オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第8章:炎の継承と暁の鍛造師】 第8話「魂の共鳴、鋼竜の目覚め」

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夜が明け、忘却の工房に再び灯された炉の炎は、昨日までとは違っていた。火はまるで意志を持つかのように、メルの手元に合わせてゆらぎ、その芯に宿る赤は、不思議なほどに温かい輝きを放っていた。

ユウリは静かに頷くと、鋼竜の鱗を鉄ばさみでつまみ、丁寧に炎の中へと沈める。素材は通常の金属とは異なり、高熱にもびくともしない。むしろ、じわりと赤くなるには相応の“対話”が必要だった。

「メル、集中しろ。これはただの鍛錬じゃない。鋼竜の鱗は、鍛冶師の心に応える。お前の中に“想い”がなければ、この鋼は目を覚まさない」

「……はい!」

少女は小さく息を吐き、静かに目を閉じた。幼い頃、父が炉の前で語ってくれた言葉が胸をよぎる。

――「金属はな、ただの塊じゃない。そこに込める想いが、命になるんだよ」――

メルはゆっくりとハンマーを握りしめた。手のひらには、すでにいくつもの小さな火傷とマメができている。それでも彼女は一歩も引かず、真っ赤に熱せられた鋼竜の鱗にハンマーを振り下ろした。

カァン!

響き渡る一音。鍛冶場の空気が、一瞬にして凛と張りつめる。

カァン、カァン、カァン……!

音は次第にリズムを持ち、まるで鼓動のように空間を支配していく。炉の火が呼応するかのように炎を強め、ユウリとリリス、セリナもその音に聞き入っていた。

「……これは……」

セリナの声がかすれた。

「音が、澄んでいる。まるで、生きてるみたい……」

「“共鳴”しているんだ。素材と魂が、鍛冶師の想いで繋がっていく……これはもう、“鍛造”じゃない。ひとつの“誓い”だ」

ユウリの目にも、わずかに感嘆が浮かんでいた。自身も幾多の武器を鍛えたが、このような“対話する鍛造”は初めてだった。

数時間が過ぎ、ようやくメルは最後の一打を叩き込んだ。

カンッ――!

鍛え終えた素材は、炉の中でゆっくりと冷まされ、静かに光を放っていた。その姿は、鱗だったはずの形を捨て、細長くしなやかな剣身へと姿を変えていた。

だがそれは、ただの剣ではなかった。刃の中央には、龍の眼のような紋が浮かび上がっている。そして、ほんの一瞬だが、剣全体が呼吸するように脈打ったのだ。

「……目覚めた。鋼竜の意志が、彼女の剣になった……!」

リリスが呆然と呟いた。

メルは剣を手に取り、そっと胸に当てる。その瞬間、温かい記憶が流れ込んできた。父の笑顔、村の夕焼け、そして最後に彼が遺した言葉。

――「お前なら、大丈夫だ」――

涙がひとしずく、剣に落ちる。

「ありがとう……お父さん……私、これで――前に進めるよ」

誰もが言葉を失った。その場にいたすべての者が、少女の“想い”と、“鍛冶”の意味を、改めて理解していた。

ユウリは静かに、少女の背に手を置いた。

「おめでとう、メル。君はもう、立派な鍛冶師だ。父の想いを、君の手で、剣に宿せたんだ」

少女は小さく微笑み、頷いた。

こうして、ひとつの剣が生まれた。名もなき鋼竜の鱗が、少女の願いと魂とともに、新たな生命として鍛えられたのだ。その光は、忘却の工房の闇を照らし、確かに“希望”を刻み込んだ。

そして、静かに……この剣の物語が始まる。
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