63 / 79
冒険者の血統
予想外の護衛
しおりを挟む
森の中を抜ける一本の比較的大きな道を、高い木の上から見詰めていると、やがて北側から一台の荷馬車がやってきた。
荷馬車には手綱を握る髭面の御者が一人と、後ろ向きで荷台に腰掛ける二人が確認出来る。
事前の情報通り三人で間違いないようだ。時間も大体予想通り。
南側に目をやると、予定通り商人を装ったトータルが待機している。
そして森の西側の茂みにヤンマが潜み、東側の大きな木の陰にはアンナが潜んでいる。
準備は万端。俺達の作戦を開始する。
先ずは北から来る商人の馬車が予定ポイントに到達した辺りで、トータルが大きく手を振って馬車に呼び掛ける。
「おーい! 旅の人。ちょっと手を貸してくれないか?」
すると馬車が止まり、荷台に乗っていた二人が何事かと降りてきて、トータルに歩み寄って行く。
一人はターバンを巻いた小太りな男で、もう一人はフードローブを着ていて顔も体格も分からない。
俺はゆっくり弓を引き絞り、木の上からフードローブを纏う者に狙いを定めた。
小太りはどう見てもただの商人だし、髭面の御者も特に問題ないだろうが。フードローブの者は少し怪しい。ローブの隙間から剣の様な物が見え隠れしているのだ。
北方大陸の剣持ちは危険だと聞いた事がある。
「どうかしましたか?」小太り男がトータルに話し掛けた。
それを見計らって、アンナとヤンマがそれぞれ森から飛び出す。
「動かないで!」とアンナは、手綱を握る御者の首元にナイフの先を突き付けた。
ヤンマは、小太り男とフードコートの背後から迫る。
気配を感じたのか、小太り男とフードの者が後ろを振り向いた所ですかさず──ノーマークになったトータルが、懐からナイフを取り出して小太り男の背中に押し付けて言う。
「おっと、動くとブスッといくぜぇ」
ここまでは計画通り。
残りはフードローブただ一人。俺が引き絞っていた弓を放つと、矢は木々の枝葉をすり抜け、高速でフードローブの者の右足首目掛けて飛んだ。
俺達のポリシーは基本〝殺さず〟である。
場合によってはやむを得ない時もあるが、殺しが目立つと後々面倒だ。
矢は寸分違わずフードローブの者の右足首を射抜く、はずだったが。
「なに!?」──外しただと?
奴はこちらには気付いていなかったはずなのだが、寸前で身体を動かされ、矢は地面に勢いよく刺さった。
偶然か? いや、違う! 奴は寸前で交わしたのだ。
奴のフードが脱げて、少し若い感じの男の顔が露になった。その視線は鋭く。確実に矢を見切った奴の眼だ。
しかし、俺の矢が万が一外れた時にも備えて、ヤンマは既に動いている。ヤンマが腰のシミターを抜いてフードローブに襲い掛かる。
だが。
ヤンマの目の前から男が消え、一瞬でヤンマの後ろに廻っていた。そしてヤンマのシミターは、男の剣により宙に飛ばされた。
「ちっ……」──やはり剣士だったか。
俺は直ぐに次の矢を取り出したが、さっきの一発で居場所を特定されたらしく。男は俺の方を見上げこちらに向かって剣をひと振りした。
なんだ? っと思った次の瞬間──激しいかまいたちが発生して、俺の足場だった太枝がスッパリと切断されたのだ。
「くそ! まずい……」
俺はバランスを崩しながら落下した。そして落下の最中。俺目掛けて男が走り込んで来るのが見えた。
咄嗟に俺は着地と同時に、地面から跳ね返る様にバク転してその場を離れ。直ぐに体制を整えて男に向けて弓を引き絞る。
「シュウ!」アンナが叫んだ。
「お前、なかなか良い動きするな」男が俺に呟く。
その時には既に男の腕の中にヤンマが捕らえられ、ヤンマの首には剣を当てられていた。
男はヤンマに剣先を近付け、命令する。
「早く商人達を解放しろよ」
「お前こそ、ヤンマを離せ」
俺も負けじと、弓を引き絞る。
暫く互いに動く事は無かった──いや。動けなかった。が……その時。南側から激しく地面を叩く様な音が聞こえてきた。
馬が走って来る音? それも複数か。
タイミングが悪い────動く事も出来ずにいると、直ぐにその場に八人、それぞれ馬に乗った者達が辿り着き、俺達を囲んだ。
辺りに響き渡る叫び声。
「全員武器を下ろしなさい!」
ん?女の声?
