[ジセイタイになった俺]

itti(イッチ)

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08 弱まる磁力 1-8

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    こうやって女性と二人で並んで歩くのは何年ぶりだろう。多分記憶にないぐらいだから、かなり昔なんだろうな。

この辺りはオフィスビルが建ち並び、スーツ姿の人間が行き来しているだけで、十代の若い連中の姿はあまり見ない。目に入るのは、ダークな色彩を纏った人間ばかりだった。

俺の隣を歩く野嶋さんも、やはり濃紺のパンツスーツ姿。それでもバッグだけはワインカラーという、女性らしい洒落たセンスの持ち主だ。

「野嶋さんは大建の営業さんと会ったこと有りますか?」
人の波に乗って歩きながら話しかける。

「ええ、ここへ来て直ぐに部長に連れて行かれましたよ。チョット癖のある営業さんだったの覚えてます。」

「そうですか、あそこは納期とかメチャクチャうるさいんで、気をつけないと訴訟問題にされる危険があるんです。」
前に、前任の課長が酷い目にあって、俺も肝に銘じた。付き合う会社も、担当者によって変わって来るからひと筋縄では行かないんだ。

「あ、あそこの角の店だから。」

野嶋さんの少し前を歩くと、俺は案内する様に店先の扉を開けてあげた。
先に中に入った彼女は、俺に少し微笑んで一礼すると、立ち止まって俺を待つ。
すぐさま横に並ぶと、奥から出てきた店員に空いている席を案内されて、向かい合って座った。

居酒屋風、とはいっても、店内の装飾は中々洒落たもので、料理や値段が居酒屋っぽいだけの店は、会社帰りの比較的若い層の客で賑わっていた。

「酒は?」と訊く俺に、「ゴメンなさい、休みの前日しか呑まない事にしているんです。」と彼女は言った。

「え、珍しい。っていうか、歓迎会の時は結構呑めてましたよね。強そうなのに。」

「…だから、ですよ~。好きなので、本当はとことん呑みたい人なんです。うふふ」
照れ笑いをした彼女は、イメージと違って可愛くもあった。

「そうなんですか。なら、呑みは今度という事で。」

はい、という彼女に微笑むと、俺はこの店で美味いと評判の品を何点か注文する。

少しだけ仕事の話を交えながらも、あまり女性を意識しないで会話が進んでいくと、野嶋さんという人柄に好意をもてた俺。
「もう、こちらの仕事にも慣れたんじゃないですか?」
在り来りの質問をすると、野嶋さんは少し躊躇いながら「まだまだですよ~。」と言った。

「業者さんの仲介って、男社会だから私なんか嘗められて…結構辛いんです。」

「…あ~、でも、野嶋さんはきびきびこなしてる方。前の娘は、完全に嘗められて期日を平気で延ばされたりしてました。」
まだ三年目のその娘は、精神的にも疲れてた様で、昨年辞めてしまった。

「まあ、私の場合は年齢的に対等なのかも。あちらも揶揄いがいが無いんでしょうね。」

そう言うと、運ばれて来た料理に箸を付けた。

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