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泊まる事になるとは
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喧嘩の騒動で店を早仕舞いした後、中条さんを背負ってマンションに向かう。
背中でブツブツと文句を言っているが、暑くて重くて、俺は返事をせずに黙々と歩いた。
ようやく玄関の前に来ると、カギを受け取ってドアを開けた。
「着きましたよ、降りて下さい」
背中の中条さんに言う。腰が痛くなってきて限界だった。
「はいはい、降りるから。ありがとうな」
ストンと床に足を着くと言った中条さん。
「歩けるじゃないですか。背負ってくれっていうから、足を痛めたんだと思ったのに...」
「痛かったよ、ハルくん、おもいきりオレの事投げ飛ばすから」
「......悪かったですけど、...ああしないと収拾がつかなくて。すみませんでした」
渋々頭を下げる。
「まあ、ええわ。とにかく、そのほっぺたの傷をなんとかしないと」
俺を見上げると、頬に指を当てて言った。
確かに。中条さんを背負ってきて疲れたせいか忘れていたが、言われてみれば今頃ジンジンと痛みだした。
「これ、明日にはなんとかなりますかね?」
俺は自分の頬に手を当てると聞いてみた。明日は実家に戻る予定だったし、とにかく夕方までに腫れが引けばいいんだが。
「どうかな。傷は絆創膏がいるし、頬骨のところ青くなってるからなあ。2~3日はかかりそうかな」
そう言われて凹んだ。
トンちゃんにどうやって説明したらいいか。それに、母さんや父さんにも......。
「もう一回顔洗ってきなよ。傷薬と絆創膏貼ってあげるから」
仕方なく、はいと返事をすると、俺は洗面所に向かった。
今は、自分の事で精一杯で、頭の中にトンちゃんや両親の顔が浮かんでくる。
今日に限って、どうしてあんな事になったのかと、悔やんでも悔やみきれなかった。ただ、俺があの人を中条さんのところに行かせてしまったのがいけなかったのかも。二人の間に入って面倒だったから、ついあんな事を言ってしまったんだ。
* * *
顔を洗ってリビングに戻ると、テーブルの上に絆創膏の箱と薬が置いてあった。
「あ、ここに座って」と言われ、ソファーに腰を下ろす。
俺の前に立って、中条さんは傷薬のチューブから指に軟膏をとると俺の頬に塗りつけた。
「中条さん、ちゃんと手を洗いました?」
「キッチンで洗ったよ。オレの手が汚いみたいに言わんとって」
ムッとした様に、唇を尖らせると、俺の鼻先をピンと弾く。
絆創膏を頬に貼ってくれると、中条さんは「これでええかな。とりあえず、寝るまではほっぺたを冷やしとったらええやろ。明日にはちょっとマシになると思う」と言って俺の目を見る。
「冷やす物って、俺の部屋にそんなの無いんですけど。氷とかも作ってないし...」
「熱出た時にどうしてるん?保冷剤とかあるやろ」
呆れた顔で俺を見ると言うが、こっちに来てから熱を出す事もないし、そういえば薬なんかも常備していなかった事を思い出す。
「そういうの無いんで」
首を振ると答えた。
「それなら今夜はここに泊まっていき。うちの冷蔵庫に冷たいのいっぱい入ってるから、朝まで冷やしとったらええわ」
「え?......いや、俺、着替えとかないし」
「アニキのがあるから、それを着たらええやん。どうせもう着ないんやし、ハルくんにあげる。下着も新しいのあげるから」
俺が困った顔をしているのに、中条さんは意気揚々とした足取りで寝室に向かった。
「あ、中条さん...」
俺の言葉も聞かずに、クローゼットを開いてゴソゴソと何やら取り出している。
まいったな、と思いつつ、どこかで諦めている自分もいた。
