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第3章:絵画の断片
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雨が霧崎町を濡らしていた。2005年11月の朝、佐藤悠真は宿の狭い部屋で目を覚ました。窓の外は灰色の霧に覆われ、海の波音が低く響く。昨夜の電話、怜奈の震える声が耳に残る。「赤い影」――彼女が口にした言葉は、霧崎邸の地下室と、20年前の事件を結ぶ鍵なのか。悠真はベッド脇の古いノート――姉・美咲の日記を手に取った。ページの端には、彼女の癖だった小さな星の落書き。
「彩花さんが言ってた。霧崎邸の地下室に、なんかあるって。」
美咲の文字は、10年間、悠真の心を縛ってきた。あの日、15歳の悠真は姉とケンカし、「消えろ」と吐き捨てた。それが最後の言葉だった。彼女が霧崎町で消えたのは、その数日後。悠真はガラケーを握り、怜奈の番号を見つめた。彼女は何か知っている――確信があった。
窓枠に挟まれた脅迫の手紙が、机の上で不気味に存在感を放つ。「次はお前だ。」雨に滲んだ文字は、まるで血のように見えた。悠真はコートのポケットに手紙を押し込み、傘を手に宿を出た。怜奈の家を訪ね、彼女の記憶を掘り起こす必要があった。
霧崎町の漁港近く、怜奈の家は古い平屋だった。木の外壁は海風で色褪せ、庭には雑草が伸びる。軋む門をくぐり、玄関のチャイムを押すと、かすかな足音が近づいた。怜奈が顔を出した。黒いスカーフを巻き、絵の具の匂いが漂う。灰色の瞳には、昨夜の電話の緊張が残っていた。
「佐藤さん、こんな朝に……どうしたの?」
「昨日、電話が急に切れた。霧崎邸の地下室、話したいことがある。」
怜奈の指がスカーフを握りしめた。「入って。雨、冷たいから。」
家の中は、絵の具と古い木材の匂いが混じる。居間にはキャンバスが乱雑に並び、壁には未完成の絵が立てかけられていた。海、霧、岩場――どれも霧崎町の風景だが、どこか不穏だ。悠真の目が一枚の絵に留まった。暗い海辺、岩の上に立つ人影、背後には霧崎邸の窓。窓の奥に、赤い光のようなものが描かれている。
「これ、霧崎邸だろ?」悠真は絵を指した。「この赤い光、なんだ?」
怜奈の顔が青ざめた。「わからない……ただ、頭に浮かんだの。子どもの頃、よく夢に見た。」
「赤い影、ってやつか?」
彼女は目を伏せ、頷いた。「5歳の頃、霧崎邸に住んでた。地下室で……何か見た気がする。でも、覚えてないの。父さんが死んでから、全部ぼやけて。」
「父さん? 霧島隆一のことか?」
怜奈の瞳が揺れた。「佐藤さん、なんで霧崎邸にこだわるの? ただの記者なら、こんな町、すぐ去るはずなのに。」
悠真は一瞬言葉に詰まった。怜奈の目は、霧のように彼の心を見透かすようだった。「姉貴が……10年前、この町で消えた。美咲って名前だ。霧崎邸と関係があるかもしれない。」
怜奈の表情が柔らかくなった。「ごめん、知らなかった。美咲さん……覚えてるかもしれない。父の友人の子で、よく家に来てた。」
「本当か?」悠真の声が上ずった。「どんなやつだった?」
「明るくて、優しい人。絵を描くのが好きだって言ってた。私の絵、褒めてくれた。」怜奈は微笑んだが、すぐに目を伏せた。「でも、急にいなくなった。父も母も、その話はしなかった。」
悠真は美咲の日記を取り出し、ページを開いた。「これ、読んでくれ。姉貴が書いたんだ。彩花のこと、地下室のこと。」
怜奈は日記を受け取り、ゆっくり読み始めた。彼女の指が震え、ページをめくる音が部屋に響く。「彩花さん……美咲さんが会ったって。地下室に何かある、って……」
彼女は日記を閉じ、顔を上げた。「佐藤さん、私、怖いの。あの家に戻るのが。だけど、あなたがそんな目で調べるなら……一緒に行く。」
