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第一章 転生<脱ニートを目指して・・・・・・>

第13話 僕と魔王の友人関係(アルディス視点)

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時系列は、クロがビルシュ男爵家に行っている1か月の間のことです。

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「アル、クロが帰ってこない。」
「そーだね。」

ルディの言葉に返事を返しながら、氷魔法を発動する。大体200個前後、小さいナイフのような氷が宙に現れる。それを、訓練用の案山子に向かって飛ばす。案山子は半壊状態。う~ん、いまいちだな。前世じゃ、1回で1000個は出せたし、案山子だって跡形もなく消し飛ばせた。やっぱり、しばらく魔法を使ってなかったからか魔力操作とか魔法技術とかが甘くなってる。

「なあ、クロって俺の従魔だよな。」
「うん。そーだよ。」
「呼んだら来るかな。」
「・・・・・・来たら困るんだけど。」
「それもそうだな。」

そう言って、案山子をにらんでいるのはルディ――ルディウスだ。彼は前世で魔王だった。前世では友として、現在は兄弟として生きている。そう考えると、ずいぶん無茶をしたものだと思う。僕らがこうして出会うこと自体が奇跡みたいなものだから。

「そろそろ休憩にしましょう。」

先生にそう促されて、訓練場の原っぱになっているところに腰を下ろす。たいして疲れていないが、休憩は必要だ。ありがたく、休ませてもらう。先生は父上に報告に行ったのだろう。今、この訓練場にはルディと僕しかいないようだ。

「・・・・・・。」

隣に座っているルディはどうやら落ち込んでいるようだ。

「どうしたの、ルディ。」
「・・・・・・魔法技術とかその他もろもろが結構甘くなっていた。」

そういえば、とルディの魔法を思い出す。先ほどルディが撃っていた魔法は初級の火魔法のファイアーボールだったはずだ。もっとも、威力は中級の火魔法とほぼ同じだったが。

「前は、初級の魔法でも上級の魔法と同じ威力で撃てたんだ。なのに・・・・・・。」

その言葉に苦笑する。それでも十分強いから、別にいいと思うのだがルディはそれでは満足できないようだ。恐らく、前世の――カロスが魔王だった時を目指しているのだろう。

「今でも十分だと思うけど・・・・・・。」
「いやだめだ。」

その返答に、思わず笑ってしまう。

「眠くなってきたなあ。」

そういうと、ルディは必ず――

「先生が来たら起こしてやる。」

ほら。ルディ優しすぎると思うんだ。それに甘える僕も僕だけど。草の上で横になって目を閉じると、あのころのことを、思い出した。






――――――――――






 僕、白羽天輝は異世界に召喚された日本人だ。召喚されたときは、本当にこんなことがあるのかと驚いた。黒かった髪は白に近い銀髪に、目は赤くなっていた。そして、1番驚いたのは顔の造形が全くの別人になってしまっていたこと。鏡を見たとき驚きすぎて「誰だこのイケメン!」と叫んでしまった。声も全く違う・・・・・・まさにイケボって感じだ。まあ、前の自分とは全然違うが、正直あんまり実感はわかない。

 召喚されてから、すぐに学校に入れられたのは驚いた。まだ、この世界について知らない僕に、この世界の知識をつけてもらうためだったらしい。そこではいろいろなことがあった。貴族に難癖付けられたり、貴族に難癖付けられたり、貴族に難癖付けられたり、貴族に難癖付けられたりって、貴族に難癖付けられすぎだろ自分。まあ、そんなこんなで学校を卒業してからすぐに旅立った。・・・・・・濃い仲間たちを連れて。
 仲間は5人、騎士のケルト、魔法使いのレティア、弓使いのベルクス、僧侶のミリアン、商人のシシー。この仲間たちは少し、いやかなりツッコミどころが多かった。ケルトは何故か素手で戦うし、レティシアは爆裂魔法と生活魔法しか使わないし、ベルクスは弓じゃなくて銃だし、ミリアンはメイスを持って敵に突っ込んでいくし、シシーは商人のはずなのに短剣で敵を一撃で倒すし。お前ら自分の役割ちゃんとわかってんのって何回聞いたことか。





 それで現在、僕の目の前には魔王がいます。・・・・・・魔王がいるんだよ。お茶とお茶菓子出されて。帰っちゃだめですか、そーですか。帰りたい。ちなみに、この世界の魔王は敵じゃない。俺がこの世界に召喚されたのは、魔族の犯罪者を殺すため。魔族以外の種族の国を襲っていたやつらを断罪するため。魔王が殺せばいいじゃんって思うけど、そう簡単にはいかないそうだ。魔王、ほんとイケメンだな。

「犯罪者たちの討伐、感謝する。」
「いえいえ。」

 ほんと、何してんだろ。そんな気持ちを押し込んで、最上級の愛想笑いをする。これは学校で習ったこと。貴族が頻繁に喧嘩撃ってくるから、愛想笑いもうまくなった。授業だって、あれ地球の小学生が習うレベルのことを高校生ぐらいの年の子たちが習うんだよ。僕が習ったことって言ったら、この世界の歴史と国名と、愛想笑い。ほんと、学校に行く意味ってあったのかな。

