胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

文字の大きさ
78 / 205

やっぱり変わってる

しおりを挟む

「今夜の予定は?」と訊かれて黙っていると、中条さんは「4時になったらまた此処に来て。」という。

「は?.....なんで......」

 戸惑う俺に、カレは笑みを浮かべてその場から離れて行った。
見ると、客がレジ前で待っていて、接客の為に向かった様で。俺は気を取り直すと、お菓子とパンと昼用の弁当をカゴに放り込んで中条さんの居るレジに並ぶ。

「......2355円になります。」

 そう云われてお札を3枚取り出すと手渡した。

「645円のお返しです。」と云いながら、また俺の顔を見るとニコリと笑みを浮かべる中条さんに、「4時って何ですか?」と訊ねれば「対決場所はオレに任せて。そんで、今夜はご馳走するから。」という。

 なんだか訳が分からないが、予定もない俺は断る事も出来ずに了承すると「じゃあ、また来ます。」と云ってコンビニを出る。
袋を抱えながら、あの人に遭遇する事もあるだろうとは思ったが、こういう展開はどうなんだろうと、また頭の中が混乱してくる。

 対決ってなに?
料理を作れるって事は重要なのか?俺は最近やっと作れる様になって、トンちゃんの胃袋を掴むためにはどんどん覚えなきゃ、とは思っている。が、中条さんと対決する意味が分からない。でも、あの人の圧に負けてしまう俺は、仕方なく時計を確認して過ごす事になった。

 本当はトンちゃんと過ごすはずだった日曜日。
なのに、何故か中条さんに料理対決を申し込まれて、4時近くになるともう一度コンビニに向かう。


「ほんまに来た!」

 コンビニの入口で俺の顔を見ると、中条さんは目を見開いてそう云った。
----え、冗談だったのかよ

ちょっと不機嫌そうに見る俺に近寄って来ると、コンビニの制服から着替えて長い髪を降ろしバケツハットをかぶる中条さんの顔がにやける。

「ホントに料理対決なんかするんですか?」

 隣でニヤケ顔の中条さんに訊いた。入口から少し離れて店の壁に近寄ると、もう一度カレの顔を見る。

「するで~。.....そしたら行こか?」

 そう云いながら俺の前を歩く。
ハットから伸びて背中に掛る髪を見れば、女性だと思われそうな華奢な躰付き。今まで気付かなかったけど、公家の様な上品な顔立ちは黙っていれば美人なのかも。でも、横に並んで顔を見ながら話すとまるでそんな風には思えない。祐斗は顎の線も細くて、あんまり男っぽくはなかったけれど、中条さんは前から見ればちゃんと男だった。それに話し出せば見た目とのギャップに驚かされるほど、いわゆる変わった人、に見えた。

 そんな事を思いながら中条さんに付いて歩いていると、一件の店の前で立ち止まった。

「ここで対決や。」

 そう云うと、中条さんは店の横の路地に入って行く。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Innocent Lies

叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』のリーダーを務める内海奏多。 "どんな時でも明るく笑顔"がモットーだが、最近はグループ活動とドラマ出演の仕事が被り、多忙を極めていた。 ひょんな事から、ドラマで共演した女性アイドルを家に送り届ける羽目になった奏多。 その現場を週刊誌にスクープされてしまい、ネットは大炎上。 公式に否定しても炎上は止まらず、不安を抱えたまま生放送の音楽番組に出演する事に。 すると、カメラの回っている前でメンバーの櫻井悠貴が突然、『奏多と付き合ってるのは俺や』と宣言し、キスしてきて…。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...