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46 何度でも引き合うよ 5
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二人でテーブル席に着く。
少しフロアの奥まった所で、この時間だからなのか他に人はいなかった。
腰掛けると直ぐに恵の顔を見るが、恵と目が合うと自然に逸らせてしまう自分がいた。何も心苦しい事はしていないのに、何故か久しぶりに対面すると照れてしまった。
おもわず自分の指先に力が入り、ゆっくりと顔を上げてもう一度恵に向き合う。
「...........どうした?なんだか変な感じ?」
そう訊かれて「ああ、ちょっと、な。」と苦笑い。
「俺の所に訊ねてくるなんてなかったし、ちょっと意外っていうか、今の俺たちの関係からしたら何か重大な事を伝えに来たのかと......。でも、そうじゃなかった。」
「.......うん、まぁ、重大というかなんというか。......野嶋さんの事聞いた?休んでいるんだろ?」
恵はまっすぐ俺の目を見ると訊ねた。
俺も既に気持ちは切り替わり、野嶋さんの名前が恵の口から出る事に意識を傾ける。
「ああ、風邪らしいけど、どうして恵が知ってるんだ?うちの女の子が云ったか?」
「や、.....実は昨日帰りの電車が一緒になって。彼女、なんとなく僕を避けていたみたいなんだけど、顔色が悪くてさ。気になって声を掛けたんだ。そうしたら本当に熱があるみたいで、ふらついていたから家まで送り届けた。」
恵が俺の目を見ながらそういうので、視線を外せないが内心は心臓がチクリと痛んでいた。
もう昔の話だが、一時期恵は野嶋さんの事を好きになって付き合いたいと告白したそうだ。
大学時代の話で、本当に昔の事。でも、現実に恵が好きになった人物の姿を目にしたら俺は気になってしまった。
そして、あろう事か俺までもが彼女に惹かれていたようで。結局、この感情が何なのか分からないまま俺と恵を引き離す事になってしまった。
もちろん彼女には何の落ち度もなくて、俺たち二人が勝手に勘ぐり合った結果なんだが.....。
「家まで?......それで、野嶋さんは.....?」
なんとか言葉に出すと、指先をグッと曲げて力を込めた。
「すぐにベッドに寝かせてあげたさ。......冷蔵庫の中を確認したら飲料水とかはあったし、食べ物もあったからそのまま帰って来たんだけど。.....今朝になって気になってさ。お粥ぐらい作ってあげれば良かったかなって....。」
「あぁ、......そうだよな。彼女、俺たちの為にカレーを作ってくれたし......。確かに....。」
恵が気になったのは、自分が病気の野嶋さんを介抱出来なかった事なのか?
それでわざわざ俺の部署に来たってことか?
「.....僕思ったんだけど、このまえ野嶋さんがカレーを作ってくれた時、どうしてあんなに不機嫌な態度を取っちゃったんだろうって。....ちょっと反省したんだ。」
恵が、今度は自分の膝に視線を落して話す。
俺は只じっとその顔を眺めた。反省したという恵の伏せた瞼で揺れる睫毛を目にしたら、すぐにこの手を伸ばして頬を触りたいと思ってしまう。現実にはこんな場所で出来るはずもないが。
「恵、うちに戻って来て欲しい。」
「え?」
「なんか、ついでみたいに思われたら嫌なんだけど、ふたりで野嶋さんの見舞いに行かないか?それで、そのまま恵があのマンションに戻ってくれたら嬉しい。」
「.........、それは......」
「ごめん、こんな所で話す事じゃないのは分かってる。でも、きっかけだと思うんだ。野嶋さんの事で、俺たち二人はずっとモヤモヤしたままでこうなってしまったけど、彼女には俺たちの事を打ち明けている。俺が恵をどう思っているか知ってるんだ。だから、二人で顔を見せてあげたいっていうか......。」
恵の都合も訊かずに打ち明けてしまった事は悪かった。
でも、彼女だから打ち明けられたんだと思う。
「......真琴は、......本当にいいの?」
「いいも悪いも、俺が恵を引きずり込んだんだろ?お前はノンケだったのにさ。」
「ノンケって......。此処ではちょっと.....」
そう云って、恵は声のボリュームを更に落とした。
職場でなんて会話をしているんだ、俺たちは.....!
