魔法主義世界に魔力無しで転生した俺は、無能とバカにされつつも無能の『フリ』して無双する

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遅くなったけど人質救出始めます

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 『マジックイーター』というゲームのメインストーリーは魔王討伐であった。
 しかし、その魔王とは。この世界の唯一無二でありながらも、何代と続いた魔王歴史の結果でもあった。
 魔王にも当然、過去の背景が設定されているわけだ。

 ゲームでの討伐対象の魔王とは、プシュケスフィアで封じられた魂が、再起の宝玉を奪われる事により復活した魔王である。
 これは俺もハッキリ覚えていた。この世界では、レイチェルの絡みで少し展開こそ変わってしまったが。

 しかし、俺は大元を忘れていたのだ。
 プシュケスフィアを受ける以前は、死と転生を繰り返してきた魔王だったのだが。
 思えば初代魔王が誕生した経緯こそ。原点回帰として、ゲームにマジックイーターと名付けた決めてだった。つまりは、魔王誕生の歴史に由来させたタイトルなのだ。

 後の初代魔王、ブライトの歴史は、お婆ちゃんが話した通り。
 バカにされ続けた彼の、人々への恨みから全ては始まった。
 ブライトは自分の魔力だけでなく、他人の魔力もマジックイーターで喰らい続けていったのだ。
 その結果、最強の剣士となったが。同時に人としての心も失ってしまった。

 そんな力に溺れた魔王も遂に、一人の勇者により倒されたのだ。
 その時に魔王が喰い続けた、何万という人々の大量の魔力の源は、魔王の肉体崩壊と共に分散され。各地の泉へと散らばったのだ。

 後にそれは、魔力の泉と呼ばれる事になった。
 人々は、そのお陰で巨大な魔力を手に入れる事になり。魔法文化は大きく進展した。
 結果。剣よりも魔法に世界のバランスは変わり始めた。時代の流れと共にバランスはどんどん変わり、やがて剣術は廃れた。
 魔法主義の世界が築き上げられていったのだ。

 ついつい、俺までお婆ちゃんの話に夢中になってしまっていたが、考えてみれば自分が考えたシナリオじゃないか。
 だったら、あの夢のブライトとは初代魔王の事なのかもしれない。寧ろ、そう考えれば色々と辻褄は合うのだ。
 
(じゃあ、あのリリスという女性は誰だ?さすがにそんな細かい設定まではしていないしな。そもそも、何で俺の夢が魔王の記憶なんだよ……)

 単純に深層心理的な物かもしれない。魔王の設定だって忘れていただけだし。しかし、何かが釈然としなかった。
 それよりも。
 今はランド領主の人質の奪還をしなければいけない事を俺は思い出した。
 ルカとベネットは相変わらず話に夢中だ。まぁ、この様子なら安心して置いておいて大丈夫そうだ。

「――――国王になったブライトは、先見性も素晴らしかったそうよ。未来を読める、とまで言われていたほどにね。そのお陰で国の危機や数々の災害を未然に……」

 相変わらず、お婆ちゃんの話は息もつかせぬ勢いで続けられている。

「あのぉ……。僕はそろそろ行きますね」
「あら。まだ来たばかりじゃないの」
「もう、二時間は経ちますし……」
「ここからが面白いのよ?」
「あぁ。後は、彼女達にお願いします」
「残念ねぇ。じゃあお嬢さん達に伝えておくわね」
「はい。それでは失礼します」

 一体どれだけネタが出て来るのか気になったが、後から二人に聞けばよい事だ。そのうち、彼女達もウンザリしてくるのだろうとは思うのだが。
 俺は魔王の経緯を思い出せただけで、十分な収穫だった。
 そして。ルカとベネットとお婆ちゃんに見送られ、俺は場を後にした。

 気付けばスッカリ夜も更けていた。
 それから城へと戻り、そのまま玉座の間へ向かう。玉座の間の扉前には、やはりあの男が立ちはだかる。
 ワングと呼ばれる魔将の一人だ。と、いっても今。魔将は彼一人しかいないのだが。

 彼の勤務時間は二十四時間なのだろう。見た目人間だが、中身は魔物の設定だし、疲れる事は無いのかもしれないが。
 魔王軍というのはイメージ通りのブラック企業のようだ。
 それにしても、お婆ちゃんは魔王には天使の様な一面もあったと言っていた。そこら辺の話も興味はある。


「これは魔王様……」
「ついて来なくてよいぞ。ここで見張りを続けろ」

 一瞬戸惑ったようにも見えたが、俺の一言でワングはその場に立ち止まった。黙っていたら付き添って来るのは目に見えたが、魔王の力は偉大だ。
 言葉一つで屈服させるのは少し癖になる。
 お婆ちゃんの話で聞いた、ブライトが権力を得たかったのも少しは分かる気がする。

 俺は玉座を動かして迷宮に入った。
 迷宮の奥。あの広大な場所まで行くと、デモンズが居そうなので。とりあえず迷宮の中で牢屋が見付かる事を祈りながら、アチコチ移動してみる事にする。

 迷いながら三十分程迷宮を探した結果。
 薄暗い場所で鉄格子の扉を発見した。近付くと、それは間違いなく牢屋だ。
 中を覗いて誰かいないかを探す。

 並んでいる牢屋の三つ目にして、奥で女性が二人倒れているのが見えた。よく見ると微かに胸が動いている。
 一応、他の牢屋も覗いたが人質はこの二人だけのようだ。間違いなくランドの妻と娘だろう。

(あれか!まだ、生きてるぞ!)

 俺は直ぐに剣の一撃で鍵をぶっ壊す。
 結構大きな音がした。一応暫く様子をみたが、誰も来る気配はなかったので、迷宮には他に誰もいないようだ。
 俺は静かに扉を開けササッと中に滑り込む。

「大丈夫ですか?」

 身体を揺すってみると、微かに反応はある。
 しかし、見た感じガリガリに痩せ細っていて、体力は既に無い事が伺えた。いつからここに囚われているのか知らないが、何も食べていないのだろう。
 人質というより、子供が適当に捕まえた虫を虫籠に放置してるような扱いで。実際、二人は明らかに虫の息だった。

 とても自分で動ける状態では無いので、俺が二人を抱えて行く事にする。こんな時ベネットがいれば直ぐに回復が可能なのだが……大至急、彼女の所に連れて行くしかない。

(アイツ、嫌がるだろうなぁ……)

 ルカも多少は回復魔法が使えるが、ここまでの状態だとベネットの力が必要なのは明白。彼女の説得は後で考えるとして、再び迷宮を出る為に俺は慎重に行動を開始した。
 とはいえ問題は迷宮内ではない。
 玉座の間以降を無事に切り抜けられるかだ。ここで失敗したら、全てが水の泡になる気がした。
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