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35 アルミ箔のオンナ 17
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「田代くん、ちょっと…」
覚悟していた部長の呼び出し。軽く人差し指で手招きされると、首を竦めながら席をたつ。
小柄な部長の背中が今日はやけに大きく見えて、いつもは気にしないシャツ越しに透ける肌着のラインに目が行くと、名古屋の取り引き先を恨めしく思った。
工程表を出せと言われて先日出したところだ。
何故急に取り止めとか…?
理由が解らず頭を抱えるばかり。
担当の課長は捕まらないし、事務の人間も話が通じない。
「で、先方には確認したのか?反故にされた理由。」
部長室に入るなり俺の顔を覗き込むと訊いてこられ、少しだけ後ずさりした。
「…担当者が捕まらなくて、まだです。すみません。」
頭を下げる俺に、「まあ、そこに座れ」と言うとソファーを指さした。
「いえ、…」
遠慮して立ったままの俺。この状況で座れないだろ~。と、心の中でパニクる。
「大阪の案件と並行してやっていたんじゃないのか?」
部長は俺の前に立ったまま話し出した。
「そうです。先日は工程表も出しました。」
「で、その後確認したか?」
「……確認は、……これからしようと…思っていて……」
はぁぁ… と、あからさまな部長の溜め息に、自分の不甲斐なさを後悔する。
いつもなら直ぐにでも確認して詰めていた事。
なぜ、忘れた?!
俺は下を向くと冷たい床を見つめた。
「…申し訳ありません。自分の落ち度です。確認取って先方と打ち合わせをするべきでした。」
今更言い訳をしても仕方がない。
兎に角担当課長にアポを取らないと……
散々部長に叱責され落ち込んだ俺は、直ぐに名古屋の取り引き先に出向こうと、周りの社員に「名古屋へ行ってくる!」といって鞄を抱えた。
「あ、田代さん、コレ、工程表のコピーです。必要かと思ってとっておきました。」
一歩踏み出した足を止めて後ろを振り返ると、野嶋さんが書類袋を渡してきた。
手渡しながら「お気を付けて。上手くいくと良いですね。」といって微笑む。
正直、グッときた。
なんだか分からないけど、身体の奥からやる気が沸き起こった気がして、「うん、ありがとう」と云うと駆け出して行く。
エレベーターの前で待つが、最上階から降りてくるのを待ちきれず、階段で降りて行こうと廊下の突き当りにある鉄の扉を開けた時だった。
「.....ぁ、」
おもわず声が出たのは、扉の向こうに恵の顔があったから。
まさか階段で出会うとは思いもしなかった。
「恵、............」と云いかけたが、ハッとなって我にかえる。今は一刻も早く名古屋に飛ばなければ。
「ごめん、電話するから出て。頼む。今から仕事で名古屋に向かうけど、戻ったら電話するから.....。」
「................」
唐突に俺に声を掛けられて、戸惑う恵は無言のままだった。
そんな姿を寂しく思いつつ、身体を返すと俺は階段を一気に駆け降りて行く。
兎に角今は仕事。それを済ませない事にはゆっくり話も出来ないし、俺の頭の中も整理がつかない。
歯痒い気持ちを胸に抱えたまま、駅に続く道を急ぎ足で進んで行った。
覚悟していた部長の呼び出し。軽く人差し指で手招きされると、首を竦めながら席をたつ。
小柄な部長の背中が今日はやけに大きく見えて、いつもは気にしないシャツ越しに透ける肌着のラインに目が行くと、名古屋の取り引き先を恨めしく思った。
工程表を出せと言われて先日出したところだ。
何故急に取り止めとか…?
理由が解らず頭を抱えるばかり。
担当の課長は捕まらないし、事務の人間も話が通じない。
「で、先方には確認したのか?反故にされた理由。」
部長室に入るなり俺の顔を覗き込むと訊いてこられ、少しだけ後ずさりした。
「…担当者が捕まらなくて、まだです。すみません。」
頭を下げる俺に、「まあ、そこに座れ」と言うとソファーを指さした。
「いえ、…」
遠慮して立ったままの俺。この状況で座れないだろ~。と、心の中でパニクる。
「大阪の案件と並行してやっていたんじゃないのか?」
部長は俺の前に立ったまま話し出した。
「そうです。先日は工程表も出しました。」
「で、その後確認したか?」
「……確認は、……これからしようと…思っていて……」
はぁぁ… と、あからさまな部長の溜め息に、自分の不甲斐なさを後悔する。
いつもなら直ぐにでも確認して詰めていた事。
なぜ、忘れた?!
俺は下を向くと冷たい床を見つめた。
「…申し訳ありません。自分の落ち度です。確認取って先方と打ち合わせをするべきでした。」
今更言い訳をしても仕方がない。
兎に角担当課長にアポを取らないと……
散々部長に叱責され落ち込んだ俺は、直ぐに名古屋の取り引き先に出向こうと、周りの社員に「名古屋へ行ってくる!」といって鞄を抱えた。
「あ、田代さん、コレ、工程表のコピーです。必要かと思ってとっておきました。」
一歩踏み出した足を止めて後ろを振り返ると、野嶋さんが書類袋を渡してきた。
手渡しながら「お気を付けて。上手くいくと良いですね。」といって微笑む。
正直、グッときた。
なんだか分からないけど、身体の奥からやる気が沸き起こった気がして、「うん、ありがとう」と云うと駆け出して行く。
エレベーターの前で待つが、最上階から降りてくるのを待ちきれず、階段で降りて行こうと廊下の突き当りにある鉄の扉を開けた時だった。
「.....ぁ、」
おもわず声が出たのは、扉の向こうに恵の顔があったから。
まさか階段で出会うとは思いもしなかった。
「恵、............」と云いかけたが、ハッとなって我にかえる。今は一刻も早く名古屋に飛ばなければ。
「ごめん、電話するから出て。頼む。今から仕事で名古屋に向かうけど、戻ったら電話するから.....。」
「................」
唐突に俺に声を掛けられて、戸惑う恵は無言のままだった。
そんな姿を寂しく思いつつ、身体を返すと俺は階段を一気に駆け降りて行く。
兎に角今は仕事。それを済ませない事にはゆっくり話も出来ないし、俺の頭の中も整理がつかない。
歯痒い気持ちを胸に抱えたまま、駅に続く道を急ぎ足で進んで行った。
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