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揺れる水面にうつるもの
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「ねぇ、昭人と最近連絡とった?」
「うん。帰ってきているなら、今度飲みに行こうって」
「そっか」
珍しく、歯切れが悪いと感じた。
昭人は夏芽の彼氏で、壱弥も懇意にしている。昭人が出張で東京に来たときなど、よく食事を奢ってくれるのだ。
「なに、喧嘩でもしたん?」
「なんとなくさ、隠しごとしてそうな気がして。浮気かいな」
「昭人さんは、浮気をするタイプじゃないと思うっちゃけど」
難がある男とばかり付き合ってきた夏芽だったが、三年前に友人を介して知り合った昭人はとても誠実で、壱弥も信頼している。穏やかで懐が深く、こんな人が兄になってくれたら、と思っていた。
「浮気なんかしたら、即別れるけん。ほかの人に心変わりするのは仕方ないけど、どっちにもいい顔してうまくやろうっていう、腐った根性ならマジで無理やけん」
過去の出来事でも思い出しているのか、夏芽は遠くを睨みつけている。
「昭人が浮気するようなタイプじゃないっていうのは分かっとるけどさ、ほかの人を好きになる可能性は、あるわけやん」
「いやぁ、そうかなぁ」
昭人が夏芽に心底惚れ込んでいることを、壱弥はよく知っている。東京に来るたび、夏芽が好きな菓子をたくさん買って帰るのだ。そして、酒を飲むといつも、夏芽の好きなところを延々と語ってくる。
弟としては少々気恥ずかしいが、そこまで姉のことを想ってくれる人がいるということは、単純に嬉しい。
それなのに、夏芽はなぜ自信をなくしているのか、壱弥にはよく分からなかった。普段気が強い姉でも、恋愛のことになると変わってしまうのだろうか。
「姉ちゃんでも、自信がなくなることもあるんや」
「は? どういう意味?」
「いや、ごめんなさい」
「はぁ。あんたみたいな恋愛オンチに話した私が馬鹿だったわ」
いつも言われている言葉だが、今日は妙に胸に刺さった。
「恋愛だろうがなんだろうが、他人の気持ちに対して、自信なんて持てるわけないやろ」
昭人の気持ちを疑っているわけではなく、ただ自分に自信がないということなのだろう。恋愛は、やはり人間の本性が出るものなのかもしれない。
姉の気の強さは、ある意味で脆さの裏返しであることを、壱弥は知っていた。
「ところで、あんたはどうなん。彼女は?」
「別れた」
「相変わらず、続かんねぇ」
「恋愛オンチなもんで」
「あはは、今日は根に持つやん。なんかあったと?」
こういうところは、姉らしいと思う。家族のちょっとした感情の変化には敏感なのだ。
「いや、別になにも」
「そう。まぁ、壱弥は優しいけん、そのままでいいとよ」
夏芽は、壱弥の肩を軽く叩いてスーパーへ入って行った。
嘘をつくのは得意ではないので、もしかするとあからさまだったかもしれない。
「うん。帰ってきているなら、今度飲みに行こうって」
「そっか」
珍しく、歯切れが悪いと感じた。
昭人は夏芽の彼氏で、壱弥も懇意にしている。昭人が出張で東京に来たときなど、よく食事を奢ってくれるのだ。
「なに、喧嘩でもしたん?」
「なんとなくさ、隠しごとしてそうな気がして。浮気かいな」
「昭人さんは、浮気をするタイプじゃないと思うっちゃけど」
難がある男とばかり付き合ってきた夏芽だったが、三年前に友人を介して知り合った昭人はとても誠実で、壱弥も信頼している。穏やかで懐が深く、こんな人が兄になってくれたら、と思っていた。
「浮気なんかしたら、即別れるけん。ほかの人に心変わりするのは仕方ないけど、どっちにもいい顔してうまくやろうっていう、腐った根性ならマジで無理やけん」
過去の出来事でも思い出しているのか、夏芽は遠くを睨みつけている。
「昭人が浮気するようなタイプじゃないっていうのは分かっとるけどさ、ほかの人を好きになる可能性は、あるわけやん」
「いやぁ、そうかなぁ」
昭人が夏芽に心底惚れ込んでいることを、壱弥はよく知っている。東京に来るたび、夏芽が好きな菓子をたくさん買って帰るのだ。そして、酒を飲むといつも、夏芽の好きなところを延々と語ってくる。
弟としては少々気恥ずかしいが、そこまで姉のことを想ってくれる人がいるということは、単純に嬉しい。
それなのに、夏芽はなぜ自信をなくしているのか、壱弥にはよく分からなかった。普段気が強い姉でも、恋愛のことになると変わってしまうのだろうか。
「姉ちゃんでも、自信がなくなることもあるんや」
「は? どういう意味?」
「いや、ごめんなさい」
「はぁ。あんたみたいな恋愛オンチに話した私が馬鹿だったわ」
いつも言われている言葉だが、今日は妙に胸に刺さった。
「恋愛だろうがなんだろうが、他人の気持ちに対して、自信なんて持てるわけないやろ」
昭人の気持ちを疑っているわけではなく、ただ自分に自信がないということなのだろう。恋愛は、やはり人間の本性が出るものなのかもしれない。
姉の気の強さは、ある意味で脆さの裏返しであることを、壱弥は知っていた。
「ところで、あんたはどうなん。彼女は?」
「別れた」
「相変わらず、続かんねぇ」
「恋愛オンチなもんで」
「あはは、今日は根に持つやん。なんかあったと?」
こういうところは、姉らしいと思う。家族のちょっとした感情の変化には敏感なのだ。
「いや、別になにも」
「そう。まぁ、壱弥は優しいけん、そのままでいいとよ」
夏芽は、壱弥の肩を軽く叩いてスーパーへ入って行った。
嘘をつくのは得意ではないので、もしかするとあからさまだったかもしれない。
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