「実は、勇者殿にお願いがあって。」
「何でしょう。」

どうせ、ほかの犯罪者もまとめて処分してほしいとかだろ。

「その、俺と、と、友達になってほしいんだ。」
「え?」

予想外の答えが返ってきて、驚く。

「・・・・・・理由をお聞きしても宜しいでしょうか。」
「ただ単純に、友になりたいだけだが?」

ますます驚く。目の動き、呼吸、表情を見る。・・・・・・嘘はついてなさそうだ。

「お前をこの世界に召喚したのはこちらの都合だ。それに、お前は元の世界に帰れない。」

痛いところをついてくる。

「そこで、俺がこの世界を楽しく過ごさしてやりたいと思ってな。」

発想がおかしいだろ。落ち着け、相手は魔王だ。魔族の王だ。きっと何か裏がある。

「・・・・・・何をお望みで?」
「む?」
「友となるのにどんな対価をお望みでしょうか。」
「たいか?」

・・・・・・話がつながらない。とりあえずお茶を飲むか。・・・・・・このお茶うまいな。

「あぁ。対価か。対価・・・・・・あっ!」
「・・・・・・。」

さて、どんな対価を要求されるのかな。

「えっと、俺と殺し合いをしないか。」
「ぶふっ!?」

こ、殺し合い!?何言ってんだこいつ。頭おかしいんじゃないか。お茶を吹いてしまった。

「勇者殿は不老不死なのだろう?それってどれだけ攻撃しても死なないってことだろう?」
「げふっげほっげほ。・・・・・・まあ、そうですね。」

 そう、何故かはわからないが召喚されたときに僕は不老不死になった。気づいたのは1度死にかけたから。本当に1度だけだが、心臓を刺されたのだ。それはもうぐっさりと。しかし、痛みなんて感じなかったし血の1滴も出なかった。傷をつけると再生し、腕を切り落としても生えてくる。

「その、俺も不老不死でな。周りは俺よりも弱いやつばっかりで、本気を出すことができないんだ。でも、不老不死なら本気を出せるだろう。それに、勇者殿の強さはうわさで聞いて、気になっていたんだ。」

そう言って笑う魔王を見てると、疑っているのがばからしくなってくる。

「・・・・・・いいですよ。やりましょうか、殺し合い。」
「ありがとう!聖剣もどんどん使ってくれ。楽しくなりそうだ。」
「聖剣を使ってもいいのですか?」
「ああ。俺も魔導書を使うからな。本気の殺し合いだ。」

そう言って、訓練場に案内する魔王。まあ、いっか。






 結果は互角。魔王が本気で殺しにかかるから、こっちも本気を出さざるを得なかった。そこまで考えてふと思う。こんなに本気を出したのは初めてじゃないだろうか。

「疲れた。」
「・・・・・・。」
「どうしたの。」
「く・・・・・・。」
「どこか痛めたの?」

先ほどから黙ったままの魔王を心配する。どこか不具合でも起きたのかな。

「ふっ、あははははははは。あはははははは。はははははは。」
「うぉ!!」

いきなり笑い出した魔王。頭でもおかしくなったのかな?

「それが勇者殿の本性か。ずいぶんと皮がむけたようだ。」
「え?あっ!」
「くふふ、気にしなくていいぞ。そっちの方がずっといい。」

いつの間にか敬語が外れてしまっていた。そのことに慌てる僕に、魔王はそれでいいという。

「でも。」
「勇者殿が心配してるのは、周りからの評価かな?」

そう言われて、思わずぎくりとしてしまう。図星だ。

「周りが求める勇者を演じていた、というところかな。」
「それを知って、どうするの?」
「その性格は素か。」
「そうだよ。悪い?」
「悪くないぞ。ふむ。では・・・・・・こっちも本性を出そうか。」

 魔王の雰囲気がやわらかいものに変わる。口調も心なしか、変わっているように思う。この人は本当に王っていう職業に向いてない気がする。何となく思っただけだけど。

「あんた、王様向いてないんじゃない?。」
「自分でもそう思う。・・・・・・さて、改めて自己紹介でも。俺はカルト・ルイ・ヴェストーラ。この国の魔王だ。」

そう言って笑う魔王を見て、言葉を紡ぐ。

「僕は白羽天輝。天輝が名前だよ。日本っていうところから召喚された勇者だ。」

僕はそこで言葉を切って、魔王を見る。

「よろしくね。カルト!」

この世界で、初めての友に心からの笑顔を。






――――――――――






「・・・・・・きて、・・・ア・・・・・・お・・・・・・アル。」

う~ん、まだ寝かせてよー。

「ダメ・・・・・・爆れ・・・発・・・・・・大丈夫だ・・・初・・・・・・。」

爆れ・・・・・・?爆れ、爆れ・・・・・・爆裂?っ!爆裂魔法!?こんなところで爆裂魔法ぶっ放す気か!驚きすぎて起きてしまった。

「やっと起きた。」
「・・・・・・ルディ?」
「先生がもうすぐ来るから。さっきから起こしてたんだけどなかなか起きなかった。」
「?・・・・・・あ!ごめんね。爆睡してた。」
「ははっ。夢でも見てたのか?」
「うん。まーね。」

夢の内容は秘密だ。

「なんか首痛い・・・・・・これで良し。」
「お前なー。」
「えっ?回復魔法使っちゃまずかった?」
「いや、何でもない。」

何がいけなかったんだろ。まあ、気にしなくていいか。

「ルディ様、アル様。そろそろ休憩を終わりにしましょう。」
「「はーい!」」
「行こうか、アル。」

そう言って僕を見る姿が、あの時の・・・・・・カルトの姿と重なる。その姿に懐かしさを感じながら。

「・・・・・・行こうか、ルディ!」

僕は、一歩足を踏み出した。





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