[ジセイタイになった俺]

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45 何度でも引き合うよ 4

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 結局、森田さんが休憩時間の半分を費やして話してくれたのは、同じ取引先の担当者の事だけ。

ものすごく陽気な関西弁を話す担当だそうで、実際、俺はそんな事には興味も無く。早く恵の事を訊きたいのに。
「あ、もう休憩終わりだ。えっと、中谷くんの事な。.............あ、そうそう野嶋さんが休んでるんだってな。そのことで田代くんに話があるって。」

「ええ?....野嶋さんの事で?」
「ああ、そうだよ。....昼にでも行って来れば?」

そう云って、森田さんは指を天井へ向けると上のフロアの恵を指している様だった。

「あ、はい。そうします。」


やっと本題を聞き出せたが、俺はホッとしたのと同時に胸の奥がじわじわと締め付けられるのを覚えた。
まただ。野嶋さんは俺と恵の間にしっかりとスダレの様に垂れ下がり、引き合う磁石を遮るアルミ箔の様に二人の磁力を奪ってしまう。

彼女にその気がなくても、どういう訳だかそんな立ち位置になってしまっていた。
それに、恵が彼女の休みを先に知っていた事にも驚く。どうしたらそんな事が分かる?
俺の席に案内された時に誰かに訊いたのだろうか。まさかな.......。


昼休みが待ち遠しくて、反面心臓の鼓動は緊張で高鳴ってもいた。こんなどきどき感は何年ぶりだろう。気になる相手に告白をする時の様だ。

そしてその時はやって来た。

昼休みで賑わうエレベーターで上の階にあがって行くと、滅多には顔を出すことも無い恵の会社へと向かう。

「すみませんが、営業2課の中谷さんを呼んでいただけますか?新建商事の田代と云います。今朝、お見えになったそうで、留守をしていたものですから。」

受付の女性にそう云った後で自分の手の平をギュっと握りしめた。

「はい、少々お待ちください。」

俺がじっと見つめる中で、受話器をとると内線を入れて確認している。恵に繋がる事を期待しながら手に汗をかき少しだけ興奮している俺がいた。

「いま、こちらにまいりますので、そちらにお掛けになってお待ちください。」

「ぁ、はい。」

軽く会釈をして示されたテーブルの方へと向かったが、今になってこんなに緊張と興奮を覚えるなんて自分でも滑稽で笑えて来る。毎日一緒に居て顔を合わせて、ここ最近は顔を見ることも無かったが、こんなに俺は恵を欲していたんだと、改めて自覚した。


来るであろう方向をじっと見つめていると、摺りガラスの様なすすけた扉が開き、見知った恵の久しぶりの顔が覗いて思わず喉から声が漏れそうになった。
椅子から腰が浮く。立ち上がっていいものかどうか。この姿勢で待つべきか。

躊躇していると、
「やあ、わざわざありがとう。」
俺を見た恵の口元が少しはにかむ様に上がった。

「いや、....俺の方こそ。朝、来てくれたって聞いて。」

「うん、.....ちょっとアッチ行こうか。」

「あぁ、...そうだな。」

少しぎこちないが、二人並ぶと奥のパーテーションの先にあるテーブル席に向かった。


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