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天然スライダーで、はしゃぎ過ぎた件

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 ドラゴンは引き返してくる気配も無く、本当にそのまま飛び去ってしまったようだ。
 思えば随分と傷だらけのドラゴンだった。

 ドラゴンは種族同士の仲は良い。それでいて最強種なので、ドラゴンにケンカを売る魔物は殆んどいなかった。たまに気まぐれ的にちょっかいを出す魔物がいるようだが……瞬殺だ。
 また攻撃も自分からは滅多にしない。巣穴とかに侵入されると怒り狂うが、基本は臆病なのだ。

 そんなドラゴンが傷だらけなのは比較的珍しい事だった。
 特に気にしてなかったが、ルカに言われてなるほどと納得した。
 きっと、ここに住んでいたドラゴンはこの場所を棄て、カーラの泉のある山に新しい巣を作っていたのだろう。

 ところがその巣穴は俺が壊してしまった。
 正確には、俺は自分の身を守る為の自衛手段としてドラゴンを壁に突っ込ませたのだが。
 結果的にドラゴンは巣穴を壊す事になり、さらには自分がダメージを負う事になったのだ。

(てっきりあの時死んだと思ってたけどな……やっぱ丈夫だなぁ) 

 ドラゴンが赤い光を怖がる理由は言うまでもなく、あの時のトラウマなのだろう。あの時は油で火を付けた剣だったが。
 ドラゴンにしてみれば同じ事だったに違いない。

 何はともあれ余計な戦闘は避けれた。
 後はここから出るだけだ。

「で、話は戻るけどさ、ルシアン。どうやって戻るの?」
「あぁ。簡単だよ。そこに水路があるだろ?そこを滑る様に下っていくのさ」
「ルシアン様。水路って……まさか、これですか?」 

 俺はコクリと頷いた。
 ベネットが見ているのは、幅が六、七十センチ程の小さな川だ。
 と言うより、もはや溝に近いか。
 深さは殆んど無いが、立ち上がれない程に天井はドンドン低くなっていく。小さなトンネルのような感じだ。
 と、言うのもその水路は山の中を通っていて、少しずつ下って行き最終的には川と繋がっている。

 つまりはその水路を使って、ウォータースライダーの様に下っていくわけだ。いや。もう完全に天然のスライダーと言っても間違いない。
 勿論そんなに速い速度が出る程急な坂ではないし、岩は長年の水の流れにより綺麗に削れてツルツルになっているので怪我をする事も無い。
 流れに任せて下りるには問題ないはずなのだ。
 問題があるとすれば、水でズブ濡れになるくらいだ。

 だが、その安全性とは。知ってる俺の見解であって、何も知らない二人には、先も見えないトンネルを滑って行く恐怖感しかないだろう。

「ちょっと!冗談やめてよ」
「ルシアン様。本当に出口に繋がってるんですか?」
「俺が先導するから心配するな。ここまでも俺の言った通りの道だったろ?」

『それはそうだけど……』と、二人は不安一杯な表情を浮かべた。

「ドラゴン戻ってくるぞ。さぁ行こう」

 戻って来た所でまた逃げて行くかも知れないが。
 ルカもベネットも一度上を見上げてから、決心した様に水路へと足を入れた。
 水は意外と温いようだ。
 温水プールのウォータースライダーと同じ様な感じ。

 最初、水の中に座る事が気持ち悪かったが、慣れてしまえばどうって事はない。俺は両足を広げ、両側の岩肌を利用して踏ん張りながらブレーキをかけスルスルと滑って行く。
 地味に楽しい。
 このまま足ブレーキをやめれば、まさにウォータースライダーの如く滑り落ちて行くだろう。

(ちょっと面白そうだな……やろうかな?いや、やっぱやめとくか)

 遊びたい気持ちを抑えて、ユックリ下りていた俺。
 しかし、次の瞬間。神は俺に遠慮するなと言ったようだった。

「キャァァア!」っという悲鳴と共に、俺の背中にドンっと何かがぶつかって来る。それは上から滑り落ちてきたルカ。
 さらにドンっと次にベネットまでもがぶつかってきた。

「お、お前らなぁ!押すなよ!」
「ダメダメダメダメ!」
「落ちちゃいますぅぅ!」

 二人はスカートなのもあってか、足を開いてブレーキをかけるという行動を躊躇ったのかもしれない。
 勢いよく俺の後ろに滑り落ちて来たのだ。

 その勢いに押されて俺もブレーキをかけていた足が滑る。
 勢いが付いた俺達は三人揃って、まさにウォータースライダーを滑る様に落ちて行く。
 水の流れと三人分の体重で重さも増し、速度が上がった。

「ひょえ!こりゃマジでスライダー!お前ら、頭打たない様に、出来るだけ頭は起こすなよ!」
「やぁぁぁ!スピードが上がったぁぁ!」

(あ。こりゃダメだ……もう楽しむしかないわ)

 俺は諦めて、完全に足で速度を殺す事もやめた。
 直ぐ後ろで叫ぶルカとベネットの声が、狭いトンネルに反響してうるさい。
 俺は両手すらも自分の耳を塞ぐ事に使う。完全にフリーな状態で滑り落ちて行く爽快感は、絶叫モノ好きな俺には最高だった。
 
 大型のプールで、こんな三つ巴で滑ってたら間違いなく怒られるだろうが。凄い速度で滑っているので、気が付けばもう出口の明かりが見えて来た。
 そして俺達は、山の岩肌の横から大きな川に向かって飛び出したのだ。天然スライダー最高である。

 排出された場所は川の水深も浅く、流れも緩やか。
 まさにウォータースライダーの終着点だ。川の水を掻き分けて直ぐに俺達は岸に上がった。

「いやぁ~面白かったなぁ!最高だわこれ」
「ど、どこが最高なのよ!死ぬかと思ったって」
「私は後半、意外と楽しめました~」

 ベネットは度胸があるようだ。
 ルカは――――と、言うと。

「お、おい。ルカ……火の魔法で早く服を乾かせ」
「え!?あ!あぁぁ~もう、ルシアンのバカっ!」

 何となくこうなる想像はしていたが、ルカの服がスケスケだった。ベネットは……何枚も重ね着していたようだ。
 咄嗟に俺は後ろを振り向いたが、何となくルカのボディラインとか胸の部分とか、色々と分かってしまった。

(アイツ。けっこうエロい身体してるな……)

 俺は直ぐにしゃがみ込んだ。
 立っていると、自分の下半身が目立ちそうだったからだ。この山では、色々と目の保養が出来た……と、思わずにはいられなかった。
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