「本気か?」
「うん。でも、約束して。変なことになったら、すぐに逃げるって。」
悠真は頷いた。怜奈の震える手が、彼の心に小さな波を立てた。
その午後、悠真と怜奈は霧崎邸へ向かった。雨は小降りになり、霧が町を覆う。岬の坂道を登る間、怜奈は無言だった。彼女のスカーフが風に揺れ、まるで霧の一部のように見えた。霧崎邸の門前で、悠真は前回の足跡を思い出した。「誰かが俺を監視してる。気をつけろ。」
怜奈は小さく頷き、門を押した。キィと鉄柵が軋む。
洋館の中は、前回と同じくカビと湿気の匂い。1階のホールで、怜奈が立ち止まった。「ここ、子どもの頃、父とよく歩いた。シャンデリアが光ってた頃は、きれいだったのに。」
彼女の声には、懐かしさと悲しみが混じる。悠真は懐中電灯で2階への階段を照らした。「地下室の入り口、どこにあると思う?」
「たぶん、裏の厨房の奥。昔、父が『入っちゃダメ』って言ってた。」
厨房は埃に覆われ、錆びた鍋や割れた皿が散乱していた。奥の壁に、古い木の扉があった。錆びた南京錠がかかっているが、壊れかけている。悠真は近くの鉄棒で錠を叩き、ガンッと音を立てて開けた。扉の向こうは、暗い階段が地下へ続く。湿った空気が顔にまとわりつく。
「行くぞ。」悠真が一歩踏み出すと、怜奈が彼の腕を掴んだ。「待って。なんか……変な感じがする。」
「大丈夫だ。一緒にいる。」悠真は彼女の手を握り返した。怜奈の冷たい指が、彼の心をざわつかせた。
階段を下りると、地下室は広かった。コンクリートの壁にはひびが入り、床には水たまり。奥に、古い木箱や壊れた家具が積まれている。悠真は懐中電灯で壁を照らし、かすかな赤い痕跡を見つけた。「これ……血?」
怜奈が息を呑んだ。「赤い影……ここで見たの、たぶん。」
彼女の声が震える。悠真は彼女を庇うように立ち、箱のひとつを開けた。中には古い書類と、色褪せた写真。彩花と、若い頃の霧島隆一が写っている。裏に書かれた文字。「1985年夏、彩花と。漁協の金を守れ。」
「漁協? どういうことだ?」悠真は眉を寄せた。
その時、背後でガタッと音。振り返ると、階段の上に黒い人影。フード付きのコート、鋭い目――影だ。
「お前、佐藤悠真だな。」男の声は低く、憎しみに満ちていた。「その女を連れてるなら、お前も霧崎の罪人だ。」
「誰だ! 何を知ってる?」悠真は叫んだが、男は階段を駆け上がり、霧に消えた。怜奈が悠真の腕を強く握った。「あの人……知ってる。子どもの頃、見たことがある。」
「誰だ? 名前は?」
「わからない。でも、彩花さんのそばにいた……兄貴、って呼んでた。」
夕方、悠真は高木刑事に連絡を取った。漁港近くの喫茶店「海鳴り」で待ち合わせ、事件の進展を伝えた。高木は煙草をくゆらせ、顔を曇らせた。「漁協の金、か。霧島隆一は当時、漁協の資金を管理してた。彩花が何か嗅ぎつけたのかもしれん。」
「隠蔽したのは、あんたもだろ?」悠真は鋭く切り込んだ。
高木の目が一瞬揺れた。「若造、深入りするな。家族がいるんだ、俺にも。」
「家族を守るために、彩花を見殺しにしたのか?」
高木は煙草を灰皿に押し付け、立ち上がった。「証拠がなきゃ、ただの噂だ。気をつけろ、佐藤。あの影は、ただの幽霊じゃねえ。」
夜、悠真は宿に戻り、美咲の日記を読み返した。「彩花さんが怖がってた。霧崎邸の地下室に、漁協の秘密があるって。誰かに見られてる気がする。」
悠真の背筋が冷えた。彩花、美咲、そして今、怜奈。霧崎邸は、罪と秘密の坩堝だ。ガラケーが鳴り、怜奈の番号。
「佐藤さん、絵を……描いてたの。地下室の、赤い影。怖いけど、思い出したくて。」
「今、行く。」
怜奈の家に着くと、彼女はキャンバスの前にいた。新たな絵――地下室の階段、赤い影が立つ。影の背後には、彩花の顔がぼんやり浮かぶ。「これ、夢で見たの。彩花さんが、叫んでた。」