声の主は黒髪の可愛い女(おそらく隊長だろうか?)が全員に向けて続けて声を張った。
「これは、何事なの?」彼女の蒼く綺麗な瞳が全員を見る。
よく見れば、騎乗する全員が同じデザインの革の鎧を来ている。鎧に付いている紋章は確か──ヴェロスのギルド隊だ。
「我々はヴェロスに魔鉱石を運びに行く途中でして。そこを今しがた、この賊共に襲われていたのです」身振り手振りで、そう答える小太りの男。
「それは危ない所でした。今、あなた達を出迎えに行く所だったのです」女は申し訳無さそうな顔で言う。
なんてこった────どうやらこの商人は、ヴェロスのギルドへの仕事を請け負っていたのか。
厄介なのに手を出した。
荷馬車には手綱を握る髭面の御者が一人と、後ろ向きで荷台に腰掛ける二人が確認出来る。
事前の情報通り三人で間違いないようだ。時間も大体予想通り。
南側に目をやると、予定通り商人を装ったトータルが待機している。
そして森の西側の茂みにヤンマが潜み、東側の大きな木の陰にはアンナが潜んでいる。
準備は万端。俺達の作戦を開始する。
先ずは北から来る商人の馬車が予定ポイントに到達した辺りで、トータルが大きく手を振って馬車に呼び掛ける。
「おーい! 旅の人。ちょっと手を貸してくれないか?」
すると馬車が止まり、荷台に乗っていた二人が何事かと降りてきて、トータルに歩み寄って行く。
一人はターバンを巻いた小太りな男で、もう一人はフードローブを着ていて顔も体格も分からない。
俺はゆっくり弓を引き絞り、木の上からフードローブを纏う者に狙いを定めた。
小太りはどう見てもただの商人だし、髭面の御者も特に問題ないだろうが。フードローブの者は少し怪しい。ローブの隙間から剣の様な物が見え隠れしているのだ。
北方大陸の剣持ちは危険だと聞いた事がある。
「どうかしましたか?」小太り男がトータルに話し掛けた。
それを見計らって、アンナとヤンマがそれぞれ森から飛び出す。
「動かないで!」とアンナは、手綱を握る御者の首元にナイフの先を突き付けた。
ヤンマは、小太り男とフードコートの背後から迫る。
気配を感じたのか、小太り男とフードの者が後ろを振り向いた所ですかさず──ノーマークになったトータルが、懐からナイフを取り出して小太り男の背中に押し付けて言う。
「おっと、動くとブスッといくぜぇ」
ここまでは計画通り。
残りはフードローブただ一人。俺が引き絞っていた弓を放つと、矢は木々の枝葉をすり抜け、高速でフードローブの者の右足首目掛けて飛んだ。
俺達のポリシーは基本〝殺さず〟である。
場合によってはやむを得ない時もあるが、殺しが目立つと後々面倒だ。
矢は寸分違わずフードローブの者の右足首を射抜く、はずだったが。
「なに!?」──外しただと?
奴はこちらには気付いていなかったはずなのだが、寸前で身体を動かされ、矢は地面に勢いよく刺さった。
偶然か? いや、違う! 奴は寸前で交わしたのだ。
奴のフードが脱げて、少し若い感じの男の顔が露になった。その視線は鋭く。確実に矢を見切った奴の眼だ。
しかし、俺の矢が万が一外れた時にも備えて、ヤンマは既に動いている。ヤンマが腰のシミターを抜いてフードローブに襲い掛かる。
だが。
ヤンマの目の前から男が消え、一瞬でヤンマの後ろに廻っていた。そしてヤンマのシミターは、男の剣により宙に飛ばされた。
「ちっ……」──やはり剣士だったか。
俺は直ぐに次の矢を取り出したが、さっきの一発で居場所を特定されたらしく。男は俺の方を見上げこちらに向かって剣をひと振りした。
なんだ? っと思った次の瞬間──激しいかまいたちが発生して、俺の足場だった太枝がスッパリと切断されたのだ。
「くそ! まずい……」
俺はバランスを崩しながら落下した。そして落下の最中。俺目掛けて男が走り込んで来るのが見えた。
咄嗟に俺は着地と同時に、地面から跳ね返る様にバク転してその場を離れ。直ぐに体制を整えて男に向けて弓を引き絞る。
「シュウ!」アンナが叫んだ。
「お前、なかなか良い動きするな」男が俺に呟く。
その時には既に男の腕の中にヤンマが捕らえられ、ヤンマの首には剣を当てられていた。
男はヤンマに剣先を近付け、命令する。
「早く商人達を解放しろよ」
「お前こそ、ヤンマを離せ」
俺も負けじと、弓を引き絞る。
暫く互いに動く事は無かった──いや。動けなかった。が……その時。南側から激しく地面を叩く様な音が聞こえてきた。
馬が走って来る音? それも複数か。
タイミングが悪い────動く事も出来ずにいると、直ぐにその場に八人、それぞれ馬に乗った者達が辿り着き、俺達を囲んだ。
辺りに響き渡る叫び声。
「全員武器を下ろしなさい!」
ん?女の声?
声の主は黒髪の可愛い女(おそらく隊長だろうか?)が全員に向けて続けて声を張った。
「これは、何事なの?」彼女の蒼く綺麗な瞳が全員を見る。
よく見れば、騎乗する全員が同じデザインの革の鎧を来ている。鎧に付いている紋章は確か──ヴェロスのギルド隊だ。
「我々はヴェロスに魔鉱石を運びに行く途中でして。そこを今しがた、この賊共に襲われていたのです」身振り手振りで、そう答える小太りの男。
「それは危ない所でした。今、あなた達を出迎えに行く所だったのです」女は申し訳無さそうな顔で言う。
なんてこった────どうやらこの商人は、ヴェロスのギルドへの仕事を請け負っていたのか。
厄介なのに手を出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜
咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。
そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。
「アランくん。今日も来てくれたのね」
そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。
そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。
「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」
と相談すれば、
「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。
そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。
興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。
ようやく俺は気づいたんだ。
リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる