胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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会いたい

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 ナンパした女の子たちと連れだって帰って行った吉村たち。
俺は課題があるからと、カフェで別れるとひとりアパートに向かったが、アキちゃんは最後まで俺の横で話しを続けたそうにしていた。始終笑顔を絶やさずに、俺に向ける眼差しが普通よりも熱い事には気づいている。
そんな感覚は新鮮で、確かに中学生の最初の頃はこんな視線を浴びていた気がする。が、それも俺にホモ疑惑が浮上した途端消え去った。
 
 異性から向けられる視線に優越感を抱かない訳じゃないが、俺の恋愛対象が男の、しかも戸籍上は叔父にあたるトンちゃんである以上、女子からの誘いは困るだけだった。吉村たちに知れたら多分遠巻きにされるだろうな、と思う。遠巻きくらいならいいが、誹謗中傷の渦の中に閉じ込められるかもしれない。
 
 そんな事を漠然と考えながら、冷蔵庫を漁るとカレー用の肉を取り出した。
外食もコンビニ弁当もそろそろ飽きてきて、料理をする事が苦ではなくなった俺は、最近自炊をしている。
それに、カレーとかシチューなんかを多めに作ると、それを口実にトンちゃんの家に行けるという下心もあった。まあ、メールを入れても半分は帰宅が遅くなるという事で会えないが。

 スパイシーな香りを全身に浴びながら、時計を確認すれば午後7時40分。
いつもならまだ会社に居るか帰宅途中の筈。一応携帯を取り出すとメールを送ってみた。
『今日、カレーを作ったからそっちに持って行きたいけど。何時に帰って来る?』
簡単なメールを送り、期待半分で鍋からタッパーにカレーを移していると、珍しく直ぐに返信が来た。
『今帰って来たところ』
 ハッとなって手を止めると直ぐに『今から行くから待ってて。何も食べてないよね』と送る。
 トンちゃんからは、インスタントラーメンでも食べようと思っていたと返事が来て、おもわず小躍りしながら「よしっ」とガッツポーズをした。

 それぞれのタッパーにカレーと炊いたご飯を分けて詰めると、急いでトートバッグに入れて家を飛び出す。
家が近くて良かったと、この時つくづく思いながら走ってトンちゃんのマンションに向かった。
好きな人に会うのがこんなに心躍るものなのだと、俺の中の冷静な何かがむず痒くさせるが、そんな事は直ぐに忘れるくらい足は軽かった。



 
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