夢でしか会えない君へ:Another

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第3章「もう一度、あなたに恋をする」

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 月の光が、水面にゆらゆらと踊っていた。
 この夜の静けさが、いつもより少し、切なく感じられた。

 彼はまた来てくれた。
 でも、いつもとは違う。
 まるで、何かを探しに来たような目をしていた。

「……なあ」
 彼が湖のほとりに座りながらぽつりと口を開いた。
「最近、日常の中でも、ふと君のことを思い出すんだ」

 私は驚いた。

「目を覚まして、普通に過ごしてるのに……
 駅のホームとか、雨上がりの街とか、意味もなく泣きたくなるときがある。
 その理由が、少しだけ分かった気がする」

 彼の声は震えていた。
 私はそっと隣に腰を下ろし、風の音に耳を澄ませるふりをした。
 彼の涙を、見ないようにするために。



 彼は夢の中で、少しずつ変わっていた。
 言葉も、仕草も、優しさも、私が知っていた“あの人”のままだった。
 まるで時を巻き戻して、もう一度恋をしているような感覚。

 でも、違う。
 これは“初めて”じゃない。
 私たちは、かつて確かに愛し合っていた――その記憶が、少しずつ蘇っているだけ。



「君に、もう一度ちゃんと会いたいと思ってる」
 彼が言った。

「でも、君が現実にいないなら、俺は……どうしたらいい?」

 私は答えられなかった。
 答えた瞬間、すべてが終わってしまいそうで。

 それでも、言葉は零れていた。

「もしも、私がここにいられなくなっても……」
「あなたが誰かを愛せるなら、それでいいの」

 彼は首を振った。

「違うんだ。俺が愛してるのは――」

 その瞬間、風が強く吹きつけてきた。
 湖の水面が荒れ、空の月が陰る。
 私の輪郭が、薄く、淡く、消えかけていくのが分かった。



「ダメ……」
 私はかすれる声で言った。
「今、全部を思い出してしまったら……私はもう……」

 彼の目が見開かれた。
 ようやく理解した表情。
 そして、失うことへの恐怖に染まった、切ない顔。

「じゃあ、思い出さない」
 彼が叫んだ。
「全部忘れてもいいから、ここにいてくれ!」

 その言葉が、あまりにも優しくて――
 私は、どうしようもなく涙が溢れた。

「ありがとう」
 「でも、もう……それは叶わないの」



 風がやんだとき、私は彼の肩にそっともたれかかった。

「もう一度だけ、あなたに恋をして、よかった」

 その言葉を最後に、私はそっと目を閉じた。
 彼の体温を感じながら、ゆっくりと夢の岸辺から離れていく。
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