胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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さてさて、料理しますか。

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 実家の駅近くにもあった様な古びたビルの一階。路地に入って、通用口と書いてあるドアのノブを回す中条さん。その後について俺も中に入ると、外観とは少し毛色の違う配色のドアが見える。

「ここって飲食店ですか?」

 俺は中条さんの顔を横目で見ながら訊ねた。

「昼は喫茶店。夜の8時からはバーになってる。いわゆる軒先ビジネスってやつで、使われていない時間帯を借りてるんや。......ぁ、オレはバーの方でバイトしてる。」

「.......そんな事出来るんですか?同じ店を使うなんて。それに中条さん、もう成人したんですか?酒とか扱うバーで働いていいんすか?」

「もちろん。オレ、二年生やけど歳は21やし、酒かて飲めるで。........あ、でもここでは主に料理を作る方が多い。」

「.......21,っすか?.....」

 なんとなく歳の事に触れるのはやめておいた方が良さそうだ。

「今日は喫茶店が休みの日で、8時までは誰もおらんのよ。せやから料理対決はここで。」

「.....ぇ~......」

 なんだか面倒な事になったな、と思いながらも、帰る訳にもいかず仕方なく中条さんに付いて店の厨房に入って行く。

 厨房といってもカウンターから見えそうな小さな場所で、本格的な料理をするような感じはしない。喫茶店というからには、サンドイッチとかスパゲッティーとかカレーぐらいは出すんじゃないのか?それとも飲み物しか出さないとか?

「そしたら、先ずは冷蔵庫の中から使えそうな材料を出して。時間は今から1時間以内に夕食になりそうな物を作る事。出来たら互いにチェックし合おう。」

 中条さんはそう云うと、すぐに冷蔵庫から材料を取り出した。
俺は、呆気にとられてしまいポツンと佇んでいる。急にそんな事を云われても、何を作ればいいのか。それに、凝った料理なんて出来る訳がないし。

「エプロン貸したるから。ほら、......」

 無理やりエプロンを手に持たされて、なんとなく覚悟を決めた俺は、それをつけると冷蔵庫の中を覗く。
ど素人の俺が作れる料理なんて、カレーかチャーハンくらい。あとはテレビで観た、名前のない料理。確かいろんな種類のキノコをニンニクやバターで炒めていた様な.....。

 丁度エリンギやしいたけ、しめじにまいたけがあって、それを出すと記憶を頼りに作ってみる事にした。

 既に手洗いを終えて野菜を切っている中条さんの横に行くと、俺もニンニクの皮を剝きだした。
気乗りしない料理対決に、どうして真面目に取り組んでいるのだろうと、考えたら自分でも可笑しくなる。
それでも、何もやる事のなかった日曜日が少しだけ面白い日になるかと思うと、それも悪くはない。
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