悠真は彼女の肩に手を置いた。「一緒に真相を突き止める。約束する。」
怜奈は小さく頷き、初めて微笑んだ。その笑顔は、霧の中の僅かな光のようだった。
窓の外で、雨が強くなった。ガラスに映る影が動いた気がした。悠真は窓に駆け寄ったが、誰もいない。だが、窓枠に新たな紙。「お前も、霧崎の罪を背負う。」
「彩花さんが言ってた。霧崎邸の地下室に、なんかあるって。」
美咲の文字は、10年間、悠真の心を縛ってきた。あの日、15歳の悠真は姉とケンカし、「消えろ」と吐き捨てた。それが最後の言葉だった。彼女が霧崎町で消えたのは、その数日後。悠真はガラケーを握り、怜奈の番号を見つめた。彼女は何か知っている――確信があった。
窓枠に挟まれた脅迫の手紙が、机の上で不気味に存在感を放つ。「次はお前だ。」雨に滲んだ文字は、まるで血のように見えた。悠真はコートのポケットに手紙を押し込み、傘を手に宿を出た。怜奈の家を訪ね、彼女の記憶を掘り起こす必要があった。
霧崎町の漁港近く、怜奈の家は古い平屋だった。木の外壁は海風で色褪せ、庭には雑草が伸びる。軋む門をくぐり、玄関のチャイムを押すと、かすかな足音が近づいた。怜奈が顔を出した。黒いスカーフを巻き、絵の具の匂いが漂う。灰色の瞳には、昨夜の電話の緊張が残っていた。
「佐藤さん、こんな朝に……どうしたの?」
「昨日、電話が急に切れた。霧崎邸の地下室、話したいことがある。」
怜奈の指がスカーフを握りしめた。「入って。雨、冷たいから。」
家の中は、絵の具と古い木材の匂いが混じる。居間にはキャンバスが乱雑に並び、壁には未完成の絵が立てかけられていた。海、霧、岩場――どれも霧崎町の風景だが、どこか不穏だ。悠真の目が一枚の絵に留まった。暗い海辺、岩の上に立つ人影、背後には霧崎邸の窓。窓の奥に、赤い光のようなものが描かれている。
「これ、霧崎邸だろ?」悠真は絵を指した。「この赤い光、なんだ?」
怜奈の顔が青ざめた。「わからない……ただ、頭に浮かんだの。子どもの頃、よく夢に見た。」
「赤い影、ってやつか?」
彼女は目を伏せ、頷いた。「5歳の頃、霧崎邸に住んでた。地下室で……何か見た気がする。でも、覚えてないの。父さんが死んでから、全部ぼやけて。」
「父さん? 霧島隆一のことか?」
怜奈の瞳が揺れた。「佐藤さん、なんで霧崎邸にこだわるの? ただの記者なら、こんな町、すぐ去るはずなのに。」
悠真は一瞬言葉に詰まった。怜奈の目は、霧のように彼の心を見透かすようだった。「姉貴が……10年前、この町で消えた。美咲って名前だ。霧崎邸と関係があるかもしれない。」
怜奈の表情が柔らかくなった。「ごめん、知らなかった。美咲さん……覚えてるかもしれない。父の友人の子で、よく家に来てた。」
「本当か?」悠真の声が上ずった。「どんなやつだった?」
「明るくて、優しい人。絵を描くのが好きだって言ってた。私の絵、褒めてくれた。」怜奈は微笑んだが、すぐに目を伏せた。「でも、急にいなくなった。父も母も、その話はしなかった。」
悠真は美咲の日記を取り出し、ページを開いた。「これ、読んでくれ。姉貴が書いたんだ。彩花のこと、地下室のこと。」
怜奈は日記を受け取り、ゆっくり読み始めた。彼女の指が震え、ページをめくる音が部屋に響く。「彩花さん……美咲さんが会ったって。地下室に何かある、って……」
彼女は日記を閉じ、顔を上げた。「佐藤さん、私、怖いの。あの家に戻るのが。だけど、あなたがそんな目で調べるなら……一緒に行く。」
「本気か?」
「うん。でも、約束して。変なことになったら、すぐに逃げるって。」
悠真は頷いた。怜奈の震える手が、彼の心に小さな波を立てた。
