父の遺したもの

ゆる弥

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父の遺したもの

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チーンッ

 仏壇の上に手を合わせて拝む。
 目の前には父の遺影。
 笑っているいい顔の写真なのよね。

「絵美里ー。こっちに座ってご飯食べましょー」

「はーい」

 母は今は実家で一人で暮らしている。
 たまに帰ってくるようにしているんだけど、忙しくて中々頻繁には来られない。

「蒼太は? 元気にしてる? 連れてくればよかったのにー」

「もう蒼太は高校生よ? 来ないわよ」

 笑顔で息子のことを気にしてくれる母。
 でも、もう蒼太は高校生だ。
 高校生にもなると母と二人では中々出かけてくれない。

 思春期とはそんな物だろう。


 
 私も、あの頃父とは疎遠だった。
 高一の誕生日のときだったかな。

「何このぬいぐるみ!? 私がまだお子ちゃまだって言いたいの!?」

「ち、違うぞ!? このキャラクター好きじゃないか!?」

「だとしても、ぬいぐるみなんて子供みたいなの買ったりしない! いらない!」

 私はそう言ってぬいぐるみを投げ捨てたっけ。
 あの時は何だか腹が立っちゃったのよね。
 でも、なんであの時、ぬいぐるみを買ってきたんだろう?

 

「絵美里、お父さんが高校生の時にぬいぐるみ買ってきたの覚えてる?」

「うん。覚えてるよ。ねぇ、あの時なんでぬいぐるみなんて買ってきたの?」

「ぬいぐるみをあげるのには意味があって、自分を思い出して欲しいとかそういう意味があるんだって……」

 知らなかった。
 そういう意味だったんだ……だから……。

「ふふふっ。あの頃病気だったのを隠してたでしょう? 死んだら、あなたに忘れられるんじゃないかと心配だったみたいよ」

「馬鹿だなぁ。私あの時病気のこと知らなくて……」

「お父さんね、幸人君のこと……いい男だって言ってたのよ? なんか直接話をしたとかって聞いたけど、なんか聞いてないの?」

「えっ。聞いてない……」

 幸人とは私の夫になった人だ。



 家に帰ってから聞いてみることにした。

「ねぇ、パパ。うちのお父さんと高校生の時話したの覚えてる?」

 家に帰ってきてビールを飲んでいた所だったけど、聞いてみた。
 テレビを見ていて笑っていた顔が真剣な顔になった。一体どうしたのだろう?

 おもむろに立ち上がり、奥の部屋に行く。
 少しすると、手に何かを持って戻ってきた。

「!?……そ、それ!」

「絵美里、覚えてるか? このぬいぐるみ、お義父さんから貰ったのをその場で投げ捨てたんだってな」

「あ、あの時は、何も知らなかったから」

「その後、家にお邪魔した時に呼び止められてな。頭を下げられたよ」

「なんで?」

 あの時に何故幸人に頭を下げたの?

「お願いされたんだ。あの時────」



「幸人君、ちょっといいかな?」

「はい! 何でしょう?」

「絵美里とはどうだい? 上手くいってるかい?」

「はい! 僕は絵美里さんを大好きなので!」

「はっはっはっ! そうか」

 急に真剣な顔になり。

「絵美里と、結婚する気はあるかい?」

「……はい! 必ず、幸せにします!」

 ニコッと笑い。

「そうか。幸人君なら安心だ。これなんだが、絵美里には受け取るのを拒否されてしまってね。幸人君、気持ち的にかなり重い物だと思うんだが、受け取って貰えないだろうか? もちろん、捨ててもらっても構わない。実は、私はガンでね。長くないんだ。代わりにそのぬいぐるみを渡したくてね。絵美里を頼む」



「俺は、あの時に必ず絵美里を幸せにするって決めたんだ。そして、お義父さんとも一緒に居ようってね」

 視界がよく分からない。
 ボヤけてる。

 私バカだなぁ。
 今までそんな事知らなかった。

「これを言ったら絵美里がさらにお義父さんを嫌いになるかもしれないと思ったんだ。だから、今まで俺の心に閉まってた。ごめん」

 幸人は……お父さんのことをそこまで考えて……。

「俺、絵美里のお父さんみたいな人になりたいとずっと思ってる。子供思いの優しい父親に」

 ポロポロと流れ出た涙はしばらく止まず。
 とめどなく流れていた。

「お義父さんとお義母さんが出会わなければ絵美里は居ないわけだからね。二人に感謝しないと」

 お父さんにはもうお礼は言えないけど。
 お母さんにはこれからお礼をいっぱい言おう。

 お父さん。
 今更だけど、私を育ててくれてありがとう。
 これからはぬいぐるみをお義父さんの代わりに色々と連れていくね。

 大好き。
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