物言わぬ家

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意外な話

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 菅沼沙織に案内されて、祐二たちは寮の中に入って行く。
外観は普通のマンションの様だが、中は大きな扉に仕切られて、開けて入れば長い廊下の片側に部屋の扉が並んでいる。
もう片側には、ガラスの小窓の付いた扉の向こうに休憩室の様な場所が見えた。長机と折り畳みのパイプ椅子。二人か三人、窓際に座って話しているのが見える。

「ちゃんと寮なんですね。普通のマンションなのかと思った。食堂はあるんですか?」
 水野が沙織に尋ねると、「流石に食堂はないですよ。昔はあったかもしれませんが、今は入寮者も減って、一応各部屋に小さなキッチンが付いているんで。トイレと浴室も各部屋についてますけど、洗濯はその奥にあるランドリールームでまとめてします」と返事が返ってきた。静かな物言いに、祐二たちは頷きながら聞き入る。

「さあ、ここが私と岬さんの部屋です。」
 ドアの横にネームプレートらしき板が付いていて、祐二は一瞬母の病室を思い出した。何度も名前を確認しては入っていた病室。いつ名前が消されるのか不安だったあの頃。そんな記憶が過ったが、ドアを開けて見えた室内はカラフルな色彩で溢れていて、病室の白く無機質な空間の記憶はかき消された。
「なんだか、楽しそうな雰囲気の部屋ですね。」
 佐伯がそう言ったのは、壁に掛かったダーツの的やポップなポスターが貼られた部屋の壁を見たからで。通されたダイニングキッチンは、女の子らしいピンクや赤、黄色の家電や小物が目につく。床は赤と白のPタイルが市松模様に貼られていた。

「去年、岬さんがここに入ってからこんな感じになりました。この部屋は彼女が作ったんで、彼女の趣味ですね」
「あ、菅沼さんは先に入寮してたんですね?このインテリアはお嫌いですか?」
 水野が訊ねるが、「いいえ、好きですよ。私にはこういうセンスが無いから羨ましいっていうか。楽しい気持ちになりますしね」と言う。

「あの、岬さんの部屋を見せてもらっても?」
 美乃利が聞くと「はい、いいと思います。志保さんの後輩だし、何か分かれば嬉しい」と、ひとつの扉を開ける。
ドアノブに掛けられたプラスチックの飾りが、ドアを開けたときにカラカラと音を放った。そして、その先の光景に、また一同は目を見開くと声を失った。

「…..え、なんか、同じ人の趣味とは思えない部屋ですね。」と、佐伯の口をついて出た言葉通り、岬志保の部屋は黒で統一されている。
ベッドカバーもラグも、机や椅子まで。カーテンだけがグレーだったが、黒い書棚に置かれた本は洋書で、本の装丁は古い感じがした。多分古書店で購入したものか。祐二たち四人はぐるりと見回すが、ベッドに置かれた洗濯物は畳まれていて、クローゼットの中の洋服もほとんど残っている。帰るつもりがなかったとは思えない。

「なんて言って出かけたんでしょうか?岬さんは」
「しばらく帰らないって。彼女、週末とかまとまった休みが取れると出かけてたから、今回も旅行に行ったんだと思ってました。でも、流石に出社日になっても戻らないし、ひょっとして会社をやめたんじゃないかと…….」
「辞めたい雰囲気はあったんですか?」
 水野が立て続けに訊ねると、沙織は「今年入った新入社員に悩んでて、仕事を教える立場になってたんですけど、覚えが悪いって。で、失敗が自分の責任になるって怒ってました」と言う。

 祐二たちは沙織の話を聞いて、なんとも言えない表情で立ち尽くした。
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