我に帰ると辺りを見廻すが、誰もいなくて安堵する。
「.....、いいよ、分かった。じゃあ、仕事終わる頃メールして。」
恵は囁くように云うと一旦姿勢を正す。
それからゆっくり立ち上がってもう一度俺の目を見た。
「ああ、メールする。」
俺もしっかり向き合うとそう告げた。
少しフロアの奥まった所で、この時間だからなのか他に人はいなかった。
腰掛けると直ぐに恵の顔を見るが、恵と目が合うと自然に逸らせてしまう自分がいた。何も心苦しい事はしていないのに、何故か久しぶりに対面すると照れてしまった。
おもわず自分の指先に力が入り、ゆっくりと顔を上げてもう一度恵に向き合う。
「...........どうした?なんだか変な感じ?」
そう訊かれて「ああ、ちょっと、な。」と苦笑い。
「俺の所に訊ねてくるなんてなかったし、ちょっと意外っていうか、今の俺たちの関係からしたら何か重大な事を伝えに来たのかと......。でも、そうじゃなかった。」
「.......うん、まぁ、重大というかなんというか。......野嶋さんの事聞いた?休んでいるんだろ?」
恵はまっすぐ俺の目を見ると訊ねた。
俺も既に気持ちは切り替わり、野嶋さんの名前が恵の口から出る事に意識を傾ける。
「ああ、風邪らしいけど、どうして恵が知ってるんだ?うちの女の子が云ったか?」
「や、.....実は昨日帰りの電車が一緒になって。彼女、なんとなく僕を避けていたみたいなんだけど、顔色が悪くてさ。気になって声を掛けたんだ。そうしたら本当に熱があるみたいで、ふらついていたから家まで送り届けた。」
恵が俺の目を見ながらそういうので、視線を外せないが内心は心臓がチクリと痛んでいた。
もう昔の話だが、一時期恵は野嶋さんの事を好きになって付き合いたいと告白したそうだ。
大学時代の話で、本当に昔の事。でも、現実に恵が好きになった人物の姿を目にしたら俺は気になってしまった。
そして、あろう事か俺までもが彼女に惹かれていたようで。結局、この感情が何なのか分からないまま俺と恵を引き離す事になってしまった。
もちろん彼女には何の落ち度もなくて、俺たち二人が勝手に勘ぐり合った結果なんだが.....。
「家まで?......それで、野嶋さんは.....?」
なんとか言葉に出すと、指先をグッと曲げて力を込めた。
「すぐにベッドに寝かせてあげたさ。......冷蔵庫の中を確認したら飲料水とかはあったし、食べ物もあったからそのまま帰って来たんだけど。.....今朝になって気になってさ。お粥ぐらい作ってあげれば良かったかなって....。」
「あぁ、......そうだよな。彼女、俺たちの為にカレーを作ってくれたし......。確かに....。」
恵が気になったのは、自分が病気の野嶋さんを介抱出来なかった事なのか?
それでわざわざ俺の部署に来たってことか?
「.....僕思ったんだけど、このまえ野嶋さんがカレーを作ってくれた時、どうしてあんなに不機嫌な態度を取っちゃったんだろうって。....ちょっと反省したんだ。」
恵が、今度は自分の膝に視線を落して話す。
俺は只じっとその顔を眺めた。反省したという恵の伏せた瞼で揺れる睫毛を目にしたら、すぐにこの手を伸ばして頬を触りたいと思ってしまう。現実にはこんな場所で出来るはずもないが。
「恵、うちに戻って来て欲しい。」
「え?」
「なんか、ついでみたいに思われたら嫌なんだけど、ふたりで野嶋さんの見舞いに行かないか?それで、そのまま恵があのマンションに戻ってくれたら嬉しい。」
「.........、それは......」
「ごめん、こんな所で話す事じゃないのは分かってる。でも、きっかけだと思うんだ。野嶋さんの事で、俺たち二人はずっとモヤモヤしたままでこうなってしまったけど、彼女には俺たちの事を打ち明けている。俺が恵をどう思っているか知ってるんだ。だから、二人で顔を見せてあげたいっていうか......。」
恵の都合も訊かずに打ち明けてしまった事は悪かった。
でも、彼女だから打ち明けられたんだと思う。
「......真琴は、......本当にいいの?」
「いいも悪いも、俺が恵を引きずり込んだんだろ?お前はノンケだったのにさ。」
「ノンケって......。此処ではちょっと.....」
そう云って、恵は声のボリュームを更に落とした。
職場でなんて会話をしているんだ、俺たちは.....!
我に帰ると辺りを見廻すが、誰もいなくて安堵する。
「.....、いいよ、分かった。じゃあ、仕事終わる頃メールして。」
恵は囁くように云うと一旦姿勢を正す。
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「ああ、メールする。」
俺もしっかり向き合うとそう告げた。
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