その午後、悠真と怜奈は霧崎邸へ向かった。雨は小降りになり、霧が町を覆う。岬の坂道を登る間、怜奈は無言だった。彼女のスカーフが風に揺れ、まるで霧の一部のように見えた。霧崎邸の門前で、悠真は前回の足跡を思い出した。「誰かが俺を監視してる。気をつけろ。」
怜奈は小さく頷き、門を押した。キィと鉄柵が軋む。
洋館の中は、前回と同じくカビと湿気の匂い。1階のホールで、怜奈が立ち止まった。「ここ、子どもの頃、父とよく歩いた。シャンデリアが光ってた頃は、きれいだったのに。」
彼女の声には、懐かしさと悲しみが混じる。悠真は懐中電灯で2階への階段を照らした。「地下室の入り口、どこにあると思う?」
「たぶん、裏の厨房の奥。昔、父が『入っちゃダメ』って言ってた。」
厨房は埃に覆われ、錆びた鍋や割れた皿が散乱していた。奥の壁に、古い木の扉があった。錆びた南京錠がかかっているが、壊れかけている。悠真は近くの鉄棒で錠を叩き、ガンッと音を立てて開けた。扉の向こうは、暗い階段が地下へ続く。湿った空気が顔にまとわりつく。
「行くぞ。」悠真が一歩踏み出すと、怜奈が彼の腕を掴んだ。「待って。なんか……変な感じがする。」
「大丈夫だ。一緒にいる。」悠真は彼女の手を握り返した。怜奈の冷たい指が、彼の心をざわつかせた。
階段を下りると、地下室は広かった。コンクリートの壁にはひびが入り、床には水たまり。奥に、古い木箱や壊れた家具が積まれている。悠真は懐中電灯で壁を照らし、かすかな赤い痕跡を見つけた。「これ……血?」
怜奈が息を呑んだ。「赤い影……ここで見たの、たぶん。」
彼女の声が震える。悠真は彼女を庇うように立ち、箱のひとつを開けた。中には古い書類と、色褪せた写真。彩花と、若い頃の霧島隆一が写っている。裏に書かれた文字。「1985年夏、彩花と。漁協の金を守れ。」
「漁協? どういうことだ?」悠真は眉を寄せた。
その時、背後でガタッと音。振り返ると、階段の上に黒い人影。フード付きのコート、鋭い目――影だ。
「お前、佐藤悠真だな。」男の声は低く、憎しみに満ちていた。「その女を連れてるなら、お前も霧崎の罪人だ。」
「誰だ! 何を知ってる?」悠真は叫んだが、男は階段を駆け上がり、霧に消えた。怜奈が悠真の腕を強く握った。「あの人……知ってる。子どもの頃、見たことがある。」
「誰だ? 名前は?」
「わからない。でも、彩花さんのそばにいた……兄貴、って呼んでた。」
夕方、悠真は高木刑事に連絡を取った。漁港近くの喫茶店「海鳴り」で待ち合わせ、事件の進展を伝えた。高木は煙草をくゆらせ、顔を曇らせた。「漁協の金、か。霧島隆一は当時、漁協の資金を管理してた。彩花が何か嗅ぎつけたのかもしれん。」
「隠蔽したのは、あんたもだろ?」悠真は鋭く切り込んだ。
高木の目が一瞬揺れた。「若造、深入りするな。家族がいるんだ、俺にも。」
「家族を守るために、彩花を見殺しにしたのか?」
高木は煙草を灰皿に押し付け、立ち上がった。「証拠がなきゃ、ただの噂だ。気をつけろ、佐藤。あの影は、ただの幽霊じゃねえ。」
夜、悠真は宿に戻り、美咲の日記を読み返した。「彩花さんが怖がってた。霧崎邸の地下室に、漁協の秘密があるって。誰かに見られてる気がする。」
悠真の背筋が冷えた。彩花、美咲、そして今、怜奈。霧崎邸は、罪と秘密の坩堝だ。ガラケーが鳴り、怜奈の番号。
「佐藤さん、絵を……描いてたの。地下室の、赤い影。怖いけど、思い出したくて。」
「今、行く。」
怜奈の家に着くと、彼女はキャンバスの前にいた。新たな絵――地下室の階段、赤い影が立つ。影の背後には、彩花の顔がぼんやり浮かぶ。「これ、夢で見たの。彩花さんが、叫んでた。」
悠真は彼女の肩に手を置いた。「一緒に真相を突き止める。約束する。」
怜奈は小さく頷き、初めて微笑んだ。その笑顔は、霧の中の僅かな光のようだった。
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