胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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中条さんの優しさ

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 腹が満たされて、気持ちも落ち着くと、中条さんが部屋に戻って来るのを待った。
 不思議と、前に中条さんの看病をした時の事を思いだす。あの時は、こんな日が来るなんて想像もしていなかった。俺が中条さんに面倒見てもらうなんて、ちょっと滑稽で、でも、有難いと思った。


「ハルくん、今、お湯溜まったからお風呂に入ってきな。シャワーより、身体の芯が温まった方が気分も良くなると思うし」

 そう言うと、バスタオルと着替えを手に持ってやってきた。
 
「…なんだか、すみません。迷惑かけちゃって」
 俺は頭を下げた。不甲斐ない自分が恥ずかしくもあった。熱がある訳でもなく、どこかが痛い訳でもない。ただ気分が落ち込んでいるだけの俺の為に、こんなに尽くしてもらうのは申し訳なかった。

「迷惑とか、そんな事気にしなくてええから」

「はい、…じゃあ、風呂に行ってきます」
 中条さんから渡されたバスタオルと着替えを持つと、俺は部屋を出た。


 ◇

 浴槽に足を伸ばして浸かっていると、本当に気分は落ち着いてくる。前日のショックが嘘の様に、今は心が穏やかになっていた。中条さんに誘ってもらって良かったと思った。

 風呂から出てリビングに行くと、中条さんが「喉が渇いたら冷蔵庫に入ってるもの飲んでいいから。オレも風呂入って来るし、ゆっくりしといて」と言った。

 俺と入れ替わりで浴室に向かう中条さん。
 俺は着替えた服を畳んでソファーの上に置くと、腰を下ろして背もたれに身体を預けた。熱をおびた身体に、エアコンの涼しい風が心地よくて、瞼をゆっくり閉じればいつの間にか眠ってしまった。


「…くん、…ハルくん、ベッドに入って寝たら?ここにおったら風邪ひくで」

 中条さんの声で目が覚めた。
 目の前には、長い髪をお団子の様に無造作に結んだ中条さんがいて、俺はそれを見てホッとした。なんだか見慣れた姿のような気がして、「じゃあ、寝させてもらいますね」と言うと立ち上がる。

 中条さんのベッドで眠るのは久しぶり。
 そんな事を考えながら、目を閉じると静かに横たわって眠った。

 眠りについてはいたが、隣に中条さんがいる感覚はある。
 何も聞かずに、こうして眠らせてくれる事がありがたかった。そして、人の温もりを感じながら、安心していられる場所が欲しかったのだと思った。今、こうして安らいだ気持ちになっているのは、中条さんがいてくれるおかげ。心の中で、何度かありがとう、と言った後で、本格的に意識はなくなっていった。


 
 
 
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