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イジメられっこは、イジメっこにイジメさせない

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 セシル、マルク、ランバ、ガネット……
 セシル以外は訓練生の中では大した連中ではない。こいつらは所謂、セシル派閥。

 訓練生トップクラスの魔力を誇るセシルと、それにペコペコする足軽達。だからセシルがわざわざ裏で手引きしてたわけで。
 逆に言えばそうしないと一次試験で危ういやつら……つまり雑魚。俺が言えた事ではないが。

「いやぁ、セシル君。俺、ミスっちゃったみたいだね?他の取巻きの方はしっかり全問正解だったのに……」
「ルシアンお前、ヴィクトリアに俺の事チクっただろ?」

(無茶苦茶かよ。余程気に入らないのか被害妄想がスゴい奴だな)

 だが、セシルのいちゃもんは半分当たってる……、が半分違う。ヴィクトリア……つまり、先生にチクったのは俺じゃなくてルカだ。
 彼女は俺の後ろに位置する場所に常にいた。つまり先生の後ろにちらつくセシルの行動は最初から全てチェックしていたのだ。
 ルカはセシル派閥を嫌っているから。

 ルカは試験後、俺に言った……「良かったね!」と。
 それは俺が合格出来て良かったのではなく、俺に合図するセシルを見ていたから口に出た『不正に乗らなくて良かったね』という事だ。
 ルカは家柄的に厳しく育っているせいか不正を嫌うタイプなのだ。
 根っからの正義ウーマン。ちび◯る子でいうならズバリ丸尾君だった。

(しかしアイツは俺がもし不正に乗っていても先生にチクったのかなぁ?)

 まぁ俺は間違いだと分かってて乗ったんだが……俺が全問不正解だったからには、ルカにそれを知る由も無い。
 それにルカがチクったと聞いたのは、ついさっき本人からだ。自分の試験の直前に先生に報告したようなので、あの時は俺も何も知らなかった。

 つまり俺の空気を読んだ行動が結果的にプラスになったというだけの話なのだ。
 この結果的にプラスにもカラクリがあったりするのだが……

 まぁそれは置くとして、この場にルカが居たら間違いなく俺を庇う。と、いうか本当の事を暴露するだろう。

『チクったのは私だよ!』なーんてバカな事を。

 ただでさえ俺に構ってるから少し狙われているルカをこの場に同席させるわけにはいかなかった。
 だからルカが帰るまで俺は待ったのだ。


「いやいや。誰も言うわけないじゃん!だって、俺はセシル君のサイン通り答えたんだよ?俺だって罰せられていた所だよ。まぁ、俺がサインを見間違えちゃったから逆に助かったけど……」
「くっ……ま、まぁな」

 悔しがるセシルの顔は本日二回目だ。

 俺に違う答えを伝えたと言えば本来なら、そこで派閥全員大笑いで、滑らない話にでもなるのだろうが……
 今回は逆に自分達だけが落とされた結果となったのでバカ丸出しになってしまう。
 結局は、ざまぁな話なのだ。
 こういうプライドが高いやつには、しっかり空気を読んで答えてあげないといけない。

「ところで戦闘用の杖バトルロッドなんて持って、どうしたの?四人で滝まで行くの?」
「はぁ!?おい無能!セシル君は……ぐはっ!」

 俺のウィットに富んだ質問に割って入った派閥の一人はガネット。彼は間髪入れずセシルの杖で顔をぶっ叩かれた。
 おおかた、『俺を痛めつけに来た』とでも言いたかったのだろうが……。空気を読めない奴はこうなるという見本みたいな男だ。

「まぁ。試練行って少しは魔力あげてこいよ。魔力の泉がどれだけの物か俺も知りたいしな。帰ってきたら一発、模擬戦でもやらせてくれよ」

 何事もなかったかのような態度だ。

「あぁ。そうだね。まぁどうせ俺は魔力の泉でも大して魔力上がらないだろうけどね。無能だから……」

 俺は謙遜しただけなのだが、取巻き派閥は皆ケタケタと笑っている。なかなか笑いのツボが低い。
 もちろん、セシルは笑わない。
 なかなか面倒な奴だと俺は判断した。
 それに実際こいつの実力は本物だった。俺が魔法にせもので勝負して勝てるかなんて分からなかった。

「じゃあ俺は行くよ。帰った時に強くなれてたら模擬戦頼むよ。強くなってたらね……」

 なるはずもないので強調しておいた。

 どこか面白くない顔をしてセシルは去って行く。派閥の取巻き達も金魚のふんみたいについていった。取巻きがバカだからセシルも大変だと思う。


 ――――――――――


「母さん。とりあえず試験合格したよ」
「ルシアン。良かったわ!さすが私の息子だわ。やっぱり魔法が開花してきたのね!」

(いや。全然、つぼみも成りませんけどね)

 本当に申し訳ないのだ。
 大魔法使いの父と母の間に俺みたいな無能ゲーマーが転生してしまったせいで多大な苦労をかけている。
 いや、これがゲームなら無能ではないのだが……

「ところで母さん。父さんの装備って見せてほしいんだけど?明日の試練にはそれなりの格好していかないとダメみたいなんだ」

 裏ルートから行けるならまだしも、真っ向勝負だし只でさえ無能だと周知されているのだから、装備くらいは整えて行かねば愚者でしかない。

「とうとうこの日が来たのね。えぇ、あるわよ。お父さんが若い頃に身に付けてたのが――――これよ。あの人もきっと喜ぶわ」

 見せられて唖然とした。
 深緑色のワンピースみたいな物と、同じ色のベターなトンガリハット。そしてスーパーゼウスの杖に毛が生えた程度の杖。
 魔法使いって、ビシッとしたタイトなシルエットのパンツとかにジャケットみたいな感じのイメージだが。

(誰だよ、こんなダサい装備作ったやつわ!)

 そして思い出す。
 俺が作ったゲームだった。
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