ナナシの神様

えむら若奈

文字の大きさ
22 / 132
揺れる水面にうつるもの

6

しおりを挟む
「ねぇ、昭人あきひとと最近連絡とった?」
「うん。帰ってきているなら、今度飲みに行こうって」
「そっか」

 珍しく、歯切れが悪いと感じた。
 昭人は夏芽の彼氏で、壱弥も懇意にしている。昭人が出張で東京に来たときなど、よく食事を奢ってくれるのだ。

「なに、喧嘩でもしたん?」
「なんとなくさ、隠しごとしてそうな気がして。浮気かいな」
「昭人さんは、浮気をするタイプじゃないと思うっちゃけど」

 難がある男とばかり付き合ってきた夏芽だったが、三年前に友人を介して知り合った昭人はとても誠実で、壱弥も信頼している。穏やかで懐が深く、こんな人が兄になってくれたら、と思っていた。

「浮気なんかしたら、即別れるけん。ほかの人に心変わりするのは仕方ないけど、どっちにもいい顔してうまくやろうっていう、腐った根性ならマジで無理やけん」

 過去の出来事でも思い出しているのか、夏芽は遠くを睨みつけている。

「昭人が浮気するようなタイプじゃないっていうのは分かっとるけどさ、ほかの人を好きになる可能性は、あるわけやん」
「いやぁ、そうかなぁ」

 昭人が夏芽に心底惚れ込んでいることを、壱弥はよく知っている。東京に来るたび、夏芽が好きな菓子をたくさん買って帰るのだ。そして、酒を飲むといつも、夏芽の好きなところを延々と語ってくる。
 弟としては少々気恥ずかしいが、そこまで姉のことを想ってくれる人がいるということは、単純に嬉しい。

 それなのに、夏芽はなぜ自信をなくしているのか、壱弥にはよく分からなかった。普段気が強い姉でも、恋愛のことになると変わってしまうのだろうか。

「姉ちゃんでも、自信がなくなることもあるんや」
「は? どういう意味?」
「いや、ごめんなさい」
「はぁ。あんたみたいな恋愛オンチに話した私が馬鹿だったわ」

 いつも言われている言葉だが、今日は妙に胸に刺さった。

「恋愛だろうがなんだろうが、他人の気持ちに対して、自信なんて持てるわけないやろ」

 昭人の気持ちを疑っているわけではなく、ただ自分に自信がないということなのだろう。恋愛は、やはり人間の本性が出るものなのかもしれない。
 姉の気の強さは、ある意味で脆さの裏返しであることを、壱弥は知っていた。

「ところで、あんたはどうなん。彼女は?」
「別れた」
「相変わらず、続かんねぇ」
「恋愛オンチなもんで」
「あはは、今日は根に持つやん。なんかあったと?」

 こういうところは、姉らしいと思う。家族のちょっとした感情の変化には敏感なのだ。

「いや、別になにも」
「そう。まぁ、壱弥は優しいけん、そのままでいいとよ」

 夏芽は、壱弥の肩を軽く叩いてスーパーへ入って行った。
 嘘をつくのは得意ではないので、もしかするとあからさまだったかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

処理中です...