とりあえずは、顔の腫れをおさえる事が大事。保冷剤をもらっても、アパートに着くころには溶けてしまうだろうし、今日は中条さんの言葉に従おう。
背中でブツブツと文句を言っているが、暑くて重くて、俺は返事をせずに黙々と歩いた。
ようやく玄関の前に来ると、カギを受け取ってドアを開けた。
「着きましたよ、降りて下さい」
背中の中条さんに言う。腰が痛くなってきて限界だった。
「はいはい、降りるから。ありがとうな」
ストンと床に足を着くと言った中条さん。
「歩けるじゃないですか。背負ってくれっていうから、足を痛めたんだと思ったのに...」
「痛かったよ、ハルくん、おもいきりオレの事投げ飛ばすから」
「......悪かったですけど、...ああしないと収拾がつかなくて。すみませんでした」
渋々頭を下げる。
「まあ、ええわ。とにかく、そのほっぺたの傷をなんとかしないと」
俺を見上げると、頬に指を当てて言った。
確かに。中条さんを背負ってきて疲れたせいか忘れていたが、言われてみれば今頃ジンジンと痛みだした。
「これ、明日にはなんとかなりますかね?」
俺は自分の頬に手を当てると聞いてみた。明日は実家に戻る予定だったし、とにかく夕方までに腫れが引けばいいんだが。
「どうかな。傷は絆創膏がいるし、頬骨のところ青くなってるからなあ。2~3日はかかりそうかな」
そう言われて凹んだ。
トンちゃんにどうやって説明したらいいか。それに、母さんや父さんにも......。
「もう一回顔洗ってきなよ。傷薬と絆創膏貼ってあげるから」
仕方なく、はいと返事をすると、俺は洗面所に向かった。
今は、自分の事で精一杯で、頭の中にトンちゃんや両親の顔が浮かんでくる。
今日に限って、どうしてあんな事になったのかと、悔やんでも悔やみきれなかった。ただ、俺があの人を中条さんのところに行かせてしまったのがいけなかったのかも。二人の間に入って面倒だったから、ついあんな事を言ってしまったんだ。
* * *
顔を洗ってリビングに戻ると、テーブルの上に絆創膏の箱と薬が置いてあった。
「あ、ここに座って」と言われ、ソファーに腰を下ろす。
俺の前に立って、中条さんは傷薬のチューブから指に軟膏をとると俺の頬に塗りつけた。
「中条さん、ちゃんと手を洗いました?」
「キッチンで洗ったよ。オレの手が汚いみたいに言わんとって」
ムッとした様に、唇を尖らせると、俺の鼻先をピンと弾く。
絆創膏を頬に貼ってくれると、中条さんは「これでええかな。とりあえず、寝るまではほっぺたを冷やしとったらええやろ。明日にはちょっとマシになると思う」と言って俺の目を見る。
「冷やす物って、俺の部屋にそんなの無いんですけど。氷とかも作ってないし...」
「熱出た時にどうしてるん?保冷剤とかあるやろ」
呆れた顔で俺を見ると言うが、こっちに来てから熱を出す事もないし、そういえば薬なんかも常備していなかった事を思い出す。
「そういうの無いんで」
首を振ると答えた。
「それなら今夜はここに泊まっていき。うちの冷蔵庫に冷たいのいっぱい入ってるから、朝まで冷やしとったらええわ」
「え?......いや、俺、着替えとかないし」
「アニキのがあるから、それを着たらええやん。どうせもう着ないんやし、ハルくんにあげる。下着も新しいのあげるから」
俺が困った顔をしているのに、中条さんは意気揚々とした足取りで寝室に向かった。
「あ、中条さん...」
俺の言葉も聞かずに、クローゼットを開いてゴソゴソと何やら取り出している。
まいったな、と思いつつ、どこかで諦めている自分もいた。
とりあえずは、顔の腫れをおさえる事が大事。保冷剤をもらっても、アパートに着くころには溶けてしまうだろうし、今日は中条さんの言葉に従おう。
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