心部は乱戦がいつも起きている。僅かに接している部分から隣領が侵略してくる事もある。

 この領の領主は何も出来ない間抜けだ。
 天漢てんかんは『金』だから金が集まりやすい星の流れらしい。だからその金でこの領を作ったんだとか。

 だが、この乱世の世では金があってもほぼ意味がない。何故か。力でむしり取られる世の中だからだ。

 戦えない領主は結果として金だけ渡して自分の命を助けてもらい、この領を見捨てたのだ。
 今は無法地帯となっている。

 俺はこの領を必ず強い領にしてみせる。

 そう誓い、十五年が過ぎた。

 仲間達と何とか敵を押し出してこの領を作った。
 俺は二文字持ちで『生』と『粋』の二文字持ちだ。
 この天漢は戦いで使えるようなものではない。生命力に溢れてみんながついて行きたくなるような、粋な心の男になれる。そういう字だ。もちろん自分自身もそうなるように努力してきた。

 それが今、形として領を掲げるほどになっている。だが、平和な世の中とはいかない。最初は領の中でも揉め事が起きた。

 その度に俺が仲裁に入りなんとか仲を取り持った。食い逃げや盗みをするような奴は大概、金がない。仕事がないからそうなる。

 俺はそんな奴らに向けて字兵ギルドという組織を作り、領民に依頼をされたものに任務として字兵を向かわせるようにした。

 そうすることで仕事にもつけるし金も手に入る。でも、一定数の戦闘が苦手な人達はいる。そんな人たち用に任務をランク付けして十級から一級まで分けた。

 そうして運用することで領として上手く回っていき、今の形に収まった。

 ある時、食い逃げをした男を捕まえた。その男に字兵をしたらどうかと提案したんだ。

 それがモーザだ。
 悪いやつじゃないと思っていたんだが、おれの見込みは間違っていたようだ。
 全くなんのためにやってんだか。

 アイツは宿舎には居なかったはずだ。そこらへんの小屋に住むと言って聞かなかった。

 面倒みのいいコウジュが大体の居場所を教えてくれた。「モーザさんがなんかしたんすか?」と言っていたがなんでもないように濁しておいた。

 知らない方がいいこともある。
 今回、身内から裏切り者が出たんだ。
 嫌な思いしかしないだろう。

「夜分にすまんな。モーザいるか?」
 
「……へい!? タイガさんっすか!? こんな夜にどうしました!?」
 
「なぁ、モーザ。金集めて何やってんだ?」
 
「えっ!? 何のことっすか!?」
 
「もう調べてあんだよ。しらばっくれても意味がねぇぞ?」

 バツが悪そうな顔をして下を向くと語り出した。

「あっしが七級なのはしってやすよね? そして、天漢が『走』なのを知ってやすよね?」
 
「あぁ。だから逃げるのが得意なんだよな? 七級で何の問題がある?」
 
「タイガさん。問題なんだよ。五年だぜぃ? 字兵になってから。全然ランクが上がらないんですさぁ。それは、字獣を討伐できないからなんだ」

 遠くを見ながらそう話すモーザの目には涙が溜まっている。

「少し前、好きな子ができたんだ。いい感じになったが、字兵なのに金がないと知るとすぐにこの周辺に近づかなくなったんでさぁ」

 それには何も言えなかった。そういう領にしてしまっている俺が悪いのだろうな。そう思った。

「それはすまなかった。そういうシステムにしてしまった俺の落ち度だ」
 
「だからさ。だから俺は『魔』領の奴に手を貸して、この領が負けそうになった時、あっちへ寝返り富を得ようとしたんだ! 何が悪い!」
 
「モーザ。お前が何をしようと自由だ」

 俺はモーザの目を見て呟いた。

「だが、その方法は以前の領主がやったことと同じだぜ?」

「あっしは違いますぜ?」

「敵領に媚び売って。ずっとそうやって相手の言いなりになるのか? 一生そうやって生きるのか? ずっと搾取される人生になるぞ?」

 座って冷静に話していたモーザだったが、これには腹が立ったんだろう。顔を真っ赤にして立ち上がった。

「だったら、どうしろって言うんでさぁ!? 天漢が『走』じゃぁ、なにもできない!」

 しばし沈黙がその場を支配し、この暗がりには二人しかいないような感覚になる。

「俺の天漢は戦いに使えねぇんだぜ? 知ってるだろ? 『生粋』だぜ? それでも戦えているのは、肉体を鍛えたからだ。戦いを沢山経験したからだ! 今からでも遅くねぇ。モーザをカモにしやがったそいつらに鉄槌をくらわしてやるんだ!」

「くっ! あっしはまた馬鹿なことをしていたんですかねぇ」

 床に這いつくばりながら涙を流すモーザ。

「まだ間に合う。そいつらと縁を切れ」

 後ろで僅かに物音がした。

「そういうわけにはいかねぇ。ここでふたりには死んでもらう」

 それは見知らぬ者の声。
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